最近、久しぶりに友人と会えるようになって気がついたのは、以前と比べ、健康についての話題がグッと増えたことだった。思わぬ病を患った場合をはじめ、日々の不調や健康診断の結果、そして体力維持の方法や秘訣など、とにかく話が尽きない。とはいえ、せっかくの再会がそれだけで終わってしまうのも惜しいから、時折他の話へと移るものの、結局またループしてしまう。かつては40歳を「初老」と呼んだとも聞く。健康への関心が高くなるのは、おそらく自然なことなのだろう。
本書は小説家であり医師でもある著者が、「老い」すなわち「長生き」について指南する一冊だ。1955年に大阪で生まれた著者は、大阪大学医学部を卒業後、大阪大学医学部付属病院の外科および麻酔科にて研修を積んだ。その後、いくつかの病院で麻酔科医、外科医として勤務したのち、30代の始めに外務省へ入り、海外の日本大使館で医務官を務めた。42歳で帰国後、縁あって高齢者医療に携(たずさ)わるようになったという。作家としては2003年にデビューし、これまでに数多くの小説や新書を発表してきた。
そんな著者が、自身の診療体験を元に語る「老いのパターン」は、冒頭から容赦がない。
老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍(どん)くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。
そうして列挙される老化現象と病気の可能性は、すでにその一部を実感している身として、端的な現実であることが理解できる。つまり厳しいのは著者ではなく、迫りくる「老い」そのものだということ。素直に頷くしかなかった。
一方で著者は、誰にとっても初体験である「老い」について、たくさんの実例を知って参考にすることで、上手に、楽に老いることができるとも語り、高齢者医療のクリニックで働き始めた当時を振り返る。
最初に意外だったのは、高齢者の多くがごく当たり前のことで、悩んだり嘆いたりしていることでした。
腰が痛い、膝が痛い、さっさと歩けない、細かい字が読めない書けない、もの忘れが激しいなど、当時まだ四十代だった私には、老いれば当然のことと思えることばかりでした。それなのに当人は、「なんでこんなことになったのか」「こんなことになるとは思わなかった」と嘆くのです。あたかもまったくの想定外の不幸に見舞われて、苦しんでいるという感じでした。
「ああ、いつか私も同じことを言いそう……」と思わず下を向きそうになるが、大事な点は「心の準備」であり「老化による不具合を受け入れる」ことだと著者は説く。そして、過去に診察した患者さんたちのケースから、高齢者にとって何ができることで、どうすればその変化を「当たり前」に受け止めていけるのか、実例が示される。
全八章から成る本書の中盤から後半では、認知症やがんについての実情にくわえ、「死」も一つのテーマとなっていた。いずれも人によってはまだ見たくない現実であり、知ることが怖い未来でもあろう。だからこそ著者は本書のおわりで、
本書はこれから老いる人や、すでに老いている人の中で、ある程度、心に余裕のある人に向けて書きました。余裕はあるけれど、老いや死についての心配も絶えない、そんな人に読んでいただければと思います。
というメッセージを添えている。知るのも怖いが、知らないまま挑むのもまた怖い。どちらの怖さと向き合うかは人それぞれだが、知らなければ備えることは難しい。だとすれば本書を手元に置きつつ、気持ちが向いた時にすかさず読むことが、「上手に、楽に老いる」ことへの最初の一歩となるだろう。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。