想像力をもって「いつか」に備える
台風や大雨による風水害、地震など、さまざまな自然災害のニュースを見聞きすることが増えたと感じませんか? そんな恐ろしい災害は、明日にでも自分の街で起こるかもしれません。しかし、「自宅に防災用品を用意していますか?」という問いに「用意をしている」と答えた人はわずか4割ほど。しかもそのうち半数以上の人は「用意はしているが十分ではない」と感じているといいます。
災害への十分な備えが必要だとは感じるものの、何を、どのように備えれば安心できるのか、具体的なイメージが持てない人も多いのではないでしょうか。
関東大震災から100年となる今年は、「防災」のことを改めて考えてみたい。
『FRaU SDGs MOOK まいにちの、防災手帖。』は、私たちの暮らしを改めて見つめなおし、いざというとき、大切な命を守るために知っておきたいこと、備えておきたいことを「まずはこれだけ」というところから教えてくれます。防災に対する意識を高める、最初のきっかけになってくれる1冊です。
日常の延長線上にある「防災」
「災害への備え」には、特殊な非常食や防災グッズといった特別なものが必要なのでは……と思いがちですが、必要なのは日常の中の「備えの意識」だといいます。阪神・淡路と東日本、二つの震災を経験した有村架純さんは、そんな「備え」についてこう語ります。
自宅では、家具は背が低いものを選んでしっかり固定しています。玄関には防災用の備品を。市販の防災リュックに、充電器付きのラジオや耐水性のライト、保存食、タオルやマウスウォッシュなど、衛生面をケアできるものなど厳選したアイテムを追加して、すぐにパッと背負える重さをキープしています。
防災だけでなく、俳優としてのあり方にも共通する心構えとして「想像すること」を大切にしているという有村さん。この本が提案する防災もまた、日常の延長上にあるものです。日々の暮らしの中で少し想像力を働かせて「いつか」に備える具体的な方法を知ることができます。
たとえば、緊急に避難が必要になったときの「非常時持ち出し袋」を備えておくなら……。
特別に買いそろえる必要があるのはヘルメットくらいでしょうか。あとは普段から使えるものがコンパクトでシンプルにまとめられています。災害直後からライフラインのある程度の回復まで、2~3日の避難生活を無事に乗り切るには何が必要なのか、パッとわかるのが嬉しいです。
ごく普通にトイレが使える日常しか経験したことがない私にとって、「トイレットペーパー」は盲点でした。また、保存食はコンビニで手軽に変えるシリアルバーや、白米だけでなく味の付いた五目ご飯といった、普段から食べなれているもの、水で戻すだけでもおいしく食べられるものが選ばれています。何かと大変な災害時だからこそ、「いつもの味」がストレスを軽減してくれるのだそう。
防災への意識を高めても「いつ起こる?」「どの程度の規模で起こる?」といった予測が最もしづらいのが、地震。
いざというときには一瞬の行動が大きく運命を左右すると言われています。地震がいつ起きるかはわからなくても、命を守るために取るべき行動は、あらかじめ知っておきたい。“そのとき”に、もしあなたが、料理をしていたら? お風呂に入っていたら? 寝ていたら……?
このページでは、その瞬間に「命を守る」ための大切なポイントをシチュエーション別に教えてくれます。ここは繰り返し読んで、イメトレをしておきたいところです。自分の家の生活動線を見直すきっかけにもなってくれそうです。
そして、いざ地震が発生すると、家の中のさまざまなものが“凶器”になります。
阪神・淡路大震災では、家屋内での怪我の原因の7割以上が家具などの転倒・落下とガラスによるものだったというデータもある。
家の中には意外なほどに危険が潜んでいます。美しく整えられたインテリアや、普段は便利なあれこれも、地震によって凶器に変貌することもあるのです。
このページでは、家の中の「危険の芽」をあらかじめなくし、リスクを減らすためのポイントを知ることができます。家の中の危険をあらかじめ洗い出し、改善すべきところは改善、整理整頓しておくことも「命を守る」行動なのです。
ライフスタイルに合わせた“自分の備え”を
一言で防災と言っても、誰もが同じ備えでOKというわけではありません。住むエリアによってリスクとなるものも異なり、家族構成やペットの有無によっても「あれば安心」なアイテムや、避難スタイルも変わります。
「拝見! みんなの防災STYLE BOOK」では、豊富な実例から、ライフスタイル別に沿った自分なりの「備え」を知ることができます。自分のスタイルをしっかりイメージすることで、本当に必要な「備え」が何なのか、わかってくるのが心強いです。
食や日用品の備えなら、一人当たり何が何個あれば何日分の備えになるのか。地震が起きた瞬間、「命を守る」行動とは何なのか。また家の中の何が危険で、どこをどう変えれば安全な状態になるのか……。「そのとき、何をすればいいか」がとても明確に知ることができるのがこの本の大きな魅力です。
想像力をもって「いつか」に備えることで、「もし災害が起きたらどうしよう」という漠然とした不安が和らぎます。日常と地続きの「備え」と「想像力」は、心のゆとりにつながるでしょう。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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