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2025.01.14

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神事からエンターテインメントへ! 知っているようで知らない日本文化「相撲」を学ぼう

日本文化を知るための児童書

「さあ日本文化を学びましょう」と言われると身構えてしまうけれど、物語を通して日本文化に触れると、その文化そのものが見せてくれるすてきな世界を、やがて自分のものにできる気がします。

小学上級から読める児童文学「おはなし日本文化」シリーズの『ドッシリ! どす恋』が取り上げる日本文化は「相撲」。日本の国技である相撲は、日本文化のひとつであり、つまり一般的なスポーツや格闘技とはちょっと違います。では、どのあたりが違っていて、どこがおもしろいの?

そんな疑問と、相撲のよさを子どもに伝えるための物語です。なるほどこうやって子どもと日本文化が出合うのかと感心しました。どんどん先を読みたくなっちゃう。そして大人が読んでも楽しい相撲入門書としての側面も持ちます。

ぼくが相撲大会に出る?

桜並木の名所“花ノ木小学校”に通う“錦戸翔”くんは、この春小学5年生になったばかり。元気で行動力があるけれど、忘れ物が多くて、じっとしているのが苦手で「少し落ち着きがない」なんて通信簿に書かれてしまう男の子。翔くん本人もその自覚がちょっとあるようです。

翔くんの小学校では、5年生からクラブ活動が始まります。翔くんはサッカー部に入るつもりでした。たしかにサッカーはカッコいいもんね。

そんな翔くんがどうやって相撲と出合ったかって? 翔くんの祖母“あーちゃん”がきっかけでした。
母さんが説明してくれた。
町の体育館脇に相撲土俵がある。5月の終わりごろ、そこで相撲大会をやるらしい。
小学生の部に、ぼくが出るっていうんだ。
あーちゃんが勝手に申し込んじゃったんだ!

(中略)
「言ってなかったっけ?」
聞いてないよ!
まただ。なんでも思いついたら自分で決めて、とんとんと話を進めちゃう。あーちゃん得意の先走りだ。
あーちゃんの“先走り”は、錦戸家では伝統のようなものらしいです。そして今回の先走りに翔くんは大慌(おおあわ)て。相撲なんてやったことがないし、興味もない。「大きな人たちが裸で、へんな髪型して。古くさい感じがする。サッカー選手とは全然ちがうじゃん」なんて思っています(わかる)。そもそも、できっこないよ! でも、あーちゃんはこんなことを言いました。
「翔ちゃん、落ち着きがないって通信簿に書かれたでしょ。いつもソワソワして、なんかフワフワしてるしね。相撲の稽古をすると、落ち着きが出てくるんだから。」
それでも納得いかない翔くんのボヤきがとてもおもしろい。精いっぱい抗議します。ところが、翔くんは相撲大会のために熱心に稽古をするように。なんでかって? それは同じクラスの“美彩”ちゃんがいるから。翔くんは美彩ちゃんに淡い恋心を抱いていました。その美彩ちゃんが、実は大相撲の大ファンだというのです。

本作は、翔くんが美彩ちゃんに向ける気持ちがすごくいいんです。美彩ちゃんの心からうれしそうな顔を見ると、翔くんはなぜだか胸がポッと明るくなったり、美彩ちゃんがそんなに相撲を好きならがんばって稽古しようかなと思ったり。

四股がいちばん重要

美彩ちゃんという強力なきっかけに押された翔くんはトレーニングを始めます。

あーちゃんが買ってくれた『相撲入門』という本で、文化や歴史のページは飛ばしてトレーニング法を調べると、こんなことが書かれていました。
稽古(相撲では練習のことを稽古っていうんだ)の基本は「四股(しこ)、すり足、鉄砲」。その中でも「四股がいちばん重要」って書いてある。(中略)
四股って……ただの下半身強化のトレーニングじゃないんだって。「神事」なんだって。
おっ、なるほどね。本書では、そんな私の気持ちを察するように、いいタイミングでミニコラムも登場します。
横綱の土俵入りのなんともいえない清廉で神々(こうごう)しい空気は、なるほど「神事」だからなんですね。

翔くんがせっせと四股をふんでいると、あーちゃんが「最低でも片方に1分かけなきゃ。左右で2分くらいかな」なんてアドバイスをくれます。長くない? そう、長いんです。
「少し落ち着きがない」なんて学校の先生から言われちゃう翔くんは、一生懸命、ゆっくり、四股をふみます。翔くんの見つめる時計がサッカーボールなのがかわいい。

どうして小学生でも相撲ができるの?

本書で私が一番「なるほどなあ」と思ったのが「相撲ならではの魅力」に、美彩ちゃんと翔くんが自分で気づいていくところ。たぶんこれは大人の私にはもはやちょっと難しくて、小学5年の翔くんたちだから心の底から答えを見つけられたと思います。

相撲ならではの魅力その1は、シンプルなこと。あーちゃんはこんなふうに解説します。
「土俵の外に出るか、足の裏以外を土俵についたら負け。それだけなんだよ。そういうルールが江戸時代から続いているんだ。だから大人も子どもも、誰が見ても楽しめるんだ。よく考えたね。」
たしかに、小学生の頃に大相撲の中継をボンヤリ見ていたけれど、ちゃんと勝敗がわかって楽しかった。そしてもうひとつ大事なことを、あーちゃんは翔くんに教えます。
「格闘技って、相手にダメージを与える技が多いだろ。でも相撲はそれがないんだよ。荒々しいイメージがあるけど。がっぷり組んで、力を出して、相手を寄り切る。これが基本なんだ。」
だから、小学生の大会があるんだ!
自分が今やっていることと、日本文化の相撲が、翔くんの頭の中でつながった瞬間です。さあ、四股をていねいに練習した翔くんは、うまれてはじめての相撲大会でどんな取組を見せる?

そんな翔くんの成長ぶりがうれしいあーちゃんは、翔くんをこんな場所にも連れて行ってくれます。
国技館で大相撲観戦! いいなあ! もちろん、あーちゃんによる相撲観戦の作法や文化のレクチャー付き。今の日本人が相撲を楽しむ方法、そして相撲の精神にもふれられる豊かな児童書です。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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