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『ちはやふる』はこのノートから生まれた。作者自筆のイラストと文字の秘蔵ノート公開! 

ちはやふる百人一首勉強ノート
(著:末次 由紀)
2022.05.23
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2007年から連載が始まった『ちはやふる』は、「マンガ大賞2009」を受賞し、「このマンガがすごい! 2010」オンナ編・第1位、映画もアニメも次々に大ヒット、今も連載が続く大人気作品であることは、みなさんご存知の通りです。

だから、末次由紀先生直筆の『ちはやふる百人一首勉強ノート』が出版されると知ったとき、絶対に見たい!!と思いました。この名作が生まれた創作の秘密がわかるのではないかと思って。
しかし読み進めていくうちに、もっと凄い発見をしてしまいました。
まるでクラスメイトの由紀ちゃんから、試験前にノートを借りた気分になれるのです!!

そんなプライベート感満載の「勉強ノート」は、想像以上にズシーッと重く、方眼紙に書かれた絵は言うまでもなく、文字もびっくりするほど優雅で美しい!!
なかでも絶対に外せないのは、やはりこの歌ではないでしょうか。

この歌を詠んだ在原業平(ありわらのなりひら)は、試験に出るから仕方なく覚えた名前です。そのため人物としての知識はゼロだったので、末次先生がどんなふうに描くのか、興味がありました。

『ちはやふる』の主人公・綾瀬千早(あやせちはや)と千早のライバルである若宮詩暢(わかみやしのぶ)が、在原業平をどうとらえているのかを知ることができ、なんだか得した気分です。

もともとこの「勉強ノート」は、詩暢という人物を書き込むために作られたもので、公開の予定はなかったそうです。
そうした末次先生の“創作秘話” が書かれた「はじめに」のページを読むだけでもかなり貴重です。

そして面白いことに、後半になるにつれ、歌人たちのお茶目な絵やセリフがどんどん増えていきます。
だからクラスメイトの由紀ちゃんから借りたノート、という嬉しい錯覚に陥ったのでしょう。

しかし読み進めるうちにふと、「百人一首」って誰が何のために作ったんだっけ?という素朴な疑問にぶち当たりました。
それを詳しく説明してくれているのが、こちらのコラム。



『小倉百人一首』の撰者は、藤原定家(ふじわらのていか)。
古典の授業で習ったはずなのに、全く覚えていない……。それぐらい「百人一首」には苦手意識があったのですが、この絵を先に見ていたらきっと印象も変わったことでしょう。

藤原定家が、父親の俊成と歌を撰んでいる微笑ましい絵は、2回出てきます。

実は『源氏物語』は女性ウケするお話だと勝手に思い込んでいましたが、男性にも大人気で『百人一首』の撰出にかなり影響があったことは、新しい発見でした。

となると、撰者である藤原定家の歌は載っていないの?と思いますよね。
ありました、ありました!! 「権中納言定家(ごんちゅうなごんていか)」として載っていました。定家って官位も高い人だったようです。

父親の俊成も「皇太后宮大夫俊成(こうたいごうぐうのだいぶしゅんぜい)」の名で載っていて、苦労してここまで上りつめた事がわかり、急に親近感が湧きました。

誰もが、この「勉強ノート」が学生時代にあったなら、もっと楽しく古典や歴史を学べたのにと思うことでしょう。今の学生さんが羨ましいと。

そうした勉強をする上で役立つのはもちろん、末次先生のマンガ家としての言葉に出会えるのも、ファンとしてはうれしいところ。
なぜ歌人たちが、即座に素晴らしい歌が作れるのかに対し、

えらい人にお題を与えられて すぐ詠めと言われるのは
マンガ家でいったら ライブペインティングや お店のかべに描いて!
というようなリクエストに似ている。
じつは準備が大事

それまでの修練があるから、とっさに歌を詠むことができたのだろうというのです。
この夏、49巻目が発売予定の『ちはやふる』。
ここまで来るには、長い長い準備期間と修練が必要だったことも、このノートは教えてくれます。

残念ながら、このレビューでは伝えきれない発見が一杯あったので、是非あなたの目で確かめながら感じてください。
この「勉強ノート」の重さ以上にズシーッと来ますよ!!

  • 電子あり
『ちはやふる百人一首勉強ノート』書影
著:末次 由紀

マンガ史上に残る傑作「ちはやふる」は、このノートから生まれた! 
百人一首の名歌について作者が学び、アイデアをふくらませた秘蔵ノート、ついに公開!

ちはやぶる神代も聞かず龍田川 から紅に水くぐるとは 在原業平朝臣
逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり 権中納言敦忠
瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳院

百人一首は藤原定家から私たちに受け渡された切符だった――
千年受け継がれてきた名歌を、作者直筆のイラストと文字で学べ、千早、太一、新たちの名場面をもっと楽しめる!

百人一首は、もっとも身近な、手に取りやすい古典です。百の歌には、数多くの歌のエッセンスがつまっています。掛詞、歌
枕が入り、三十一文字をさらっと読んだだけではわからないような技巧が凝らされている歌が百人一首には多くあります。あなたのことが恋しいという気持ちをただ歌にするのではなくて、かつての本歌を踏襲して、自分の知識、感性をすべてつぎこんで作られたような歌があります。当代随一の歌人が集まって、技を競わせる歌合せのようなシステムがあったから、歌人たちは自分の技を磨いて磨いて磨き尽くそうとした。そうして作られた歌のなかから、定家によって選ばれた百の歌。一千年読み継がれてきた歌には、やはりそれだけの力があります。ノートを作りながら、このことを実感しました。――「はじめに」より

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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