株式市場は本来、経済活動の「派生」であり、実体経済の動きに沿って上下するものです。株式市場の最大の特徴は価格発見機能があること。良い企業が高く評価され、悪い企業が安く評価されることで、正しい資本分散ができるようになり、経済全体の無駄がなくなります。
マーケットは実体経済に先行して動く性質を持っているとされるので、景気の先行きについても教えてくれるわけです。
しかし、リーマン・ショック以降はこれらの特徴はほぼすべて失われてしまいました。
株式市場はもはや実体経済を表すものではなく、主要国の中央銀行が提供する「流動性」のバロメーターになり下がりました。つまり、経済ありきの相場から、相場ありきの経済に移ってしまったと言っても過言ではありません。
それでも株も賃金もまだまだ上がる?
簡単に言えば、現在の株式相場は、本来あるべき姿である「業績相場」から、各国政府の金融政策等を先読みした投資家たちの思惑や、経験則に沿った動きのほうが優先される「金融相場」に変わってしまっているということ。
その上で「この相場体制もそろそろ終わりに近づいている」とも語っている。「日本でも今後、インフレが定着する。インフレの脅威が金融緩和の時代を終わらせ、金利のある世界が戻ってくる。それにより『相場の価格発見機能』も復活する」というのがエミン氏の見立てだ。
もう一人の著者、永濱利廣氏は『日本病』(講談社現代新書)の著者。日本経済の今を「低所得・低物価・低金利・低成長」という「日本病」にかかっていると語り、積極的な財政出動で安定的なインフレ率2%超えを実現すべきと語っていたエコノミストだ。
※同書は2年半ほど前の著書であり、以降の日本はインフレ率2%超えを達成している。
「2025年には日経平均5万円」と語るエミン氏と、日本経済に対して比較的、悲観的な印象がある永濱氏。二人の対談ということで、異論がぶつかり合う展開が予想されたが、思いのほか二人の未来予測に親和性があるのが意外だった。
純粋に株式相場に関する未来予測の結論としては、短期的には大幅な下落もあり得るが「それでも株も賃金もまだまだ上がる」ということ。『「エブリシング・バブル」リスクの深層』というタイトルから、現在の株高・バブルの崩壊に警鐘を鳴らす内容かと思ったら、新NISAのスタートもあり、インフレ(=貨幣価値の下落)に対抗すべく投資への意欲が高まっている日本人からするとホッとする未来予測になっている。
世界経済のダイナミズムを感じられる一冊
本書はそれら、現在の世界経済に影響を与えているさまざまな事象やイベント、各国の事情や思惑について、かなり幅広く語られている。以下は、その一部だ。
●2024年11月に予定されているアメリカ大統領選挙について
●ウクライナの決着がつかない理由
●日銀およびFRBの金融政策についての先読み
●不動産バブルの崩壊を迎えている中国の未来
●投資先として人気を集めているインドの行く先
●円キャリートレードの影響による円安がどこまで続くか
●国策ともいえる円安・インフレ誘導により起こりうる未来
●国民の不満がたまることでおきる政権交代の可能性
●NVIDIAをはじめとする半導体・AIバブルが今後、どうなるか
●EV関連銘柄の投資先としての将来評価
そのすべてを把握・理解することはやはり難しくはあるが、それぞれのトピックが対談の中で有機的につながっており、スムーズに興味深く読める構成になっている。私にとってこの一冊は、世界経済のダイナミズムを感じられる一冊だった。
投資初心者である私でも、流石(さすが)に株価の上下がそれぞれの企業業績を反映する形だけで展開されている、とは考えていない。政策金利の上下によって投資先としての債権との優劣も変わるし、為替の影響も大きい。今年の春先~夏の間、過度とも思える円安により日本が投資対象として魅力的になることで、日経平均が大きく上がっていたことも記憶に新しい。
などとわかったようなことを言ったところで、もちろん株価も為替も「何が起きたらどう動くのか」なんて短期的にはわかるわけがない。やはり短期トレードに手を出さず、地道に指数に積み立てていくしかないな、というのが、この本を読んでの私の結論です。