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2024.09.18

レビュー

さかなクン推薦! 怪しくて不可思議なタコについて「タコ博士」が解説

すごいぞ、「タコの本当の姿」

『タコのなぞ 「海の賢者」のひみつ88』は、主に小学生のために書かれた本ではあるが、大人にもぜひ読んでいただきたい。二度見ならぬ“二度読み”をしてしまう文章の宝庫だ。そしてひとたび小学生が手に取れば、この本で語られるタコのひみつのうち、たった1つだけで教室が「マジで~~~~!」と大騒ぎになること請け合いだ。

そんなタコのひみつが88もある。読みながら「まだあるの!?」と感心してしまうくらいタコの話がノンストップかつ全速力だ。ちなみに私が「まだあるの!?」とリアルにつぶやいたのは、88のなぞのうち、わずか6番目だった。つまり冒頭からずっとタコが不思議でおもしろい。最高!

著者は琉球大学教授の池田譲先生(小学生のときのあだ名はイケ)。日本一のタコ学者だ。

タコ学者の池田先生は「タコにはなぞがあるのです」と冒頭で打ち明けたのち、タコの体、能力、生態、誕生から死までのサイクル、それからイカとの違いやタコの先祖(これが大変かわいい)、世界各国のタコ事情、さらにタコ文化や「おいしいタコの見分け方」なんてことも教えてくれる。期待以上のタコづくし。

テーマの幅広さもさることながら、それぞれが小学生の読者に向けて語られているところがとても楽しい。例えば「タコの血」について、池田先生はこんなふうに切り出す。

ころんで膝小僧を擦りむいたとき、何かに鼻の頭をゴツンとぶつけたとき、赤い、鮮やかな色の血が出ます。動物たちも血を流します。まな板の上で切られる魚からも、赤い血がにじみ出ています。
ちょっと待てよ。タコを切ったら赤い血は出るかな?
出ません。

出ないんだ? もうこの時点で教室は「ぎゃー!」と大騒動だろう。たしかに生のタコを食べても「血」を見かけたことがないな……。池田先生はさらに続ける。

それならタコには血が通っていないのかな? タコは動物なのにどうして?(中略)
ここで、血の役割を考えてみましょう。(中略)
血液の中にはヘモグロビンという物質がたくさんあり、これが酸素をくっつけて運んでくれます。ヘモグロビンは赤い色をしているので、血液は赤色に見えるのです。でも、動物のなかには血液にヘモグロビンではない酸素の運送屋さんを持つものもいます。タコがそうです。(中略)
タコも敵に襲われて腕が切れると血がワッと噴き出しますが、ほとんど透明なので分からないのです。

どうですか、見事だと思いませんか。タコを切っても赤い血が出ない謎の解説とともに、まず「血液とは何であるか」という点に触れている。ということでタコの話は科学の話につながっているのだ。

そしてこのお話はこんな一言で締めくくられる。

でも、きっとタコも「イタタタタ」と言っているでしょう。

池田先生のタコ愛とユーモアが伝わってくる。ちなみにタコの痛覚については、まだ謎のベールに包まれたままだと別の章で述べられていた。ね、タコだらけでしょ?

タコは触ることで世界を見る

タコのすごさは体だけに留まらず。とても賢い。

タコは大きな脳の持ち主です。(中略)
タコはものの形を覚えたり、迷路を解いたりできます。
また、瓶の中に入れられた大好物のカニが目の前に置かれると、瓶のフタを器用に開けてカニを捕まえることもできます。海の中でカニは瓶詰めされて売られてはいませんから、タコは初めて瓶詰めのカニを見て、それをどのようにしたら手に入れることができるか、ちょっとやってみるだけで分かってしまうのです

タコやるなあ。しかもタコは優れた目をもち、その目を使って図形を区別できる。さらにこんな迷路だって解ける。


大好きなカニがある部屋を目指して迷路を突破するタコ!

タコは外から見ただけで、部屋がどこにあり、どこを通ればよいか理解したのです。こんなこと、よく見える目じゃないとできませんよね。タコはすぐれた視覚の持ち主なのです

そしてタコの優れたセンサーは「視覚」だけにあらず。そう、8本ある腕だ(タコのあれは腕で、足じゃないんです)。タコの腕は、味までわかっちゃうセンサーの塊だ。そしてもちろん「触覚」がある。このタコの視覚と触覚の関係が、じつにおもしろいのだ。

「十字模型に触るとエビがもらえる」とタコに学習させた池田先生は、次にこんな実験をする。模型じゃなくて図形をタコはどう理解する?

では、端末モニターに十字図形を映し出し、それをタコに見せるとどうでしょうか。十字模型を触ったことがなく、初めて十字という形を見るタコで実験します。先ほどの十字模型と同じように、映像の十字図形を触ったらご褒美のエビをあげるようにします。

タコはカニだけじゃなくエビも好きなんだね。そんなタコのチャームポイントにニッコリしつつ、タコの賢さテストの結果を見ると……?

ところがどうしたことでしょう。タコは端末モニターに十字図形が映し出されても、それを触りに来るようにはなりません。

えっ、タコどうしちゃったの? 賢いんじゃないの? 池田先生はさらにテストを重ねる。これらのテストは「タコの知能はどのようなものなのか」に迫るものだ。

そこで、学習できなかったタコに、十字模型を見せてエビをあげる訓練をします、するとタコは十字模型が出てくるとそれを触るようになります。学習できました。このタコに十字図形が映る端末モニターを見せてやります。すると今度は、モニターに十字図形が映し出されるやタコは一直線にそれを触りに行きました! タコは、十字模型とモニターに映る十字映像を同じ十字図形と理解したのです。
このことは大切なことを教えてくれます。それは、タコは初めて見るものを触らないとそのものが分からないということです。(中略)
タコは「腕で考える動物」とも呼ばれています。触ることはタコがものをイメージするときに欠かすことができません。タコは触ることで世界を見るのです。

迷路の実験でタコが「あそこにカニがある!」と目で見て気がついたのは、そうか、タコはカニを腕で何度も触ったことがあるからなんですね。さらに池田先生はタコの視覚と触覚のより深い連携についても驚くべき研究結果を教えてくれる。

触ることで世界を見るタコの「社会性」についても本書は触れている。蛸壺に1匹だけで入るタコは、他のタコのことなんてどうでもいい? ここでもタコの腕が活躍するので楽しみにしてほしい。

そんな賢くも謎多きタコは、人生の終盤に産卵をする。そして産んだ卵たちを、美しい藤の花のようにフサフサと織り上げる。それは「海藤花」と呼ばれる。命を振り絞って卵の世話をするタコがその目で見ているものや、卵に触れる腕を想像すると胸にくるものがある。

怪しくも美しく、そしてヘンテコなタコの謎に満ちた本だ(装丁や各ページのデザインが怪しげでかっこいい。ぜひカバーを外してみてほしい)。大騒ぎの教室や、静まりかえった教室が目に浮かぶ。読み聞かせも最高に楽しいだろう。なにせ読みあげる大人も「えっ!?」とびっくりできるのだから。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori 

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