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一生懸命勉強しても英語が身につかないと悩む人へ── 英語は単語で覚えるな!
(著:中田 達也)
「Just a moment, please」──私が書店員として働いていた時、もっとも口にした英語の定型文だろう。「お客様から問い合わせを受けたら、何も言わずにその場を離れてはいけない。必ず『少々お待ちください』と言ってから動くこと」──先輩からそう教わったものの、英語での接客となると慌(あわ)ててしまい、とっさのひと言が出てこない。だから入社してしばらくは、事あるごとに唱えていた。英語が苦手な私にとって、お守りのような言葉だった。
タイトルの通り、本書の主眼は定型表現(formulaic sequences)の学習法にある。定型表現とは、「2語以上のまとまりで特定の意味を持つ」フレーズを指す。恣意的な制約を持ち、規則で説明できない現象が多く見られる定型表現は、文法や単語といった規則性を持つジャンルに押され、教育の場でも言語学研究の場でも長らく軽視されてきたという。だが近年になり、新たな事実がわかってきた。
技術が進歩し、大量のテキストをコンピュータで分析できるようになると、書き言葉・話し言葉の多くが、実は定型表現で構成されていることが明らかになってきました。母語話者の書いたり話したりした言葉のうち、5~8割程度が定型表現で構成されているという推計もあります。
たとえば「スマホの予測変換」は、時に私たちの予想以上に適切な表現を提案してくることがある。それもまた、「産出された語句の後にどのような語が続くか」がわかる、定型表現の特性を踏まえたものだという。
著者は現在、立教大学異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科の准教授であり、同大学の英語教育研究所所長も務めている。言語学の中でも、特に第二言語(外国語)における語彙習得に関する研究を続け、その成果を論文や書籍の形で発表してきた。それでも、過去の著作では叶わなかった「定型表現の重要性やその学習法を、もっと詳しく、わかりやすく解説したい」という著者の思いが、本書では余すことなくつづられている。
さて第1章には、「定型表現を学習する8つの利点」が挙げられている。
その利点の3つ目、「言語を使って様々な機能を遂行できるようになる」のくだりで、こんな例が挙げられていた。
What a shame!は、「何てひどいことだ、全くかわいそうだ[残念だ]」という意味の定型表現です。例えば、What a shame it didn't work out. だと、「うまくいかなかったとは残念でしたね」という意味です。しかし、shame=「恥、恥さらし」という知識しかないと、「成功しなかったとは、とんだ恥さらしだ」と非難されていると勘違いしてしまうかもしれません。What a shame!という定型表現が同情を示すことを知っていれば、このような誤解は防げるでしょう。
このたとえ話のように、私は友人から「What a shame!!」と、話の流れで言われたことがある。知識のなかった私はその定型表現が理解できず、「えっ、恥? なんで恥? 私、何か恥ずかしいことしたの?」と動揺してしまった。だがもちろん友人は、私を気遣(きづか)ってくれてのひと言。単語の意味だけは知っていても、成り立たないコミュニケーションはもどかしく、情けなかった。
続く第2章では定型表現の分類と特徴が、そして第3章では「聞く力(リスニング)」「読む力(リーディング)」「書く力(ライティング)」「話す力(スピーキング)」という英語の4技能を伸ばす、定型表現の学習法が数多く取り上げられている。この第3章には本書の半分ほどのページが割かれており、webサービスのキャプチャー画面と共に次々と挙げられる具体的な使用法は、圧巻の情報量。著者の熱い思いが伝わってくるようだった。
英語の勉強法を模索している学生の方はもちろん、「英語をもう一度学びなおしたい」という方にも薦めたい本書。これまでの学び方とは異なる方法に触れることで、新たな英語学習の一歩を見つけたい。
- 電子あり
「単語と文法を一生懸命勉強したけれど、英語が使いこなせない」と悩むすべての人へ――。
英語は単語で覚えてはいけない!
第2言語習得の専門家が伝授する、最小の努力でネイティブに近づく「英語学習の新定番」。
「文法と単語のどちらにも属さない定型表現は、雑多なものとして切り捨てられ、英語教育(=実践)においても、言語学(=理論)においても、長らく軽視されてきました。
しかし、技術が進歩し、大量のテキストをコンピュータで分析できるようになると、書き言葉・話し言葉の多くが、実は定型表現で構成されていることが明らかになってきました。母語話者の書いたり話したりした言葉のうち、5~8割程度が定型表現で構成されているという推計もあります。 スマートフォンの予測変換を使って文章を書いていると、予想外に適切な表現が提案されるので驚いてしまうことがあります。我々の用いる言葉の多くは定型表現で構成されるため、産出された語句の後にどのような語が続くかを高い精度で予測できるのです」――「はじめに」より
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている
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