偏差値以上の力を出す子どものためにできること
「子どもの“のびしろ”は無限大だ」とは思えても、
「我が子の“のびしろ”は無限大だ」とは思えない。
それが親というもの。
中学受験をさせようとしている小学生の子どもがいるあなた、こんな経験はないだろうか?
なにをどうアドバイスし励ましたら、我が子の“やる気スイッチ”が入るのだろうとさんざん考え、穏やかなトーンで、子どもの目線に立って話しかけ、「うんうん、わかってくれたな。じゃあ、頑張れよ。君の未来は君が切り開くんだ!」みたいなことを言う。
翌日、我が子のスマホの利用時間をチェックしたら……。
なんだ! この利用時間4時間半ってのは!
それもずーっとSNSとYouTubeを見てるじゃないか!
キー! 塾の宿題やってねぇ!
キーキーキーィ!
本書は、そんなキーキーしている親の心に平安をもたらしてくれる一冊です。著者は長谷川智也氏。東大を出て大手塾の人気講師となり、2009年に「プロ家庭教師」として独立。独自のプログラム「究極の受験セカンドオピニオン・スーパーコンサル」に、年間300件もの申し込みが殺到するという人物です。
その人気の理由は、本書を読めば理解できます。とにかくポジティブに状況を捉え、なにをどうすればいいか明確で、やんわり背中を押してくれる。それも「こうしないとダメ」「こうするのがお得」といった言い方じゃなく、「おすすめです」「試してみてください」「~できれば上出来です」と、優しく語りかけてくれるのです。
本書の構成も秀逸。表紙をめくると、「すぐ使える中学受験マンダラチャート」が巻頭についている。
大谷翔平が花巻東高校時代に、目標達成シートとして使っていたことでも知られるマンダラチャートですが、これは中学受験用にアレンジされています。著者は、志望校合格に求められる【要素】として、「体づくり・習慣」「ケアレスミス撲滅」「思考力」「時間配分」「論述力・読解力」「運」「人間性」「メンタル」の8つを設定。さらに【要素】ごとに8つの【行動目標】を設定してマンダラチャートは完成します。この【行動目標】を子どもに書き込ませて、自分なりの志望校戦略を考えるという仕組み(設定例も掲載されています)。
この巻頭付録に続く本文では、その8つの【要素】を向上させるために「どういうスキルが必要か」「どういう習慣を身につければいいか」が解説されます。この巻頭付録と本文の立体的な構成が、とても理にかなっていて「よくできているなぁ」と思わず唸ってしまいました。
人間的成長なくして成績は伸びない
ここで注目してもらいたいのが、【要素】に挙げられている「運」と「人間性」です。親は「勉強量を増やせば、学力もアップする」と考えがちですが、著者は「運」や「人間性」を育てないと、結局、成績も伸びにくいと言います。
はっきり言って、学力だけ上げても奇跡は起こりません。運と、受験生としての人間性とメンタルも磨いてこそ、合格を現実のものにすることができます。
「運」なんてものが努力によって掴めるのか? 著者は「運は自分から足を運んでこそ、つかむもの」と言います。そして「受験の運とは家庭単位で測れるもの」とも……。なにも親に「人格者たれ!」とは言わないけれど、どんなに小さな行動でも徳を積むことが「運」を掴むきっかけになる。大谷翔平の美談として、球場のゴミを自ら拾うというエピソードがありますが、彼の高校時代のマンダラチャートでも「ゴミ拾い」が【行動目標】に設定されていますからね。
そして「人間性」の部分で、著者はこう書いています。
一言で言うと「素直さ」という素質だと思いますが、こういう「なんとなく助けてあげたいな」という気持ちを呼び起こす子は、結局、最後に強いです。
数多くの子どもたちを見てきた、著者の言葉です。さらに、「自分をうんと大切にして、他人にも気を配れるという、深いレベルでの「思いやり」を体得できた子が最後に勝ち抜いていく」とのこと。あなたの我が子はどうですか?
今回紹介した「運」「人間性」以外の6つの【要素】についても、本書はかなり具体的に紹介しています。ゲームをさせるか/させないか。塾の選び方や勉強の基礎固めの方法。できる子とできない子のペンケースの違いから、なぜか「ハリー・ポッター」シリーズを全巻読んだ子は強いという話まで、その情報量の多さは圧倒的。正直、親の耳には痛いアドバイスもふんだんに盛り込まれています。でも、貴重な子どもの時間を割いて中学受験に挑むのであれば、まず見直すのは親の考え方かもしれません。きっとその先に、真の心の平安が待っていますよ。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。