間取りで後悔しない唯一の方法
あなたは、自分の住まいに満足していますか? 「ちょっと狭いかも」「もう少し収納があったら……」そんな不満を抱える人も多いはず。では、例えばこんな風に広くて収納がある家なら満足できるでしょうか。
この間取り図は、ある30代の夫婦の注文住宅のものです。広々としていて、人気のパントリーやウォークインクローゼット、内玄関型シューズクロークを採用した理想的な家に見えます。子どもの将来を見据えたスタディコーナーや、広いウッドデッキも魅力的。しかし一見素敵なこの間取りには、大きな問題となる「隠れた暮らしにくさ」が三つあります。
……それは何か、わかりますか?
『この間取り、ここが問題です!』は25の具体的な間取り図から「隠れた暮らしにくさ」を見つけ出し、より住みやすい間取りを提案する本です。著者の船渡亮さんは、家づくりや間取りのセカンドオピニオンを提供し、注文住宅やリフォームを検討している施主を対象に、3000件以上の間取り診断を行ってきた一級建築士です。
満足できる住まいを手に入れるには、目の前の間取り図を見て「どのような暮らしになるか」を理解するスキルが必要だと船戸さんは言います。一見素敵な間取りの家も、その視点を欠くと「家事時短できない間取り」「子育てで不機嫌になる間取り」「セックスレスになる間取り」となることに驚くでしょう。
「家って実際に住んでみないと、本当のところはわからない」と思われがちですが、そんなことはありません。戸建てやマンション購入の際に後悔しない「間取り図の読み方」を学んでみませんか?
「間取りで暮らす」
この本に収録された間取りの数は25。家を建てたい人、引っ越しを検討している人にはそれだけでも思わずこの本を手に取りたくなる事例の豊富さです。施主の夢を詰め込んだ間取りを見ながら、素敵な暮らしを妄想する楽しさもあります。しかし、一番面白いのは、間取り図に書き込まれた「線」です。
これは「家族全員の一日の動きを間取り図上でイメージしたもの」、つまり生活動線です。
「満足できる住まい」のために船渡さんが提案するのは「間取りで暮らす」シミュレーション。
「荷物や家具を搬入したら、思ったよりも狭かった」「家事がしにくい」「収納が足りない」「外からの通行人の視線が気になる」「年を重ねたら階段や段差が負担になった」……。そんな「暮らしにくさ」を抱える家にしないために、暮らしを理解する動線シミュレーションの方法を4ステップにわたって解説してくれます。
その手順はとても簡単でロジカル。「引っ越し経験が少ない」「家を建てるのは初めて」という人でも、慣れや経験に左右されず、「自分にとっていい間取りか」を判断できるやり方だと感じます。
「生活動線」という視点で本書の間取りを見ていくと、それぞれの改善点が浮かび上がってきます。
各間取り図には施主の年齢層や家族構成、家事分担、洗濯方法が記載されており、それぞれの「一日の生活」を間取り上に再現すると、家の間取りがいかに「生活の質」に影響するのか、よくわかります。寝室のドアをベッドの頭側から足元側に移すだけでも眠りの質が上がったり、子ども部屋のドアを引き戸に変えることで4人家族の洗濯をワンフロアで完結できるようになるケースもあるのです。
引っ越しが好きな私は、賃貸ではありますがいくつもの物件を住み替えてきました。「平米数の割に広く使えて住みやすかった家」もあれば、なぜか片付けがうまく行かず「もっと広い家を借りればよかったか」と思いながら暮らした家もあります。その間取りでもシミュレーションを行ってみると、「居心地のいい家」「そうでない家」を分ける要素は広さや収納の量だけでないこと、「住み心地」には明確な理由があったのだとわかります。
豊かな生活のために
玄関のデザインを少し変えるだけ、帰宅時の動線を縮めるだけ、洗面所と物干し場の位置を少し工夫するだけ……。
本書は、ちょっとしたことで家の住み心地は大きく変わることを教えてくれます。さらに
本書では、家事・子育てについて、単に効率化だけでなく、「ありがとうを言いやすい」「家事しながら会話できる」ような間取りを推奨しています。
新居に引っ越すときは、ライフステージが変化したり、家事・育児について家族としっかり話す機会ではないでしょうか。間取りのほんの小さな違い=工夫が、暮らしの満足度を上げてくれるでしょう。豊かな人生を支える間取りを考える際、手元に置きたい一冊です。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
X(旧twitter):@752019