刀の単位は「本」じゃない?
先日、とある道場で日本刀を初めて握りました。日本刀なんて時代劇と博物館でしか見たことがなかったのもあって、終始しどろもどろ。刀の外装は拵(こしらえ)と呼ばれ、握る部分のグルグル巻きは「柄巻(つかまき)」で、刀のお手入れには椿油や丁子油(ちょうじあぶら)を使って……バーッと一気に教わり、ひたすらしどろもどろ。
その道場には、ドラマ『SHOGUN』の影響で海外からのお客さんが大勢来るのだそうです。国内のお客さんも多く、なかでも若い女性が「自宅で刀剣をキレイに飾る方法」について相談に来ることも。こちらはゲーム「刀剣乱舞ONLINE」の影響でしょう。ゲームやドラマが日本の刀剣を熱くしているんですね。
そして相撲や落語、茶道や能・狂言などの日本文化を学べる児童文学「おはなし日本文化」シリーズにも、日本の刀剣をテーマとした『めざせ、刀剣マスター!』があります。このシリーズは小学校高学年から読める内容ですが、大人が読んでも楽しいんです。ページのどこをひらいても知識の宝庫。
「天下五剣? なにそれ?」
「日本刀の傑作五振(けっさくいつふり)のことよ。あ、刀は“一本二本”じゃなくて“一振二振(ひとふりふたふり)”って数えるのよ。おぼえておきなさい」
そして日本文化としての刀を知ることは、歴史、地理、国語、美術の世界に触れることでもあるんです。
刀の歴史は日本の歴史
「『鬼切丸(おにきりまる)』を忘れとるぞ!」
玄関のほうから声がした。と思ったら、庭にゆらりと人影が……。
「あ、おじいちゃん」
近くに住んでいるおじいちゃんだった。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「県立博物館で、刀剣の展示会があると知ってな。なんでも国宝や、ふだん見ることのできない貴重な刀剣も展示されるらしいんだ。(中略)とくに『鬼切丸』のすばらしさを、奈々と瀬那にどうしても教えたいと思って、とんできたんだよ」
このおじいちゃんがまるで刀博士のようで、刀剣展示会の親切な副音声ガイドのように瀬那にいろんなことを教えてくれます。例えば、古墳時代には、西洋の剣のように両刃のものと、片刃の刀が存在していました。
「でも、なぜ剣と刀の二種類を作ったの? どちらかひとつでよくない?」
「うーん、これはあくまで想像なんだがね……」
両刃の剣をあつかうには、力も技術も必要。それに比べて片刃の刀は軽くて扱いやすい。
「そこで、古墳時代では、ふだんから戦いの訓練をしていた貴族が両刃の剣を、ふだんは労働者だった身分の低い兵が片刃の刀を使っていたんじゃないか、ともいわれてるんだ」
『七星剣』を前に、お姉ちゃんの奈々は聖徳太子がどんな人なのかをスラスラ語り、おじいちゃんは『七星剣』の構造や意匠について解説。例えば断面に特徴があります。

刀由来の言葉もたくさん!
でも、日本式の製鉄法は古くからあったんだって。いつはじまったかは、正確にはわからないけど、千四百年ぐらい前には作られていたらしい。
「最初は、西洋風に鉄鉱石を使ったらしいが、すぐに砂鉄に変わった」
「どうして?」
「日本には鉄鉱石がほとんどないからだよ。社会の授業でも習うぞ。いま日本の製鉄業は、原料の鉄鉱石を百パーセント輸入にたよっているって」
百パーセント!
「そこで古代の日本人は砂鉄を使ったんだ。これを『たたら吹き』という、日本独特の製鉄法で『玉鋼(たまはがね)』にしたものが、日本刀の材料なんだよ」
もうひとつ、たたら製鉄のお話で勉強になるなと感心したところを紹介します。
砂鉄を鉄にするには、三日三晩ぶっとおしで、炉の温度を千四百度に保ちつづけなければならないんだって。
ってことは七十時間以上、ふいごは踏みっぱなし?(中略)
「もちろん交代制さ。三人一組で、一時間踏んだら、二時間休む。ふいごを踏む人を『番子(ばんこ)』っていうんだが、『かわりばんこ』っていう言葉は、ここから生まれたんだぞ」

刀の鑑賞ポイントは?
「でも、どうして三日月? 刀の反り方が三日月っぽいってこと?」
「刃文(はもん)の上を見てごらん。三日月の形をした模様が見えるだろう?」
ほんとだ。
「あの模様は『打除(うちの)け』といって、焼き入れのときにできるものなんだ」
刀造りの最後の工程のときだね。
「刃文をたなびく雲に見立てると、打除けが雲の上に浮かぶ三日月のように見える。そこから『三日月宗近(みかづきむねちか)』と名づけられたんだ」
「三日月宗近」に「大典太光世(おおでんたみつよ)」、そしてもちろんおじいちゃんが愛してやまない「鬼切丸」の歴史についてもおじいちゃんの大演説が聞けますよ。お楽しみに!

ただの物体としての刀を表面的に知るのではなく、時代ごとの刀の役割と歴史を学べる本です。まさに刀剣マスターになるための1冊。どこを開いても「へえ!」と感心して、まるで瀬那たちのおじいちゃんのように刀のことを誰かに教えたくなりますよ!