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2020年12月17日、「キッザニア東京」に講談社出展の「出版社パビリオン」が登場した。キッザニアは、実在する企業がスポンサーになった約60のパビリオンが立ち並ぶ子どもが主役の街。各パビリオンは職業体験や社会体験ができる場になっている。出版社パビリオンでは子どもたちが編集者になって、『講談社の動く図鑑MOVE』と、さがしもの絵本『どこ?』を編集し、1冊の本をつくるアクティビティが用意された。その誕生までをプロジェクトメンバーが語る。
プロジェクトメンバー 左から
杉原和馬(すぎはら・かずま)KCJ GROUP 株式会社 事業開発本部 コンテンツ部 副部長
小寺 恩(こでら・あん)KCJ GROUP 株式会社 事業開発本部 コンテンツ部 アシスタントマネジャー
嶋中聡子(しまなか・さとこ)『テレビマガジン』編集チーム
飯島未彩紀(いいじま・みさき)『おともだち』編集チーム
酒井友里(さかい・ゆり)児童図書編集チーム
子どもたちが本物に触れるリアルな体験を
嶋中(『テレビマガジン』編集チーム) 子どもたちに「本って楽しい!」「もっと読みたい、自分でもつくりたい!」と思ってもらえるような場所にしたいと、弊社の読書推進の一環として進められたパビリオンづくりですが、いよいよオープンを迎えました。当初は私たちの夢ばかりをお話しし、形にしていただくのは大変でしたよね。
小寺(キッザニア東京・KCJ GROUP 株式会社) 最初、「本を生み出す編集者って魔法みたいなお仕事だよね」という発想からの企画をいただいたんですよね。若手の方々がこんなに企画を考えてくださるなんて講談社は素敵な会社だなと思いつつ、キッザニアがこだわるリアルな職業体験としてはどういう形にするといいのか、また本の魅力をどう伝えるか、いろいろディスカッションさせていただきましたね。
飯島(『おともだち』編集チーム) 社内でも、子どもたちにとって出版社というのは何をやっているのかわかりにくい会社ではないかと話していたんです。本をつくるといっても編集者が一人でつくるわけではなく、作家はもちろん、デザイナーやカメラマンもいるし、校閲や業務、販売に宣伝、ライツ、印刷、製本……ほかにも数えきれないたくさんの人たちが関わって1冊の本になっている。それをアクティビティを通して伝えたいという思いがありました。
嶋中 出版社のお仕事体験としては、対象年齢3~15歳の幅広い層の子どもたちみんなが楽しめるものにしようということで、図鑑の『MOVE』と、ジオラマを撮影して制作されている絵本『どこ?』をつくるアクティビティを企画し、各編集部にご協力いただきました。「つくるなら絶対にいいものにしてほしいし、本づくりに興味を持ってもらえるような楽しい体験をしてほしい!」と、結果的に多くの人に関わっていただけることになりました。
杉原(キッザニア東京・KCJ GROUP 株式会社) 本当にみなさんのご協力があってこそのコンテンツだなと思います。『MOVE』の編集でも形やタイプの違う写真素材をいろいろご用意いただきました。その中から子どもたちが一人ひとり自分で選んで、専用タブレットで自由に編集するので、無数の組み合わせが生まれます。『どこ?』では作者の山形明美先生が、アクティビティで使えるように「本の森」というテーマで本物のジオラマまで制作してくださって、我々も大変驚きました。
小寺 ジオラマの中に子どもたちが自分の手で小さなアイテムを置いて、絵本にする写真を撮りますが、そのアイテムまで先生がつくってくださるというサプライズもありました。子どもたちにとって撮影の舞台というのは非日常的ですし、圧倒されるような美しいものを目の前にする貴重な機会になります。
嶋中 先生も「せっかくなら実際に撮影している本物を使ってほしい」と。すごいことです。
飯島 しかも、そうやって編集したものを、その場で全部印刷して製本、裁断。成果物として1冊の本を持ち帰れるようにしたのも、すごい挑戦でしたよね。金属探知機で完成した本を検査するところまで再現しています。
講談社の書庫に着想を得た空間
杉原 パビリオンの内装は、講談社の歴史や本が持つアカデミックな雰囲気、文化的なものを切り口に、ファンタジックな方向ではなくリアリティの方向での解釈で、スケッチを描かせていただきました。吹き抜けのように高さがとれるユニークな空間も生かしています。
