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2025.05.29

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終活やーめた。元祖バッシングの女王、泉ピン子さんのピンチをチャンスに変えるピン活!

実用書以上のなにかをあなたに

私が物心付いたときから、すでに泉ピン子さんは“おばちゃん”のアイコンであった。しかし、関西という上沼恵美子文化圏で生まれ育った私にとって、その立ち位置は少し微妙で、縁遠い東京の“おばちゃん”くらいであった。ただ「もう子どもは寝る時間」と親から言われて、なかなか見せてもらえなかった日本テレビの『テレビ三面記事 ウィークエンダー』のレポーターとして登場する彼女と、朝丸時代の桂ざこば師匠、そしてエロシーンが必ず織り込まれた再現VTRの面白さだけは強烈に覚えている(あれを超えるTVショーは、もう作られることはないだろう。下世話過ぎて)。

さて、今回紹介するのは喜寿(77歳)を迎えられた泉ピン子さんの本である。これが大変に面白くて、興味が湧いて、ついにはSpotifyで1曲だけ聴ける『駄目な時ゃダメさ』をヘビロテする昨今である(マジ名曲!)。よって以下、ピン子先生と呼ばせていただく。

本書は“「ピンチを福に転じる」思考法”なんていう、ちょっと実用書っぽいサブタイトルも付いているし、ピン子先生も「はじめに」でこう書いておられる。
私の拙(つたな)い経験でも、
もしかしたらピンチに直面している誰かの励みになるかもしれない。
年齢問わず、今がピンチだと感じる人に
手にとっていただけたら嬉しいです。
けれど、正直に言おう。
一般人が簡単にピン子先生の生き方を真似られると思ってはならない!
あなたのピンチなど、ピン子先生の苦労の前では、風呂桶を跨(また)ぐようなもの!

たとえば第1章の冒頭「私はなぜ終活をやめたのか」で、歳も取ったので、そろそろ自分の身辺を整理しようと思ったピン子先生。クローゼットのブランドものや宝石類を映像に残すのも良いかと思ってテレビの取材を受ける。
そうしたら、あろうことか、私の元にいろんなところから手紙が送られてきました。「ぜひ、そのブランドバッグや宝飾品の数々を私にお譲りください。それを売って借金の返済に回そうと思います」って。冗談じゃないわよ! なんで見ず知らずの人に、私が汗水垂らして働いたお金で買った思い出の品々をあげなきゃならないのよ! それを売って借金を返そうなんて図々しいにも程がある! ……でも、そういう人たちって神経が極太で、恥も外聞もないものだから、「譲ってくださるまで、手紙を出し続けます」ってしつこいんです。それも、一人じゃなくて、何人もの人が似たような手紙を寄越すんだから……。
これほどに、一般人が味わうことのない苦労があるだろうか!

ピン子先生が終活をやめた理由がもうひとつある。
熱海で生活を始めて買い物するのも一苦労のピン子先生。歳をとり家事も億劫になって、料理を作る気にならない。それでお気に入り銘柄のリンゴを、一日6個とか食べていたら、栄養失調になってしまった!
終活なんてものに勤しむエネルギーがあったら、まず自分の体を大事にする方を優先すべきだと思った
そこ? それが理由?
そして夫との土曜のディナーは、レタスたっぷりの豚しゃぶ一択になったそうである。
なにか、どこかで理屈が破綻している気がするのだが、これでいいのだ。喜寿を迎えた人間が、怒り、好きなものを食って、自分に素直に生きてなにが悪い。が、「レタスのほかに、ほうれん草も加えてください」と願う自分がいる。

ピンからキリまでの生き方

私の芸名の“泉ピン子”は、大好きな父がつけてくれたものです。「今はこの名前ヘンだけどな、いいかぁ、売れてきてみろ。絶対によくなる」と力説していました。“泉”という苗字は、この名前で大成した芸人がいないからと、敢えての挑戦。ピン子のピンには、“ピン(最上)からキリ(最低)まで”のピンの意味が込められています。
ピン子先生はドラマ『おしん』や『渡る世間に鬼ばかり』で国民的女優となり、まさしく“ピン”を獲ったわけだが、同時に“キリ”のバッシングも受け続けてきた。ピン子先生が『ウィークエンダー』時代にワーストタレント1位に選ばれたときのこと。
そうしたら、ウチの父親が喜んで喜んで(笑)。「お前、なかなか1位なんてとれないんだぞ、美空ひばりより上だぞ」と。内心、「そういう褒め方あるかな?」って思ったけど、父は何があっても私の味方なんだって、そこは心強く思えました。
だからといってピン子先生だっていい気はしない。取材を受けてもマウントをとりたがる人ばかりで、根性が曲がり、かなり態度が悪かったことも自認している。そのうえで、こう語っている。
でも、今度生まれ変わったらやめる。どんなにムカつく相手の前でも、ニコニコしてみせるわ(笑)。
生まれ変わったらやめる!
これほどの強い開き直り、割り切り方に清々しさを感じないだろうか。これこそがピン子先生、最大の魅力である。
周りに敵が多い人、バッシングされやすい人は、そんなことでいちいち傷ついていたら時間の無駄です。百人の敵よりも、大切なのは一人の理解者。みんなに好かれようなんて思わなくていいから、夫でも恋人でも友人でも、自分のことを本当にわかってくれて、対等の立場で気持ちをぶつけられる人を見つけて、その人のことを大事にすればいい。
誰もがそう思えるわけじゃないけれど、この言葉には間違いなく真実がある。

そんなピン子先生を支えた数々のビッグネームの方々との交遊録も、この本の読みどころである。橋田壽賀子、杉村春子、森光子に西田敏行。西田敏行と高級しゃぶしゃぶを食べに行った話とか、ピン子先生の“推し”である矢沢永吉がお隣さんだった話とか、めっちゃくちゃ面白いので絶対に読んでほしい。あと、この本に収められているピン子先生の日常やコレクションの写真について、ぜひ言っておきたいことがある。
ピン子先生のメガネのセンスはピカイチである。同じメガネ者として心からリスペクトしかない。最高。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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