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日本最後の巨大組織、JAの断末魔。不正販売、自爆営業……腐敗の構造を告発!

農協の闇
(著:窪田 新之助)
2022.09.08
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読めば読むほど、著者と証言者たちの今後が気になった。「ここまで書いてしまって大丈夫なんだろうか」「証言した人たちは、内部で不利な状況に追い込まれるのでは」──そうした思いに駆られるほど、本書に書かれた内容は唖然とする事例に満ちている。身の危険をおかしてまで、よくぞ告発し、発表したものだと唸ってしった。

ちなみに「農協」とは、「農業者が農業協同組合法(農協法)に基づいて設立した協同組合」のこと。その上で「農協」にも種類があることや、「JA」との違いはご存じだろうか。

そもそも農協という組織は、大別すると「総合農協」と「専門農協」に分かれる。総合農協とは、組合員に農業や生活に必要な物品を販売したり、逆に組合員から農畜産物や加工品を購入したりする「経済事業」のほかに、貯金を集めたり資金の貸し付けをする「信用事業」と、共済商品の開発や販売をする「共済事業」を兼営している。
一方、専門農協は、酪農や果樹、園芸など作物別に農業者が設立した農協である。こちらは総合農協と違って信用事業は手がけておらず、経済事業が主体だ。

1040万人の組合員数を誇る「総合農協」に比べ、「専門農協」は団体を含めても13万人。規模がまったく異なる。そのため日本で「農協」といえば、主に「総合農協」のことを指すそうだ。そして総合農協は、1992年から自らを「Japan Agricultural Cooperatives」、略して「JA」と呼ぶようになったという。

著者は大学卒業後、JAグループの機関紙「日本農業新聞」の記者となり、8年間勤務したのち、フリーランスの農業ジャーナリストとして独立。農業の今とこれからを見つめ続けてきた。

さて、著者は本書において、大組織「JA」が抱えるさまざまな問題──過剰なノルマ、不正販売、不正請求、価格カルテル、権力闘争──を、具体的な団体名や地名を出し、全四章にわたって提起していく。豊富な証言と物的証拠を元に構成された内容は、社会派ドラマも真っ青だ。

たとえば、第一章「不正販売と自爆営業」では、JA共済をめぐるJA職員への過大なノルマが紹介されている。著者は、それゆえに引き起こされる顧客への不正販売を取り上げながら、こうも記す。

じつはJAの職員は、加害者であるとともに被害者でもあるのだ。というのも多くのJAは、ノルマが達成できない職員に対し、「自爆」と呼ばれる経済的な自己犠牲を伴う営業を強いているからだ。
この自爆とは、ノルマを達成するために、必要のない共済に職員自ら入る、あるいは他人に懇願して入ってもらい、その掛け金を肩代わりすることを指す。職員は自爆を減らすために、顧客に不利益な商品でも勧めてしまうのである。

「自爆」という言葉の強さに驚かされるが、その実態はさらにすごい。あるJAでは、一部にまったく自腹を切らずに済む人がいるものの、立場によっては年に50万、80万、200万といった金額を支払う人もいるという。それだけの金額が給与から消えるとなれば、辞める人が続出するのも頷ける。職員の証言も生々しい。

「よくあるのは、結婚したり子どもが生まれたりしたときに辞めるパターン。奥さんから転職してくれとせがまれるんです。子どもができるのに、自爆する金額が大きすぎて学費をためられない。住宅ローンにも踏ん切りがつかない。このままだと将来がないでしょっ、というわけです」

JAの経営陣ではこうした実情を、アンケートなどで職員から聞き取っているものの、その切実な声が現実に反映されることはないという。そういった職員らの叫びを耳にし続けてきた著者は、こうつづる。

私は、過大なノルマの実態と自爆することの苦しみ、それを看過している組織への疑念や不信を吐露しながら、それでもJAの事業を利用する地域の人々のために働きたいという気持ちをひしひしと感じた。

だからこそ、著者の筆はひるむことなく、最後まで「JAの今」を伝え続けるのだろう。リスクを負ってでも「より良い組織にしてほしい」と声を上げる職員たちの切なる願い。それを叶えることが、ひいては顧客の利益にも繋がっていく。本書で取り上げられた問題が広く知られることで、勇気ある職員たちが不利益を被ることなく、経営陣や上層部に少しずつでも変化が起きることを祈りたい。

  • 電子あり
『農協の闇』書影
著:窪田 新之助

JAは、「農業協同組合」本来の理念や目的を忘れてしまったのではないか?
共済(保険)事業と信用(銀行)事業に依存し、職員に過大なノルマを課した結果、いまや多くのJAで「不正販売」と「自爆営業」が蔓延(はびこ)っている。
元「日本農業新聞」記者である著者が、農協を愛するがゆえに書かざるをえなかった、渾身の告発ルポ!
全国津々浦々に拠点を持ち、1000万人以上の組合員を抱える巨大組織の闇を撃つ。

<本書の内容>
・JA職員が自爆営業を強いられている決定的証拠
・損するだけの共済商品に切り替えを勧める職員たち
・介護状態にならずに死ぬと1円も戻ってこない「介護共済」
・受け取り開始が90歳設定の「年金共済」に意味はあるのか
・高齢者や認知症の人に営業、半ば強引に契約
・ノルマ地獄を逃れるため、職員は続々と転職
・存続のためだけの、理念なき合併に突き進む地域のJA
・権力闘争に明け暮れる経営者たち
・史上稀に見る76億円の巨額損失を計上した「JA秋田おばこ」
・津軽と南部の対立で役員不在となった「JA青森中央会」
・梅農家の苦境を放置し、業者と結託する「JA紀南」「JA紀州」
・組織の論理に搦め捕られた「JA全中」会長

腐敗の構造を徹底取材!

<目次>
第一章 不正販売と自爆営業

1 顧客を食い物にする職員たち
2 不正販売を引き起こす過大なノルマ
3 JAの職員が自爆営業を強いられている決定的証拠
4 自爆の金額は80万~200万円 LA職員の嘆き
5 自爆営業の実態を分析した内部資料
6 共済を悪用して私腹を肥やす職員たち
7 弁護士が断罪「JAの不祥事の元凶は過大なノルマにある」

第二章 金融依存の弊害

1 JA共済連に共済商品を売る資格はあるのか
2 投資信託は「第二の共済」にならないか
3 理念なき合併に突き進むJA秋田中央会
4 「准組合員制度」がもたらす矛盾と弊害

第三章 裏切りの経営者たち

1 史上稀に見る76億円という巨額損失の裏側
2 前代未聞! 津軽と南部の対立で役員不在となったJA青森中央会
3 梅農家の苦境を放置して、加工業者と結託する二つのJA
4 組織の論理に搦め捕られてしまったJA全中会長

第四章 JAはなぜ変われないのか

1 不正を追及しない、なれ合いの組織
2 「身内の監査」は終わったのか
3 なぜJAは民間の保険を扱わないのか
4 経済事業の立て直しとJAのこれから

レビュアー

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田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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