厚生労働省の発表〈「第16回健康日本21(第2次)推進専門委員会資料(令和3年12月)」〉によると、日本人の平均寿命は男性が81.41年で女性が87.45年。これに対して「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義される健康寿命は、男性が72.68年で女性が75.38年なのだそうだ。つまり、「日常生活に制限のある健康ではない期間」が、男性の場合8.73年、女性の場合12.06年! これ、長すぎませんか? 私は正直怖い!
大半の人は「日常生活に制限のある健康ではない期間」を介護保険に頼る。にもかかわらず、過去・現在において両親や親族の介護経験がない人は、しっかりした介護保険の知識を持っていない。ソーシャルワーカーさんとケアマネージャーさん、ホームヘルパーさんの違い、わかります? かくいう私も、自分の両親は郷里の兄夫婦まかせで知識ゼロのクチ。その反省も込めて、しっかりした知識を持っておこうと本書を読んだ。
介護保険制度は3年に1度改正される。本書は、2024年に改正された最新の制度に基づき、見開き1テーマ、わかりやすいイラストを使って図解する1冊になっている。私のような知識ゼロの人間はもちろん、はじめて介護保険を使う人、はじめて介護の仕事に携わる人、利用中の介護サービスを見直したい人など、広く「使える」内容になっている。
オーダーメイド感覚のサービス設計
介護保険は、一定の年齢になったら、申請の書類が送られてくるしくみではありません。介護保険を利用するには、自分たちで申請しなければなりません。そのうえで、介護サービスが受けられるか、どの程度まで利用できるかが決まります。申請からサービス開始までおおむね30日かかります。
この第1章のとっぱしから、「え~っ、そうなの!」と衝撃を受ける。介護保険を利用したことのある経験者にしてみれば「そんなことも知らないのか!」という内容だろうが、無知とは恐ろしい。介護保険制度は申請主義なので、介護サービスを受けたいという本人や家族が能動的に動き出さないといけない。それを知らないと、戸口にも辿り着けないのだ。
介護保険サービスを利用するには、市区町村への申請→訪問調査を受ける→要介護認定(要支援1・2、要介護1~5、もしくは非該当)を受け→ケアマネージャーを探して契約を結び→ケアプランを作成して会議を行い→サービス事業者と契約して介護サービス開始、という流れになる。
その工程は一見すると、面倒! しかし本書を読むと「なるほど介護サービスというのは、本人や家族の希望、状況を汲み取って組み立てられるオーダーメイドのサービスなのだな」だと分かる。自分の体型に合ったスーツを仕立てるには、店に通わなければいけないのと同じだ。
さらに言い加えるなら、カードゲームにも近い。要介護認定(カード枚数の決定)に合わせて、ケアプランという戦略を立てる(カードを切る)。ただし、介護保険ですべてのニーズを満たすのは難しい(カードの不足)。そこで市区町村の裁量で介護保険が利用できる+αのサービスや、民間サービスやボランティアなど地域資源の利用も範疇に入れる(盤上のカードを引く)。そのカードを引けるかどうかは、その情報をキャッチできるかどうかにかかっている。つまり、介護保険サービスを支えるスタッフとの意思疎通や、関係構築が重要になってくる。
また、受けるサービスの内容についても、くわしく紹介されている。例えば訪問介護入浴。
髪の毛をとかす、爪切り、クリームを塗る、はサービスに含まれるが、洗濯に使うからお湯を残してほしいとか、マッサージをしてほしいといったお願いは避ける。サービスを受ける側として、知っておくと心強い線引きも紹介されている。ほかにも訪問介護、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、施設に宿泊するショートステイの利用、さらには自宅介護ができない場合の介護保険施設の利用までしっかりカバー。
介護保険についてしっかり理解しておくと、親や自分の「日常生活に制限のある健康ではない期間」に対する漠とした不安は、かなり解消される(あと、本書と同じ牛越博文氏が監修した『介活入門 将来の介護に備えて、今やるべきことがわかる本』も読めば、さらに解像度が上がること間違いなしだと思う)。ただし、介護保険ですべてが解消されるわけではない。その差分をどう埋めるか? その宿題を考えるためにも、この本を手に取ってほしい。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。