むかし、子ども向け雑誌に載っていた「21世紀はこうなる!!」というような未来予測の記事、「仕事や家事はコンピュータやロボットがやってくれて、人間は悠々自適な暮らしをする社会」。
21世紀も17年目を迎えた2018年になってもそんな未来には時間がかかりそうなのに、その一方でスマホやインターネットが進化するにつれて、なんだか前よりも仕事が増えているような気がする現代社会で闘う皆さん、ちゃんと睡眠、とれてますか?
明日、大事な試験があるとします。もしくは取引先へ向けた大事なプレゼンが控えていたとします。だけど全然満足のいく準備ができていない。そういうとき、皆さんはどうするでしょうか。諦める? いっそ開き直って運を天に任せる?
そんな強いハートを持つ人はさておき、多くの人が一夜漬けの勉強(悪あがき)をしたり、徹夜でプレゼン資料を仕上げたりして挑むのではないでしょうか。
眠気と闘いつつ単語や年号や公式を覚えたり、なんだか良くわからないけど深夜のテンションに任せて資料を作ったりしていざ本番を迎えるけども、どうにも睡眠不足で集中力が続かずに不本意な結果になってしまった……。なんて経験に覚えはありませんか?
そんな眠りをおろそかにしがちな現代人にぜひ読んでもらいたいのが、『睡眠の科学 改訂新版』です。本書は睡眠研究の第一人者、櫻井武氏が2010年に初版を上梓した『睡眠の科学』に、最新の研究成果と臨床による知見を加え、アップデートされた眠りについての最前線といえるでしょう。
ヒトはなぜ眠る?
ヒトはその生涯の3分の1を眠って過ごすといいます。人生が75年とすると、一生を通して25年もの時間を睡眠に費やすことになります。
もし、この時間を睡眠以外に充てて他のことをして過ごすことができるのならば、仕事でも勉強でも趣味でも、何だって出来るんじゃないかなどと考えたことはないでしょうか。その気持ちはとても良くわかりますが、実際問題寝ないとやっていけないのは承知の通り。
イラスト/玉城雪子
ではなぜヒトは眠るのでしょう。身体の疲労を取るためならば、おとなしく横になればある程度の体力は回復するのに、睡眠状態という意識を失った、無防備な状態になってまで眠らなければならない理由は何なのでしょうか。
本当に怖い「眠らないことの弊害」
睡眠不足の翌日は、眠くて調子が出ないなんてことは誰しも一度くらい経験があることでしょう。
居眠りをして電車を乗り過ごしてしまったり、普段だったら犯さないような凡ミスをしてしまったりというような、注意力が著しく低下した状態になります。なぜなら一晩徹夜すると、かなり酒に酔った時と同等の注意力の低下をもたらすということです。なので、酒に酔ったときにSNSに不用意な発言をしてしまう人は睡眠不足の時にも不用意な発言をしてしまいかねませんし、その状態で自動車を運転したら当然飲酒運転と同じくらいの危険度になってしまいます。こちらは飲酒運転と違って罰せられませんが。
そういった社会生活上のリスクだけではなく、睡眠をとれない状態が続くと、最終的には免疫機能に失調をきたし、最後には多臓器不全で死に至ってしまうといいます。
さすがに、われわれヒトがそこまでの断眠状態に陥ることはありませんし、重い障害をきたす前に必ず眠ってしまうので心配することは無いということですが、これだけでも睡眠を疎かにすることの愚かしさを実感できることでしょう。
レム睡眠とノンレム睡眠
ヒトは眠るとまず、ノンレム睡眠に入り、その後60分から90分ほど経過するとレム睡眠に移行します。
名前のせいで勘違いしやすいからでしょうか、ノンレム睡眠が深い眠りで、レム睡眠が浅い眠りというように捉えている方もいるんじゃないでしょうか。私がそうでした。
しかし、そもそもノンレム睡眠とレム睡眠は眠りの浅い深いという問題ではなく、睡眠の性質からして全く違うといいます。
乱暴に言うならば、ノンレム睡眠は脳を休ませる睡眠で、レム睡眠は身体を休ませる睡眠と言えなくもないのですが、イメージしやすいようにパソコンに例えると、ノンレム睡眠の状態は、パソコンのスリープモードに入った状態で(シャットダウンだと代謝も止まって死んじゃいますからね)、レム睡眠時はパソコン自体はオンだけど、キーボードやディスプレイなどのインターフェースを外して、ネット接続も切ったオフライン状態のパソコンということになります。
そのため、レム睡眠の間の脳はむしろ覚醒時よりも強く稼働しているため、その活動の反映として夢を見るのだということです。パソコンやシステムに置き換えて考えると、まさに睡眠は心身のメンテナンス。睡眠時にデータの最適化を行って記憶や能力を向上していると言っても過言ではないのでしょう。
このように本書は、現時点でわかっている「睡眠と覚醒のシステム」を最新の研究成果からひとつひとつ解説していきます。それこそ寝ないですむクスリはあるのか?とか、寝だめはできるのか?とか、身近な睡眠の疑問を例に挙げつつ睡眠の本質に迫っていくのです。が、ヒトは何故眠るのか?という問いについて櫻井博士は繰り返し「明確な答えは現時点でまだ出ていない」と言うのです。唯一確実なのは「眠気を追い払うため」と。
そんな謎に満ちた睡眠について、知っておけば休日に惰眠を貪るひとときの家族へのエクスキューズに活用できるのではないでしょうか。それはさておき、睡眠に親しめる1冊です。
それではおやすみなさい。良い睡眠を。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。