人気お笑いコンビ、トム・ブラウンの合体コントが、なんと絵本になった。どういうネタかというと、トム・ブラウンのボケ担当=みちお(坊主頭)があるものを合体させて「スーパー○○」を作りたいと言い出し、勢いよく合体させていくとそこに別のものが混ざってしまい、おかしな合体結果が生まれるたびにツッコミ担当の布川ひろき(ロン毛)が「ダメー!」と猛然と突っ込むというのが基本フォーマット。
どんどん脱線を繰り返し、エスカレートしていく掛け合いは観る者を異常なワンダーランドへと連れて行くが、最後はどういうわけか紆余曲折を経て「スーパー○○」がめでたく完成。すると「できたんで帰りま~す」と爽やかに、なんの執着もない様子でステージから去っていく。狂気にも似たハイテンションに満ちていながら、無邪気な子供の空想世界に触れているような楽しさを味わわせてくれるコントだ。
そんなトム・ブラウンの独特の世界を、絵本と「合体」させてしまうというアイデアがなんとも慧眼(けいがん)。いろいろなものを合体させてスーパー○○を作る→そこに異分子が混ざって○○+△△になる→どんどんエスカレートした挙げ句に元に戻る、という発想は確かに知育にも効果的で、イマジネーションを育てる訓練にもなるだろう。ある意味、数学的であり、理学的であり、文学的ですらある。
ストーリーは彼らのコントをもとに、本書のクリエイターチームが作り上げたオリジナル。布川・みちおの2人は「出演」として、ほぼ全ページに登場する。テレビで観ている人気者が主役の絵本なら、子どもたちも嬉しいはずだ。
おはなしは、みちおが「パンを5つ合体させて、最強のパン、『キングパン』を作りたいんですよ~」と言い出すところからスタート。布川も「見てみたいかも~」と、いつもどおり(ツッコミ役らしからぬノリの良さで)受け入れ、さっそく合体開始。ところが案の定、そこにチンパンジーが1匹混じってしまい、見たこともない生き物が誕生してしまう。
映画ファンならハエと人間が合体してしまう『ザ・フライ』(1986)を連想するかもしれないが、絵柄的にはアニメーション映画の名作『ザ・ビートルズ/イエロー・サブマリン』(1968)のシュールで奔放、かつ愛らしいビジュアルを彷彿させる。
その後もパンチパーマやパンクバンドなど予想外の「がったい!」が繰り返され、愉快な脱線が展開していくが、最後にはディズニー映画もびっくりのファンタジックで壮大な光景が見開きいっぱいに広がる。子どもたちはカラフルな異世界のビジョンに夢中になるだろうし、大人も読み聞かせしながら思わず感動してしまうのではないだろうか。
舞台では2人の言葉と動きだけで奇想天外なイマジネーションを展開し、観客の想像力をひたすら喚起させて不思議な世界を作り上げていくトム・ブラウンのコント。そのイメージを絵として具体化させてしまうことで、逆に魅力が半減してしまうのではないかという若干の懸念もあった。しかし、まったくの杞憂(きゆう)であった。そんなことで揺らぐようなヤワなコントではなかったし、絵本の作り手もその魅力をしっかり熟知して取り組んでいるので、むしろ相乗効果を生んだ成功例と言える。
素朴さを残した描線のタッチ、手描きの魅力を活かした彩色、快いリズムを生み出している各ページの構図/全体のページ運びの構成など、絵本ならではの魅力にも注目だ。また、ちょっと怪物めいた佇(たたず)まいを持つトム・ブラウンの2人の個性も、絵本タッチでイラスト化するとちょうど可愛くなるというのも発見であった。
実際の彼らのコントと同じく、合体する素材を変えればいくらでもシリーズ化可能だ。本書ヒットのあかつきには、ぜひ続編も検討していただきたい。
レビュアー
ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。