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2025.03.20

レビュー

なぜキレる? キレる子どもの気持ちと対応法を児童精神科医が解説します!

いま、「キレる子ども」が増えているそうである。大人だって毎日何かしらの怒りを覚えるような社会に生きているのだから、もちろん子どもがその影響を受けないわけはない。とはいえ、当事者にとっては悩ましい問題だ。解決の糸口が見つからず、子どもも親も怒りとストレスに心身を破壊され、共倒れになってしまうおそれもある。

本書は、そんな「キレる子ども」に悩む保護者に向けた実践的ガイドブックである。25年以上の臨床経験を培ってきた著者(長野県立こころの医療センター駒ヶ根・子どものこころ診療センター長の原田謙氏)が、さまざまなタイプの実例を挙げながら解決法を提示していく。
この本ではキレる子どもとの接し方として、「暴力・暴言の止め方」など、さまざまな対応方法を紹介していきます。それらの方法に取り組めば、子どものキレる行動は減っていくでしょう。
しかし、ただ方法を覚えるだけでは、十分とはいえません。たとえ合理的な方法でも、やり方をなぞるだけでは、いずれうまくいかなくなります。
(中略)ノウハウを覚えるだけではなく、子どもと向き合いながら、対応を試行錯誤していく必要があるのです
キレる子どもの対処法には、特効薬や劇的解決テクニックなどがあるわけではない。解決には必ず時間がかかることを認識したうえで、子どもが抱えている心の奥の問題と向き合い、保護者自身のアンガー・マネジメントも含めた取り組み方、考え方から学んでいく1冊となっている。だからこそ、実践的内容なのだと言える
マンガ:めやお
「学校でキレて、友達を蹴ってしまう子」「親の前では『いい子』だけど、学校では切れてしまう子」「ほしいものを買ってもらえなくて、わめき散らす子」「ゲームをやめさせようとすると、激しく抵抗する子」など、マンガとともに挙げられる事例はわかりやすく明確で、それぞれのケースに応じて読み始めてもいいだろう。対処法やデータを示すイラスト・グラフ等をふんだんに配したページ構成も、読む人にストレスを与えない。保護者に寄り添うような(そして「キレる子ども」当事者をおろそかにしない)姿勢が全体に貫かれている。
イラスト:めやお
言うまでもなく「キレる」とは俗語である。怒りの感情が我慢の限界を超えて一気に露わになる様子、などと説明されることが多い。だが、正当な怒りを表明する場合や、よくない言動をした相手に対して「叱る」といった行動とは、性質が違う。大人が「キレる」ときは、問題の本質から目を逸らさせる計算高さや、相手を支配しようといった悪辣な意図が混じっているときも多々あるが、むしろ子どもが「キレる」ときは、正反対のコントロール不能な精神状態にあることが少なくない。

怒りの感情を持つことは、決して悪いことではない。ただ、その発露の仕方が度を越していたり、弱いものに向けられたり、悪質な暴力として常習化したりすると、本人も家族も周囲も傷つくことになってしまう。そういう極端な状態を直そうとすること、つまり怒りをコントロールする術を身に着けるということは、逆に言えば人間的成長を遂げるうえでは絶好のチャンスともいえる。その道はとても険しいものではあるが。

子どもが「キレる」のは多くの場合、SOSの表現だ。なぜわかってくれないのか、なぜ自分のつらい思いを汲んでくれないのか、どうしてできないことを強制するのか、なぜ自分が正しいのに信じてくれないのか……そういった不条理への苛立ちが積み重なって、コントロール不能な「怒り」となって噴き出してしまう。だから、問題を解決する方法があるとすれば、子どもが「どうしたいのか」「本当は何を伝えたいのか」を知ることが先決だろう。そこでやっと道は切り拓ける。
イラスト:めやお
子どもが落ち着いたら、あまり時間をあけずに「振り返り」の対話をしましょう。この対話の目的は、子どもに反省させることではありません。子どもがどんな気持ちだったのか、大人が理解することです。「悪いことだと思わなかったの?」などと詰問しないでください。子どもは基本的に、悪意を持って暴れているわけではありません。何か耐えられないことがあって、その気持ちが反抗的な言動として出ています。子どもの思いを汲み取ることを意識しながら、その子の言い分に耳を傾けてください。
だが、怒りの感情に支配され、殻に閉じこもってしまった子どもには、本心を伝えること、言語化することが難しくなることもある。そういうときに親子が断絶しないための方法も、本書はいくつかのやり方で示してくれる。親密になれるスペースや時間が確保できない場合など、なかなか難しいこともあるかもしれないが、それぞれの家庭環境に合わせて、アジャストすることも可能だろう。本書はそのヒントも与えてくれるはずである。
暴力や暴言を止めれば危険な状況をひとまず回避できますが、それだけでは問題の根本的な解決にはなりません。
危機介入を行って状況を落ち着かせたあとには、その子が抱えている怒りを理解する必要があります。そして、その怒りをどうコントロールするのか、どう表現するのかを子どもに伝えていくことも、必要になります。
「キレる子ども」と向き合うことは、何より相手を理解しようとするプロセスであることが、この本を読むとよくわかる。それは親と子がともに手を携えて成長していく、かけがえのない時間になるかもしれない。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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