血液のがんのすべてがわかる
「怖い病気」と聞いて私がイメージするのは「がん」だ。日本人の二人に一人は、がんが死因となると聞いたこともある。
そんながんは「肺がん」「乳がん」などのように、体の部位の名前がつくものだけではない。「リンパ腫」「白血病」「多発性骨髄腫」といった病気は、「○○がん」という名前でこそないが、「血液のがん」なのだ。
一般的ながんと同様に、血液のがんも中高年に多く見られる病気で、社会の高齢化が進むにつれてかかる人も増えている。血液のがんと診断される人の数は、最も多いリンパ腫だけで年間3万6千人超、「血液のがん」全体では6万人近くになるという(2019年)。
本書『血液のがんがわかる本 リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫』は、そんな血液のがんの基礎知識と最新治療を、イラストを交えてわかりやすく解説する。監修を行ったのは国立がん研究センター中央病院、血液腫瘍科長の伊豆津宏二先生だ。
この本は、患者さん自身を含む一般の方に、難しそうなイメージのある血液のがんについての理解を深めるきっかけとして使っていただくことを目的としています。血液がんに共通する項目と、個々の病気に関する項目の両方を含んでいます。新しい治療の開発が進んでいる分野ですので、なるべく最新の情報も含めて紹介するように心がけました。
「血液のがん」とは何か?という基礎知識をはじめ、
病気のタイプ、それぞれの特徴と治療の進め方、治療中・治療後の過ごし方を徹底解説する。
さらに「暮らしはどうなる?」「仕事を辞めなくてはいけない?」「お金はどうしよう……」まで、知りたいことがギュッと詰まっている。血液のがんへの知識を深め、安心して治療を受けるための一冊だ。
どんな病気? どう治す? 治療期間は?
血液のがんは、大きく「リンパ腫」「白血病」「多発性骨髄腫」の三つにわけることができる。また、一口に「血液のがん」といっても症状や治療法も同じとは限らず、病気の見つかり方、治療法もそれぞれだ。
一見「がん」とは関係の薄そうな「鼻血が止まらない」「腰が痛い」といった症状が血液のがんの初期に現れる場合もあり、少しの体の異常でも軽視せずに病院に行こう……という気持ちになる。
進行の速いタイプの血液のがんは一日でも早く治療を開始する必要がある。急性骨髄性白血病の場合は、以下のような方針で治療を進める。
強力な治療が必要となるが、血液のがんに対する治療は年々進歩しており、がん細胞に的を絞った治療薬も登場しており、早く適切な治療を受ければ十分な効果が期待できるという。血液のがんというと骨髄移植をイメージする人もいるかもしれない。しかし、移植治療を受けずとも薬物療法だけで落ち着く例も増えているようだ。
驚いたのは、日常生活を送りながら服薬で病気をコントロールしていく例もあるということだ。中には「進み方が遅く、病変が小さいので無治療のまま経過を見る」ケースもあるという。こちらはリンパ腫の治療についてのページだが、病気の性質や進行の仕方が似通った慢性リンパ性白血病でも同様の記載を見ることができる。
副作用のリスクのある治療は、病変が大きくなったり自覚症状が現れたりするまで先延ばしにするのも有用な選択といえます。
このような体に負担をかけないための選択もあるのだ。がんだと診断され、気持ちが焦っているときに「取り急ぎ治療はしない」と言われたら、不安を感じるに違いない。しかし、このような知識があれば、不安に苛まれることも減るのではないだろうか。がん闘病の辛さは、治療によるものだけとは限らない。この本は、大きなストレスとなる不安や焦りを取り除いてもくれると思う。
不安を取り除き、治療と向き合える
長く入院するにせよ、通院しながら治療を行う場合にせよ、一般的に血液のがんとは長い付き合いになるものだという。
病状が落ち着けば以前のような暮らしを送ることもできるが、血液のがんと診断された後は、多かれ少なかれ生活に変化が出てくるはずだ。しかし、治療中、治療後の過ごし方や、日常生活で気を付けるポイントまで網羅しているこの本が、闘病生活の大きな支えになるだろう。
本書は、血液のがんへの知識が得られるだけでなく、余計な不安も取り除き、血液のがん患者の心強い味方になるに違いない一冊だ。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019