「発達障害・グレーゾーン」の子ども支援の目のつけどころ
『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル』は、発達障害を持つ子どもたちへの“支援スキルの大全集”です。
彼らが感じていることやサポートのための目のつけどころから「効果的なほめ方・教え方」「こだわりとの向き合い方」「気になる行動の予防法」までを網羅した1冊です。著者は発達支援コンサルタントの小嶋悠紀さん。小学校教諭として、現場で20年近く子どもたちと接してきた経験があります。可愛い漫画とイラストは、発達障害についての多くの作品を持つかなしろにゃんこ。さんによるものです。多くの子どもたちと関わる中で、小嶋さんが「発達障害・グレーゾーンの子どもたちに効果があると感じた」考え方・接し方に基づき、よい支援を行うための100のスキルを伝授してくれます。
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達バランスに関係する障害です。行動や認知の特徴(特性)によって、優れた能力を発揮することもあれば、特性ゆえに集団に適応できなかったり、人間関係や環境とのミスマッチが起きることもあります。
また、発達障害の可能性は考えられるものの、診断基準には満たない「グレーゾーン」と呼ばれる人たちもいますが、発達障害・グレーゾーンであることは見た目では判断できません。さらに子どもの場合は、自分の特性を理解したり、今感じていることをうまく言葉にすることは難しいのです。
そのため周囲からは「自分勝手」「変わった子」と思われてしまうことも少なくありません。
他の子に比べて落ち着きがない、すぐ泣く、パニックになる……同学年の子は落ち着いてできることが、どうしてうちの子には難しいんだろう。友達を叩いてしまう、素直に謝れない、勝ちにこだわる……どうしてそんなに攻撃的なんだろう。子どもに感じる「わからない」「どうしてそうなる?」という疑問に答え、問題行動に対する支援スキルを教えてくれるこの本。ちょっと気にかかる子、対応に困ってしまう子……そんな子どもたちへの対応方法が具体的にわかります。
知るだけでも理解が進む! 「発達障害の子が見ている世界」
発達障害の子どもがとる「周囲が問題視する行動(この本では"問題行動"と呼んでいます)」は、彼らの特性と、人間関係をふくむ生活環境の相互作用のなかで起こりますが、原因が何であれ、支援のためには発達障害特有の認知(物事の捉え方や考え方)が、定型発達の人のそれとは違うことを知っておく必要があります。
例えば「子どもにとって、ほめられることは嬉しいこと」。多くの場合はそうでしょう。しかし、
発達障害がある子は、そもそも「ほめられること」が「いいこと」だと認識できていない場合があります。そのような子を「すごい!」「上手!」と称賛するだけでは、怪訝(けげん)な顔をされるだけです。
彼らの特性を理解して、こちらの意図や思いをより確実に届ける方法をとらなくては気持ちが伝わらないと、小嶋先生は言います。褒(ほ)めるなら、点数、数字といった誰の目にも明らかな尺度を用いて「どれぐらいできているか」を示し、「褒められている(いいことだ)」と子どもが理解できるようにする必要があるのです。
第一章「発達障害のある子が見ている世界・感じていること」では、こういった発達障害の子の特性を踏まえて、彼らの中で普段どんなことが起きているのかを解説します。
たとえば、「なぜみんなに合わせられないの?」「好き嫌いが多くてわがまま」と考えてしまいがちなこんなときは……。
とりわけ大事なのが、「感覚過敏かもしれない」と考えてみることです。
発達障害の子どもたちは、視覚や聴覚、嗅覚といった感覚にまつわる問題を抱え、日常生活の中で苦痛を感じることがあるといいます。「触られる感触が苦手で、人の近くに居たくないのかも」「味覚が過敏で、食べられないのかも」などと考えてみると「わがままな子」と決めつけていた時には見えなかったものが見えてくるかもしれません。
発達障害・グレーゾーンの子どもたちが見ている世界と、定型発達で育った大人たちが見る世界には大きな隔たりがあることをこの章は教えてくれます。特性を踏まえて接することで、子ども本人の生きづらさ、困りごとはもちろん、親が感じる周囲の目やプレッシャーから解放されるかもしれません。また、紹介されるスキルがどんな理論に基づいているのかも、この章をしっかり読んでおくことで理解が進むと感じました。
どこから読んでもOK! 具体的なスキル
発達障害の子のことを理解したいのはもちろんだけど、今すぐやめてほしい行動がある! そんなときは、目的に沿ったページから読みましょう。「こだわりを止めたいなら」「私語が多すぎるときは」といった具合に、「どんな時に何をすればいいのか」が、目次を見るだけですぐわかります。
良かれと思ってやったことも、発達障害の子には伝わりにくい場合もあるため、「発達障害の子の視点で」いい対応には“〇”、惜しい対応に“△”、よくない対応は“×”をつけるなど、「わかりやすさ」のための工夫がなされています。
ひとつのテーマが見開き2ページほどに収まっており、読み返しやすいです。細かなポイントも漫画のおかげで一目瞭然、「やるべき対応」「望ましくないこと」がよく理解できるでしょう。
本書で紹介されるスキルに共通しているのは「子どもに寄り添おう」という姿勢です。そうした接し方の積み重ねは、子どもを一時的に静かにさせる、感情を抑えさせるだけのものではありません。自分の特性と、また他者との折り合いをつける力を身につけ、自分の力で生きていけるようにするための積み重ねでもあるのだと感じました。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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