酒井(児童図書編集チーム) 杉原さんの描かれた内装のスケッチを拝見してすごく感動しました。
小寺 実はすごくこまかな絵を描くんです(笑)。杉原はキッザニアの建築内装が絡むプロジェクトはほとんどマネジメントしていますから。
飯島 講談社は社屋のアトリウムに森のように生い茂る植栽が広がっていますが、それを緑を基調に表現していただいたり、本館や図書館の雰囲気もうまく取り入れていただいて。
嶋中 お二人には講談社の歴史からいろいろお話しして、社内も見学していただいたんですよね。
杉原 本に囲まれた空間を表現する上で、そこに実際に何が並ぶかというのが一番ネックだったんですけど、書庫からヒントを得た合本がすごく効きましたね。
嶋中 講談社の書庫には歴代の雑誌などをまとめて保存している合本が並んでいますが、それが雑誌によって色が違っていて面白いじゃないかという話になったんですよね。現物を貸し出すことはできないので、本で敷き詰められた空間にするため、写真を使って内装に取り入れました。持ち出し禁止の「禁」シールもそのまま生かしています。
杉原 合本の背表紙を200冊以上撮影してつくった内装なので、並んでいる合本をよく見ると、講談社の雑誌の名前が入っているんですよね。それがキッザニアの中の出版社にあるというのは、ストーリー的にも面白いので、導入できて良かったです。
小寺 子どもたちが体験している間、外から見る親御さんたちも、「あの雑誌がある!」という気づきがあって楽しいんじゃないかと思います。
杉原 そういうレイヤーで楽しめる、ここまで内装にこだわったパビリオンって、制作側としてもなかなかない。当事者しか知り得ないものが入ってくるのは制作側として非常にうれしいです。やっていて面白かったですよ。あと、子どもたちに何を着てもらうかも、パビリオンという舞台に対しての舞台衣装、という関係性ですから、リンクしているところがありますよね。
嶋中 出版社は服装が自由ですから悩みましたが、どんな服にも合わせやすいということでノーカラージャケットを選ぶことになりました。グレーも検討しましたが、色合わせがしやすい紺色に決定。内装がクラシックな雰囲気なので、金ボタンも外せないよねと。
小寺 あらゆる金ボタンを探しましたね。
酒井 生地も、いろいろなものを何パターンも揃えていただいて比較検討しました。
体験を通して伝えたい編集者の仕事や本の魅力
嶋中 このパビリオンで子どもたちが「本をつくるのって楽しいな」と思ってもらえたら、それはうれしいことですよね。
飯島 普段なにげなく見ている本も、1冊1冊すべて違う。それに気づくと、自然と自分の興味のあるものが見えてくると思うんです。体験を終えて外に出たときに、世界が少しでも違って見える子がいてくれたら幸いです。
酒井 アクティビティの体験を通して広がった興味が、子どもたちの中に一人ひとりの好きなこととして少しでも残ったらいいなと思います。
小寺 アクティビティの中にも盛り込んでいますが、講談社の「おもしろくて、ためになる」というメッセージは届けたいです。自分が「おもしろい」と感じたことを人に伝える楽しさに出会う良いきっかけになれたらうれしいですね。
杉原 「こんな素晴らしい本をつくることができた!」という経験を持ち帰っていただき、自分の好きなモノやコトに出会ったときに、それを原動力にして、次のアクションや成長に繋げていってほしいと思います。
紙とデジタルのバランスにも配慮
飯島 紙とデジタルという、今の出版を考える上で欠かせないテーマも、このアクティビティでは絶妙に、両方の良いところを取り入れられたんじゃないかと思います。『MOVE』のアクティビティでは、タブレットを上手く活用しながらも、雑誌のロゴが入ったA5サイズにくり抜かれた枠を使って、大きく出力された写真に当てながら、「どの写真だと表紙のロゴと相性がいいか」とか、「どういうふうに写真を切り抜いたらいいか」など、実際に紙と手を動かして考えるフェーズを入れていただきました。『どこ?』も、校了作業はデジタルで行いながらも、本物のジオラマに、子どもたちが自分の手でアイテムを置き、シャッターを切るというアナログな動きを取り入れていて、出版社らしさが出ています。
