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『時計の科学』が解く5000年──なぜ0でも1でもなく「12」が頂点なのか?
(著:織田 一朗)
お近くの時計の文字盤を見てみてください。デジタル時計じゃなくてアナログ時計を。文字盤の一番上は12ですね? 0でも1でもなく12から始まっていますね?
のっけから何を当たり前のことを言い出すんだとお思いでしょう。現代に生きる皆さんにおきましては物心つく前から時計の文字盤は12から始まっていることと思います。なので時計というのはそういうものに決まっているとばかりに、あまり疑問に感じることはないでしょう。でも、いざ指摘されてみると、「はて、何故だろう」と思いはしませんか?
他にもなぜ時計の針は右回りなのか、とかなぜ60進法なのか?というように、身近すぎて疑問に思わない不思議や疑問が、時計にはたくさんあることに気づかされます。
本書『時計の科学』は、時計の成り立ちから今日に至るまでの時計の進化と、これからの時計について解説する過程で、時計の疑問を解決しつつ、奥深い時計の世界に誘ってくれます。
さて先ほどの「時計の文字盤はなぜ12から始まるのか?」に対する答えですが、「0(ゼロ)の概念が発明されるずっと前から時計が利用されていたから」です。
そもそも人類史のなかではじめて時計の痕跡が見つかったのは、いまからおよそ3000年から4000年ほど前、メソポタミア文明の遺跡や、古代エジプト文明の遺跡から。なのでいまから5000年前には時計は使われていたことになりますが、0の概念が発見されたのは7世紀のインドなので、その時にはすでに時計は存在していたというわけです。
7世紀の世の中では、さすがに現代のような機械式の時計はまだ現れてはいなかったものの、現代と同じ『12』を頂点に載いた文字盤が使われていたようです。
日時計から始まった時計のあゆみは、水時計や火時計などに端を発する『時計』という仕組みを考え、『時間』という概念を高い精度で観測するためにさまざまな技術を産み出し、文化や文明を発展させてきました。
時間を観測する精度を向上させるための物差しという視点で時計を捉えると、時計とは何なのか?という問いにたどり着くのですが、本書ではそれに対する答えが冒頭に前提知識として案内されています。
時計には必ず、
①駆動するエネルギー源
②時間信号源となる規則正しい振動(サイクル、リズム)
③時刻の表示機構
が必要であるということです
前提となるこの知識を踏まえて本書を読み進めていくと、時計というものは原始的な日時計も、先進的な原子時計も元となる概念は同じであって、それぞれの仕組みを進化させることで形を変えて今日に至っているのだということに気づかされます。
また、歴史の中で語られる時計職人や企業の努力のエピソードが魅力的です。
本書で触れられている時計の歴史の中で個人的に面白かったのが、16世紀に航海用のマリンクロノメーターを45年かけて作り上げたイギリスの大工のエピソード。
大航海時代のヨーロッパ、当然GPSなど無い時代。航海中の船は天文観測で方角を把握し、船の速度と時間で位置を割り出していたので、時計の精度が重要でした。しかしその当時の機械式の時計は振り子を用いていたものが主流で、船の上では揺れなどの影響で役に立たなかったため砂時計が使われていたそうです。
とはいえ砂時計は長い時間を計測するのには向いていないので時計の精度としては低く、そのため何隻もの船が難破して多くの命が失われていました。そこで英国議会は懸賞をかけ、時計の精度向上に乗り出します。
そこに応募したヨークシャーの大工の男ハリソン。海の上でも正確に時間を計れる仕組みを考え出して懸賞に提出するも、自ら欠点を認めて再開発を申し出る。
2年後に精度も耐久性も向上した2号機を提出するが、見せただけで実験航海に提出せずに持ち帰る。
その後18年間!沈黙を続ける。
小型化、新発明の技術を盛り込んだ3号機を開発してからやっと提出する。
その3年後に大幅に小型化した4号機を再提出する。
都合45年間かけて満足のいく時計を作り出すといった執念はすごいのですが、そこに至るまでの行動がまるでマンガのようで、その時代に生きる人間の営みが微笑ましくも熱く感じられます。2号機を見せるだけで持ち帰ってその後18年間沈黙を守るとかなかなかできることではないですからね。
人類の進歩とともに進化してきた時計。精度が向上するにつれ、時間の考え方についてさまざまな課題が生まれました。
時計で観測できる時間は、あくまで人工の時間尺度です。そのため原子時計などの超高精度の時計によって作り出されてた秒以下の世界が、自然界の時間との乖離を広げててしまっているといいます。
5000年の歴史をもつ時計の世界ですが、時間の単位がこのままで存続するのは難しいのではないか、という問題提起で本書は締められておりますが、単位は変わっても時計が放つ魅力に変化は無いのではなかろうかと感じます。
時計の知識をギュッと濃縮しつつも明快にまとめられた本書は、時計の雑学本ではない本質的な時計と時間の知識が得られます。
- 電子あり
人類が「時間」の存在に気付いたのは、いまから5000年以上も前のことです。
太陽の動き利用した「日時計」から始まり、周期を人工的につくりだす「機械時計」の誕生、精度に革命を起こした「クオーツ時計」、そして時間の概念を変えた「原子時計」まで、時代の最先端技術がつぎ込まれた時計の歴史を余すところなく解説します。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。
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