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2024.06.10

レビュー

モルヒネ、アスピリン……人類の危機を救った重要な8つの薬を深く知る!

「科学をおもしろく学べる」と銘打った“ぴかりか”シリーズの第3弾となる本作のテーマは、「薬」です。

ポップなイラストにわかりやすい図解、さらにクイズや「深ぼりコーナー」もあり、子ども向けのように見えて実は、大人も楽しめる解説本となっています。

多くの人は、長い人生の中で幾度となく、薬を使用する機会があると思います。風邪薬や傷薬、胃腸薬など薬にも様々な種類がありますが、本書では、これまで人々を苦しめてきた痛みからの解放や、治療は不可能とされていた病気を治す薬など、人類の危機を救った8つの薬を、その発見や誕生といった歴史から仕組み、さらには問題点にも触れながら図解や写真、イラストを織り交ぜてわかりやすく解説。

なぜその効用がもたらされるのかといった気になるポイントも、優しい図解のおかげでスラスラと頭に入ってきますし、薬の発見や開発にまつわる意外なエピソードも紹介されていて、楽しみながら読むことができます。

全身麻酔手術成功の影に、大きな犠牲あり!?

たとえば本書第2章で“手術の痛みの救世主”と紹介されている麻酔薬。大きな手術はもちろん、歯の治療でお世話になっている人も多いと思います。かくいう私もそのひとり。章の冒頭では「開発年表」を見開きで掲載。麻酔薬がどのような経緯を経て発見・開発されてきたのかがひと目でわかる仕組み。パッと目を引くのは、やはり日本人の存在です。

華岡青洲。江戸時代の医師です。紀元前3000年まで遡るという、人類と痛みの戦いの歴史のなかで、世界初の全身麻酔手術に成功したのが、この華岡青洲です。しかし、麻酔薬完成に至るまでには、こんな悲劇も。

青洲は多くの本を読み、チョウセンアサガオとトリカブトという植物が、麻酔薬として効き目がありそうだと考えました。これらは中国で昔から鎮痛薬として使われていたものだったのです。長年の研究のすえ、青洲は、チョウセンアサガオとトリカブト、そのほか数種類の薬草を調合した麻酔薬「通仙散(別名・麻沸散)」を、ついに完成させました。研究には母と妻が協力し、試作の麻酔薬を飲んだ母は亡くなり、妻は副作用で失明したともいわれています(諸説あり)。

最後の(諸説あり)にわずかな救いを求めたくなります……。今は基礎研究から動物を使った非臨床試験、そして3段階にもわたる、人を使った臨床試験を経て承認され、販売となる薬。しかし当時はこんな開発・実験体制はありません。先人たちは自分自身や家族、さらには周囲の患者を使って実験をしていたことが記載されています。多くの人たちの、様々な工夫や努力、ときには偶然によって新しい薬が開発されてきたという歴史にも触れられるのが、本書の醍醐味のひとつ。

また、本章のまとめにはこんな記述も。

全身麻酔、局所麻酔ともに、これまで多くの麻酔薬が誕生したけど、じつは、どういうしくみで効いているのか、まだよくわかっていないところもあるんだ。

サラッと怖いことが書いてあります。私は先述のとおり、歯の治療でよく麻酔のお世話になりますが、実は効きが弱く、抜歯途中で麻酔が切れる、あるいは麻酔が効かず痛みに耐えながら治療されることも。効く仕組みがわかれば、効かない原因もわかりそう。私にとって麻酔のメカニズム解明はとても重要なテーマなのです……。

薬の王様・アスピリンの秘密

次に紹介するのは「薬の王様」「超薬(スーパードラッグ)」と呼ばれる、解熱・鎮痛剤として有名なアスピリンです。アスピリンを開発したのは、もともと染料会社だったドイツのバイエル社。合成染料の原料や副産物から新たな製品(薬など)が生まれることもあったそうです。発売から120年以上経った今でも、世界80ヵ国以上で売れているとのこと。薬界の大ベストセラー・アスピリンはもともと商品名でしたが、あまりに売れまくった結果、現在は一般名として浸透しているのです。

そんなアスピリンが、なぜ痛みに効果があるのか、発売から約70年経った1971年までわかっていなかったというこれまた衝撃の記載が。麻酔薬に続いてあなたもか。この仕組みを解明したイギリスの薬理学者は、のちにノーベル賞を受賞しました。

体の痛みや炎症、発熱は、細胞内でプロスタグランジンという物質が大量につくられることで起こります。この物質は、細胞膜にあるアラキドン酸という物質に酵素が働くことでつくられます。酵素は2種類あり、アスピリンは酵素の働きをブロックすることで、プロスタグランジンがつくられるのを防ぎ、痛みや炎症、発熱を抑えているのです。

アスピリンによる解熱・鎮痛のメカニズムが、コンパクトなテキストと図による相互補完のかたちで解説されているため、とてもわかりやすいです。

多くの人にとって身近な薬。適量を服用すれば人を助け、過剰に摂取すれば毒にもなる、デリケートな存在です。薬の開発の歴史から効用や仕組みなどを知ることで、薬そのものへ解像度が高まるだけでなく、古くは紀元前の昔から、人類も同じ悩みを抱え、様々な犠牲を経ながら薬をつくり、克服してきたのか……という先人たちへの愛着も湧いてきました。

科学の本でありつつ、歴史や文化人類学の一端も楽しめる味わい深さもまた、本書の大きな魅力です!

ぴかりか 世界を変えた薬

編 : 講談社
監 : 船山 信次

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レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009 

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