小寺 そういうアナログな作業も盛り上がるポイントになっていますよね。このアクティビティはすごく要素が多いので、子どもたちもやることがいろいろあってとても忙しいのですが、体験した感想を聞いてみると、大変だったというより、「次はあれをやりたい!」とか、「1冊全部自分でつくってみたい!」という声が上がったりします。もっとやりたいという気持ちがふくらんでいるんですよね。子どもたちも普段は読者として本で読みたいことや知りたいことがあると思うんですけど、アクティビティを進めるうちに、いつの間にか「自分はこれが面白いと思ったから、これを伝えたい!」って、ちゃんと編集者らしい言葉になっていくのが本当に素晴らしいです。プロのみなさんたちが実際に使っている本物をいろいろ提供していただいたのも大きいと思いますよ。
「動物」ではなく「生きもの」の図鑑にしたわけ
杉原 『MOVE』でページを編集するとき、自分の好きな動物を一から選ぶことはできないというのが実はポイントですよね。お仕事として、編集長に割り当てられたものを編集しなきゃいけないという。
小寺 そこは子どもたちのモチベーションを下げないためにも選べたほうがいいのか、いろいろご相談させていただきましたよね。でも、仕事として1冊の本をみんなでつくり上げるというコンセプトを成立させるためには、編集長が担当を割り振るということも必要だと。「そういうことって、リアルにあるんですか?」と質問しましたよね。
嶋中 そうですね。編集長を歴任してきたうちの上司も、「そういうことは実際にある。それができるかできないかが編集の腕だ!」って。渡されたものをいかに自分で面白くするか、それを面白がれるかということだと言っていました。「そうじゃないと全部が誰もが選びがちなパンダになっちゃって、おもしろい生きもの図鑑じゃなくなってしまうでしょう」と。
杉原 なるほど(笑)。
小寺 アクティビティのために用意した『MOVE』には、「こんな生きものも入ってるんだ」というバラエティの多さを感じます。ライオンやサルといった、みんなが知っている生きものだけではなく、「バシリスク」や、「ヒクイドリ」といった生きものも。最初は指名して割り振るということを決めたときに、ある程度みんなが知っているような生きものが並ぶと思ったのですが。
杉原 我々からするとショッキングというか、虫や爬虫類が苦手といったようなこともカバーできる、愛玩目線でのセレクトが一番安定するんじゃないかとシンプルに考えていたんです。そうしたら、「それじゃあ『MOVE』らしくない!」ということで。
小寺 そうなんですよね。こういう生きもののラインナップでとご提案いただいたときも「苦手な子とかが心配です」みたいなこともいろいろやりとりさせていただいたんですけど、『MOVE』編集チームの方からいただいた生きものラインナップがこどもたちにばっちりとはまりました。こちらもすごく勉強になりました。バシリスクやヒクイドリ、あとはカエルとかも入っているのですが、けっこう驚くような見たこともないきれいな写真がたくさんあるんですよね。最初は「カエル苦手!」と言っていたような子も、「こんなにキレイだったんだ、面白い!」「このカエル可愛い!」となって、それがそのまま編集の力になっていくというか、モチベーションに変わっていくシーンを何度も見ました。
杉原 うん、やっぱり写真の力があったよね。
飯島 最初は「動物」の図鑑というテーマをご提案いただいていたのですが、『MOVE』編集チームのほうから、「動物だとどうしても、茶色系の種が多い。カラーのバリエーションをつけるためにも『生きもの』にしてほしい」という要望を出させていただいたんですよね。
小寺 あのとき、すごく「なるほど!」と思いました。
嶋中 哺乳類は茶色いから“映え”ないと、編集長が(笑)。
小寺 あれからみんな意識的に「動物」とは言わなくなりましたね(笑)。
キッザニアと講談社、双方の並々ならぬこだわりが
小寺 成果物に関しても、体験の流れに関しても、編集者のみなさんの想いをたくさんお伺いすることができました。そういったコミュニケーションを通じて本格的な「編集者」の職業体験を作り上げることができたのだと思います。
杉原 最終的に、編集という仕事は作家の先生から預かったものに魔法をかけるようなものだという講談社様の想いに、プラスアルファのエッセンスを入れることができました。こどもたちが1冊の本を編集していくというストーリーを一緒に作りあげることができたおかげで、「リアリティ」を持ったお仕事を表現できたんじゃないでしょうか。
キッザニア東京「出版社パビリオン」の詳細ページはこちら
https://www.kodansha.co.jp/kidzania/
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