毎年、日本各地に被害をもたらす豪雨や台風、猛暑に大雪などの自然災害。年々、その頻度や規模は拡大しているように思います。洗濯物から行楽行事まで、天気と私たちの生活には密接な関係があります。加えて、災害と隣り合わせとも言えるこの時代には、防災の観点からも気象を知ることはとても重要です。
本書では、気象の基本的な知識である雲や雨、雪、気温、風などの仕組みを解説。これら基礎を踏まえたうえで、高気圧・低気圧と前線、台風、さらには天気予報についてひも解いていきます。
前提として中学理科程度の知識が必要であり、高校物理の範囲にも言及しているため、少し難しく感じる部分もあるかもしれません。ただ、中学の数学で躓いた私のようなド文系人間でも読み進めることができたので、その点はご安心を。
タイトルに「図解」とあるように、文章による解説を補完する画像やグラフ、図などの資料もふんだんに使われています。
たとえば「気圧」についての説明では
大気を地上から大気のてっぺんまで、柱のように切り取った底面積1㎠の「空気の柱(気柱)(きちゅう)」を考えてみると、その空気の重さは約1㎏になります。この重さは気柱の底の面に加わり、大気圧(たいきあつ)(気圧)を生じさせています。標高0mの海面上と標高3776mの富士山の頂上では、その上にある気柱の長さが異なるため、気圧も異なります。つまり、標高が高いところほど気圧は低くなっています。
という解説と共に、わかりやすい図が示されていて、気圧をビジュアルでイメージすることができます。
高いところは気圧が低い、という一般常識の先、「なぜ?」の答えがスッと頭に入ってくるのです。ちなみにこの「気柱」は本書における、基本となるワードのひとつ。
このように、スムーズに理解を深められるよう、ポイントとなる現象や基礎となるワードを順番に提示し、これらを踏まえた詳説が展開されていきます。「さっき習ったやつが出てきた!」と、覚えたての知識がすぐ活かせる喜びが味わえるのも、本書の特徴です。
第1章のテーマは「雲のしくみ」。なぜ雲が発生し、雨や雪を降らせるのか。雲は上昇気流によって生まれるのですが、ではなぜ上昇気流が起きるのかというポイントも含め、雲の生成から降雨に至る様々な事象を丁寧に解説。水蒸気を含む湿った空気は、実は乾燥している空気よりも軽いという意外な事実(「軽い」という事実の提示だけで終わらず、具体的な数値を使い、その構造を理解させてくれる解説が素晴らしい)や、水が蒸発する仕組みも明らかにします。
また、本書は2011年3月に出版されており、今回はその改訂版。初版当時には馴染みのなかった気象用語が近年メジャーとなり、本書でも当然取り上げています。その代表格と言えるのが、第2章「雨と雪のしくみ」で解説している「線状降水帯」でしょう。
線状降水帯を知るには、まず積乱雲から。
積乱雲1個は「降水セル」と呼ばれます。これに対し、組織化された積乱雲というものがあり、その中の一つに「マルチセル」なるものが存在します。この形態での雷雨では、新たな降水セルが決まった場所に発生。こうして次々と新たなセルを発生させることで世代交代するため、個々のセルの寿命は短時間でも組織としては数時間にわたり、激しい雷雨をもたらします。
長く数十㎞にわたる線状(ライン状)に組織化された雷雨のうち、進行方向がラインとは直角の方向に速い速度で移動するものをスコールラインといいます。
このスコールラインのように、線状に組織化されたセルによる降水帯のことを「線状降水帯」と呼ぶわけです。なかでも注意が必要な、長く同じ場所にとどまって世代交代を繰り返すことでより甚大な被害をもたらす、「バックビルディング型」と呼ばれる組織化されたセルの解説も掲載されています。
本書の冒頭で、「天気に興味はあるが、もっと深く知りたい」「気象予報士試験対策とは違う、気象のしくみを『なるほど』と思えるような入門者向け解説がほしい」という人にうってつけだと記載していますが、まさにその通り。読んでいて「そういうことなのか!」と納得したり、理解を深めたりする場面が幾度となく訪れました。
「台風の目」「放射冷却」「大気が不安定」といった、天気予報でよく聞くワードも、一つの情報としてだけでなく、現象が起こる仕組み・構造を理解することで、毎日のように触れる天気予報の解像度がグンと上がります。
一つひとつ階段を下りるように、気象の世界へと深く足を踏み入れていくと、気象だけでなく地球の息遣いともいえる自然の面白さ、そして新たな知識を得ることの喜びを感じることができる――それが本書の魅力でもあるのです。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009