アインシュタインが一般相対性理論を発表してから今年は100周年にあたります。光と重力の問題を対象にしたこの理論ですが、アインシュタインより200年以上前に、おなじ光と重力を研究対象にした物理学者がいました。ニュートンです。この本は2人の天才物理学者がどのようにその研究に取り組み、彼らがもたらしたものでどのように物理学、天文学の世界が広がっていったかを一望できる通史ともなっています。
ニュートンがどのような時代に生きていたのかからこの本は始まります。そしてあの有名なリンゴと重力の話の逸話……世界中に広まったこの話、「本人が本当に話した史実である」ようです。リンゴのエピソードを絵にした明治の日本の版画が紹介されています。ユーモラスなニュートンのイメージからは「ニュートンに付いての知識はほとんどなかった」けれど「リンゴのエピソードが一人歩きして、広く流布していた」からではないかと小山さんは記していますが……。
そしてプリズムを持ったニュートンの像から小山さんは実験家として光学にも多大な貢献したニュートンの業績を紹介しています。
「孤高の思索の中から多くの偉大な業績を生みだした」ニュートンとアインシュタインですが重力と光学で2人は交錯することになります。
「二人の天才が光と重力に向き合い続けたという事実が示しているのは、このテーマこそが物理学の枠組みを象っているということに他ならない」のです。
読み進めるうちにこの2人の天才に共通している信念が浮かび上がってきます。
それはニュートンの、
「神は宇宙空間に実体として遍く存在すると明言している」
という言葉と、アインシュタインの
「神はサイコロ遊びをしない」
という言葉が教えてくれるものです。
それは2人が〝絶対〟というものを求めたということなのではないでしょうか。
〝時間〟と〝空間〟に〝絶対的なもの〟を求めたニュートン。けれどそれは〝絶対的なもの〟ではありませんでした。それを否定したのがほかならないアインシュタインの相対性理論です。
けれど相対性理論も最初から物理学者に受け入れたわけではありませんでした。発表された当時の相対性理論はむしろ「認識論とのかかわりから、哲学者たちの間で盛んに議論されて」いたというアレニウス(スウェーデンの科学者)の言葉を小山さんは紹介しています。さらにくわえて小山さんは「相対性理論は物理学賞の対象としては、少し異質であるというニュアンス」がアレニウスの論には感じられるとまで記しています。それゆえにということもあるのでしょう、アインシュタインのノーベル物理学賞の対象は「光電効果の理論」でした。
さて、ニュートンの〝絶対〟を相対化したアインシュタインは自ら〝絶対的なもの〟の探求に向かいます。
そして彼が見出したのが重力場の方程式です。そこには「宇宙をなんとしても静的で安定した状態に保ちたいというアインシュタインの強い信念が感じられる」ほどでした。
けれど「宇宙はアインシュタインが望んだように静的ではなく、動的な存在」でした。ではアインシュタインの考えは、かつて彼がニュートンの限界を指摘したように限界があったのでしょうか……。
この本末尾のページにこのスリリングな問いかけがあります。ぜひ一読してください。
ニュートンとアインシュタインという個性あふれる天才の姿、彼らに触発された多くの物理学者、天文学者の功績を追いながら、小山さんは彼らの理論がどのような中で生み出され、発展させられてきたのかを私たちの目のまえに再現してくれます。「孤高の思索の中から多くの偉大な業績を生みだした」2人の天才の思索の歴史はそのまま物理学史・天文学史ともなっているのです。それを一挙につかむことのできる好著だと思います。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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