「あれ?」と思ったのは、階段を下り始めた時のことだった。曲げるたび片膝に痛みが走る。力をかけるのが怖くなり、おそるおそる踏み出すことを繰り返してようやく下りきった。そういえば以前にも、何度か同じ症状があったことを思い出す。だがケガをした記憶はなく、持病もない。これはつまり、かつて諸先輩方から聞かされた老化の入り口……?
本書はタイトルの通り、変形性膝関節症について書かれた本だ。どんな疾患かといえば、
変形性膝関節症は40歳以上で半数程度にみられるともいわれています。加齢や生活習慣などの影響で膝関節の軟骨がすり減って、痛みや動かしにくさといった症状が現れるのです。しかも困ったことに、すり減ってしまった軟骨や関節の変形は自然に治ることはありません。そのままにしておくと徐々に進行していきます。
といったもので、「膝の痛みの原因で最も多い」病でもあるという。
本書の監修者は、変形性膝関節症やスポーツ障害、股関節手術、運動器疼痛、リハビリテーション医学などを専門とする医師である。現在は高知大学医学部整形外科教授を務めながら、同大学教育研究部医療学系臨床医学部門の部門長を兼務するほか、日本整形外科学会や日本膝関節学会、日本人工関節学会などの理事も務めるスペシャリストだ。
そんな専門家が、「変形性膝関節症」にまつわる79の質問に答えていくのが本書。病気の症状や痛みの原因にはじまり、受診の目安や診断の内容、治療方法、生活する中でできることや進行後の手術の方法、そして最新の治療法まで、気になるポイントが幅広く取り上げられている。
たとえば今の私の状況であれば、「Q14 『膝が痛い=変形性膝関節症』でしょうか?」「Q15 受診の目安はありますか?」といった質問が役に立った。特にQ15は、こちらの考えを見透かしたかのような回答で、「症状がある場合は、早めに整形外科を受診して検査を受けた方がいい」という。
変形性膝関節症は一般的に進行がゆるやかなので、初めから強い症状が出ることはありません。そのため、しばらく様子を見る人も多いのですが、診察を先延ばしにするとその間にも進行してしまいます。
「何もしていなければ痛くないし、まだ先でいいか!」と思っていたところに、このアドバイス。ぐうの音も出ない。そんな私に監修者はしっかりと、「Q23 病院選び・よい医師を判断するポイントはありますか?」という救いの手も差し伸べてくれる。
また意外だったのは、冒頭に収録された「専門医が答える 膝の痛み よくある疑問を大解決!」の最初の質問だった。痛みがある間は安静が一番かと思いきや、「ちょっとの痛みなら適度に動かしたほうがいい」と監修者は諭し、適切な運動療法をつづった第3章へと誘導する。
痛いからといって運動しないでいるとますます膝の状態を悪化させてしまいます。安静にばかりして運動不足になると、股関節を支える筋肉だけでなく、全身の筋肉も衰えます。運動不足で肥満になると、体重が増えたぶん、さらに膝に負担をかけることになります。(中略)
運動不足は膝関節の状態を悪化させるだけでなく、立ち座りや歩行など日常生活の動作にも影響し、生活の質全体を著しく下げる要因にもなるのです。
痛みを避けようとすることが負のループへの始まりになってしまうのであれば、多少痛くとも、状況に応じて動かしていくしかない。その見極めは通院先の医師に任せるのがよいだろう。一方で本書は、通院しての運動が不要な場合や本人がそれを希望しない場合を想定し、自宅で、ひとりでもできるストレッチや筋トレ、有酸素運動も紹介している。まさに至れり尽くせり!
今後の進行次第では、他のQ&Aも助けになってくれそうな本書。自分の身体と粘り強く向き合うためにも、手元において頼りにしたい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。