日本文化を知るための児童書
小学上級から読める児童文学「おはなし日本文化」シリーズの『ドッシリ! どす恋』が取り上げる日本文化は「相撲」。日本の国技である相撲は、日本文化のひとつであり、つまり一般的なスポーツや格闘技とはちょっと違います。では、どのあたりが違っていて、どこがおもしろいの?
そんな疑問と、相撲のよさを子どもに伝えるための物語です。なるほどこうやって子どもと日本文化が出合うのかと感心しました。どんどん先を読みたくなっちゃう。そして大人が読んでも楽しい相撲入門書としての側面も持ちます。
ぼくが相撲大会に出る?
翔くんの小学校では、5年生からクラブ活動が始まります。翔くんはサッカー部に入るつもりでした。たしかにサッカーはカッコいいもんね。
そんな翔くんがどうやって相撲と出合ったかって? 翔くんの祖母“あーちゃん”がきっかけでした。
母さんが説明してくれた。
町の体育館脇に相撲土俵がある。5月の終わりごろ、そこで相撲大会をやるらしい。
小学生の部に、ぼくが出るっていうんだ。
あーちゃんが勝手に申し込んじゃったんだ!
(中略)
「言ってなかったっけ?」
聞いてないよ!
まただ。なんでも思いついたら自分で決めて、とんとんと話を進めちゃう。あーちゃん得意の先走りだ。
「翔ちゃん、落ち着きがないって通信簿に書かれたでしょ。いつもソワソワして、なんかフワフワしてるしね。相撲の稽古をすると、落ち着きが出てくるんだから。」
本作は、翔くんが美彩ちゃんに向ける気持ちがすごくいいんです。美彩ちゃんの心からうれしそうな顔を見ると、翔くんはなぜだか胸がポッと明るくなったり、美彩ちゃんがそんなに相撲を好きならがんばって稽古しようかなと思ったり。
四股がいちばん重要
あーちゃんが買ってくれた『相撲入門』という本で、文化や歴史のページは飛ばしてトレーニング法を調べると、こんなことが書かれていました。
稽古(相撲では練習のことを稽古っていうんだ)の基本は「四股(しこ)、すり足、鉄砲」。その中でも「四股がいちばん重要」って書いてある。(中略)
四股って……ただの下半身強化のトレーニングじゃないんだって。「神事」なんだって。
翔くんがせっせと四股をふんでいると、あーちゃんが「最低でも片方に1分かけなきゃ。左右で2分くらいかな」なんてアドバイスをくれます。長くない? そう、長いんです。
どうして小学生でも相撲ができるの?
相撲ならではの魅力その1は、シンプルなこと。あーちゃんはこんなふうに解説します。
「土俵の外に出るか、足の裏以外を土俵についたら負け。それだけなんだよ。そういうルールが江戸時代から続いているんだ。だから大人も子どもも、誰が見ても楽しめるんだ。よく考えたね。」
「格闘技って、相手にダメージを与える技が多いだろ。でも相撲はそれがないんだよ。荒々しいイメージがあるけど。がっぷり組んで、力を出して、相手を寄り切る。これが基本なんだ。」
だから、小学生の大会があるんだ!
そんな翔くんの成長ぶりがうれしいあーちゃんは、翔くんをこんな場所にも連れて行ってくれます。