ADHDを理解したうえで最善の対応策を学べる1冊
何度注意しても、静かにすべき公共の場で騒いでしまう。
いくら言っても忘れ物が続いたり、宿題に集中できなかったりする。
頻繁に癇癪を起こして、よくモノに当たってしまう。
そんな我が子の子育てに悩む親御さんや、教育現場の方々にとっての、福音となり得る1冊だと思う。
監修者の榊原洋一氏は、お茶の水女子大学の名誉教授。
インターネット上の「子ども学」(Child Science)の研究所である「CRN(CHILD RESEARCH NET)」の所長を務め、約30年にわたって発達障害の一種である「ADHD」に関する啓蒙活動を進めてきた、この分野の先駆者のひとりである。
まず本書の第1章「『ADHD』ってどんなもの?」では、ADHDについての概要を紹介。
生まれつき「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特性を持つ発達障害の一種であることを明示したうえで、幼児期・学童期・青年/成人期と、年齢別に現れがち、大人になっても残されがちな症状を解説している。
さらには、おもな原因として「脳機能の偏り」が解明されつつあり、決して両親の「育て方」が原因というわけではないことを明確に提示。
「ADHDがどんなものかはおおよそ理解できた。ではどう対処すればいいの?」
その疑問に答えるのが、その後に続く第2章~第5章だ。
第2章は「相談」の章。「我が子がADHDかもしれない」と考えた保護者の方々が「どこに、誰に相談すればいいのか」がわかる内容になっている。一番身近な「学校の先生」に加えて、榊原氏が啓蒙活動を始めた約30年前と比較して大幅に増えているという、ADHDについて相談できる窓口を紹介。「発達障害者支援センター」や「精神保健福祉センター」、「自治体の福祉課」など、無料で相談できるさまざまな組織の存在を知ることができる。
第3章は「治療」の章として、専門医のかかり方と治療法を紹介。そもそもどんな病院の何科を受信すればいいのか、治療法にはどのようなものがあるのかなどを学ぶことができる。
その中では「薬物療法」「行動療法」「環境変容法」という、ADHD治療に効果があると言われる治療法の三本柱について解説。なにより、よく知らないと抵抗を感じてしまいがちな「ADHDの治療薬」4種類に関しても、効果が出る仕組みやそれぞれの特徴なども学ぶことができる。
第4章では「ペアレンティング」(子育て)にスポットを当て、ADHD改善のために親御さんができること、を学ぶことができる。
「受け入れる」「ほめる」「叱らずに導く方法を身につける」など、親御さんの意識改革、対応変容についての提言から始まり、さらには「宿題をやらない」「忘れ物が多い」「整理整頓ができない」「友だちとトラブルになる」など、ADHDに見られがちな具体的な症状への対処法が列挙されているのが、非常に実用的に感じられる。
何より、すべての項目に対して図版やイラストが多用されているので、読みやすいうえに理解もしやすい。「理解→相談→治療→子育て→連携支援」という形で、ADHD対応に必要な情報が過不足なく提示されている構成もお見事。
本書で「ADHDを説明するときに用いられるたとえ」として挙げられていたのが「レーシングカーのエンジンを持っているが、自転車用のブレーキしかついていない」という言葉。
本書はまさに「ADHDの当事者が、ブレーキの性能を上げて自分らしく生きるため」、「ADHDの子どもを持つ親御さんが、お子さんおよびご自身の人生を幸せに、前向きに生きるため」の虎の巻、ともいえる1冊だ。