今年、家族で中国・上海を訪れました。さすがパンダの本家ともいえる国。街の至るところでパンダグッズを目にしました。友人いわく「中国の人たちはそれぞれ“推しパンダ”がいるほどパンダ好き」とのこと。真偽はさておき、娘もパンダのぬいぐるみに一目惚れし、日本に連れ帰ることに。
コロンとした体型、のんびりした動き、垂れ目に見える愛らしい表情。パンダは、誰もが思わず「可愛い……!」と呟(つぶや)いてしまう唯一無二の動物ではないでしょうか。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
日本でパンダに会える動物園といえば、上野動物園と和歌山のアドベンチャーワールドが有名ですが、実は兵庫県の神戸市立王子動物園にもパンダがいたことをご存じですか? 「神戸のお嬢さま」と呼ばれたパンダ・タンタンと二人の飼育員が築いた深い信頼の物語が、1冊の本としてまとめられました。
2024年10月23日に発売された『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』は、予約が殺到し、発売前に増刷が決定した話題作。著者の杉浦大悟氏は、タンタンの密着番組NHK『ごろごろパンダ日記』でプロデューサーを務めた人物です。5年密着してきたからこその丁寧な取材内容で、タンタンはもちろん、パンダの生態まで解説されています。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
タンタンは、阪神・淡路大震災で傷ついた神戸の復興支援の一環として、2000年に来日しました。共にやってきたコウコウとともに復興のシンボル的存在となり、人々に笑顔をもたらしてきました。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
しかし、のんびりと暮らしていたタンタンにも悲しい出来事が訪れます。来日から8年後に子どもを産みましたが、4日後に失うことに。さらに数年後には、パートナーのコウコウも突然亡くなってしまいました。こうしてひとりぼっちになったタンタン。飼育員の梅元さんと吉田さんは、一頭で暮らすタンタンが毎日過ごしやすいように懸命に寄り添い、信頼関係を築いていきます。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
本書では、2021年にタンタンが心臓疾患を発症してからも、幾度も奇跡が起きたことが描かれています。その中で驚いたのは、タンタンが「ハズバンダリートレーニング」を習得していたことです。これは健康管理の一環で、動物が好物をもらいながら検査や治療に必要な動作を行う訓練ですが、動物が覚えるには長い時間と辛抱強い訓練が必要です。奇跡が起こった背景には、病気が発症する前からタンタンのことを第一に考えてきた二人の飼育員の想いと、深い信頼関係があったのです。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
では、動物から信頼を得るにはどうしたらよいのでしょうか。
愛情を注ぐだけでなく、相手のペースに寄り添い、時に忍耐をもって接することが求められます。梅元さんと吉田さんがタンタンに寄り添い、命を託される者としての責任感を持って接してきた姿勢が、まさに信頼の土台なのです。
自分たち飼育員は、動物たちの「命」を預かっている。
タンタンが食べるものに関しては、絶対に自分がなんとかしてみせる。
動物園の動物たちも、私たちのペットも、その命は人間に委ねられています。このことを忘れずに接することが信頼を築く第一歩です。ペットを飼っている読者も多いでしょう。タンタンと飼育員たちの物語は、ほっこりしながらも気持ちが引き締まる1冊です。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
本書は全ページにルビが振られているため、子どもから大人まで親しめる内容です。ぜひご家族みんなでタンタンの生涯、「パン生」に思いを寄せてみてください。
提供/神戸市立王子動物園(本文より)
レビュアー
Micha
ライター。フリーランスで働く一児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!
X(旧Twitter):@Micha_manga
Instagram:@manga_sommelier