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2024.08.29

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くり返す腹痛・下痢・便秘から脱出するには?「過敏性腸症候群」を徹底解説!

「過敏性腸症候群」を知ったのは、知人の体験談からだった。彼は通勤中、腹痛を感じては電車を降りてトイレに立ち寄ると語り、「通勤に時間がかかる」「駅のトイレが埋まっていると焦る」「だから日々空いているトイレの場所を覚えるようになった」と教えてくれた。昔からお腹の弱い私としては他人事と思えず、それ以来ずっと気になる病気だった。

タイトルの通り本書は、「過敏性腸症候群」についての一冊だ。この病は英語で「Irritable Bowel Syndrome」と表記され、その頭文字を取って「IBS」と呼ばれている。「Irritable」という形容詞には、「『過敏な』とともに『イライラさせられる』の意味もある」そうで、患者にとっては自身の気持ちを的確に表す言葉だろう。2016年に設定された診断基準は以下の通りで、成人と小児(おおよそ8歳以上を指す)では一部異なっている。


なお「過敏性」という名前から「ストレスに弱い人がなる病気」といったイメージもあるが、上記の診断基準にそのような記載は見当たらない。そのため病気の呼び方について、著者はこう断言する。

確かにストレスに弱い人が「メンタル」や「ストレス」が関連するIBSをこじらせやすいということはあるが、イライラさせられる原因は「メンタル」や「ストレス」だけではない。そこで本書の本文などは、誤解されやすい「過敏性腸症候群」ではなく、「IBS」と表記する

排泄(はいせつ)にまつわる話は、そもそも他人に相談しにくい。その上、色眼鏡で病気をとらえてしまったら、踏み出せるものも踏み出せなくなってしまう。治療の第一歩は、病気に対する正しい理解だ。そのためにはまず思い込みをなくし、症状の原因と治療の方法を具体的に知ることが重要。そう考えると著者の姿勢は、病に苦しむ人やその周囲の背中を押す最善手といえる。

著者は1965年に北九州市で生まれた。慶應義塾大学医学部を卒業した医学博士で、大腸内視鏡検査やIBSと便秘の診断、治療を専門としている。現在は国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長を務めながら、慶應義塾大学客員講師(IBS便秘外来)も兼務している。また、国内外で広く導入されている「浸水法」と呼ばれる大腸内視鏡検査法の開発者でもあり、当時の患者との関わりがIBSに興味をもつきっかけだったそうだ。

本書ではIBSの具体例にはじまり、腸のしくみから病型とタイプ、原因に対する検査と診断、治療法や使用する薬の一覧から日常生活の送り方に至るまでが、全4章にわたって幅広く解説されている。イラストと図解をふんだんに交えた内容は、いずれも専門的ながらわかりやすく読みやすい。気になる症状がある方は、目次を眺めて自身のそれと似ている記述や、気になるところから読むのも良いだろう。

個人の「体質」に由来するIBSは、8歳から10歳の思春期以降に発症するケースが多く、有病率は中学生6%、高校生14%、成人13.1%となっている。なお小児では性別での有意差はないものの、成人の場合は男性13%、女性は16%と差があり、男性は下痢型、女性は便秘型が多いという。そして興味深いのは、「腸の形」とIBSとの関係だ。

一般的に腸は、人体の中で「四角い形」として描かれている。しかし日本人のうち、そういった腸を持つ人はわずか2割ほどで、多くの日本人の腸の構造や形には大きな個人差があるそうだ。中でもIBSの患者には、「ねじれ腸」や「落下腸」といった内視鏡が入れにくい大腸の形を持つ人が多い。著者は「浸水法」を開発する過程でこの事実に気づき、腸の形がIBSの原因の一つであることをつきとめた。


ちなみに著者はその後、「人類の腸は四角くないのが普通」と思っていたものの、さらなる事実が判明し驚いたという。

ドイツの大学で内視鏡の指導のためにドイツ人やロシア人の検査をしたとき、彼らの大腸内視鏡の入れやすさに唖然としました。画像で見ても四角いので、本当に大きな衝撃を受けました。四角くない腸は、人類の普通ではなかったのです。

なんと! 諸外国の人の腸は、本当に四角いのか。著者の受けた驚きが想像できるのと同時に、自分の腸の形も気になってきた。はたして私の腸は、いったいどんな形をしているのだろう。大腸内視鏡検査を受ける時が来たら、無理を承知で担当医に聞いてみたい。

レビュアー

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田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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