「どうすれば幸せになれるのか」
この本は、幸福学を追究している著者が、誰も持っている「幸せ力」を高めて、幸福度を向上させるにはどのようにすればいいかを“実践的”に解き明かした快著です。
ロボットや脳科学を研究してきた著者が「人間にかかわるシステムならばすべて対象」「人間にとって必要なものを創造的にデザインする」という立場で研究を進め到達した“幸福学”のすべてが語られています。
そもそも“幸福”とはどのようなことをいうのでしょうか。
幸せな人とは、夢や希望や強みを持ち、つながりと感謝を持ち、前向きかつ楽観的に、自分らしく生きる人です。あるいは、自分を信じ、他人を信じて生きている人です。
逆に不幸な人とは、夢や希望や強みを持てず、孤独で、うしろ向きかつ悲観的で、人の目を気にしすぎる人。自分を信じられず、他人を信じられない人です。
ではどのように幸福への道を歩むことができるのでしょうか。まず自覚しなければならないのは、人は誰でもすごいポテンシャルを持って生きているということです。けれど、ほとんどの人は自分のポテンシャルに気がつかないか、あるいは自分で蓋をしてしまっているのです。なぜでしょうか。そこには現代人特有の思い込み(病)があるからです。
・学習性無力感:どうせやってもムダ。
・学習性無能感:自分の能力なんてこんなもの。
・学習性問題解決能力欠乏感:どうせ自分にはこの困難を解決できない。
・学習性夢欠乏症:かなわない夢なんて持ってもムダ。
・学習性幸せ拒絶反応:どうせ私はそんなに幸せにはなれない。
このような“思い込み(病)”に陥っているのが私たちです。この思い込みに「学習性」という冠がついているわけは、「本当は、自分の課題や世の中の課題をどんどん解決できるポテンシャル」を持っているのに、現代社会が「秩序を維持するために、古い制度や組織や常識が、みんなの羽ばたくチャンスを奪っている」からです。つまり「誤った選択、挫折、トラウマ、とらわれ、恐れ、あきらめ」などによって自分のポテンシャル、つまり可能性に目をつむらされているのです。
このような壁を打ち破るために著者が提唱しているのが「人間万能仮説」です。といってもいわゆる全能感を持つのとは少し違います。幸福学の肝の1つですから、本書を読んでこの違いをじっくりと自分の目で確かめてください。幸福感と(他者への)優越感とはまったく異なるものですから気をつけなければなりません。支配欲などもってのほかです。
冠の「学習性」にはさらに注意しなければならないことがあります。私たちが「無力感や無能感を学習」してしまうということです。それにとらわれると「脳は無意識に能力を閉ざす」ようになってしまいます。「人間万能仮説」どころではなく“自己無能感”に陥ってしまいます。これまでに身にふりかかった、経験したさまざまな嫌なこと、マイナスに感じさせられたことがもとで、自分の持っているポテンシャル(潜在能力)に蓋をすることになってしまいます。
ここまでくれば幸せへの第一歩がなにかがハッキリしてきます。それは自分の中に秘めている無意識の力を引き出すということです。自分の持っている「無意識のポテンシャル(潜在能力)」をつかみ、自覚し、伸ばすことが幸せに導く道です。「幸福」への歩みを進めることができます。
こういう人を想像してみましょう。
どんな困難にも「なんとかなる」と立ち向かい、いつも自然体で「ありのまま」。「やってみよう」というチャレンジ精神にあふれ、どんな試練にも「ありがとう」という感謝を忘れない。
著者がモデルにした「幸せな人」です。この「なんとかなる」などカッコの中の要素を著者は「幸せ因子」と呼んでいます。それらはどのような働きをするのでしょうか。
1.「やってみよう」因子:自己実現と成長の因子→強み、社会の要請への対応、個人的成長、自己実現。
2.「ありがとう」因子:つながりと感謝の因子→人を喜ばせる、愛情、感謝、親切。
3.「なんとかなる」因子:前向きと楽観の因子→楽観性、気持ちの切り替え、積極的な他者関係、自公受容。
4.「ありのままに」因子:独立と自分らしさの因子→社会的比較のなさ(自分のすることと他者がすることを比較しない)、制約の知覚のなさ(自分に何ができて何ができないのかを外部の制約のせいにしない)、自己概念の明確傾向(自分自身の信念が変化しない)、効率追求のなさ。
この4つの因子を違う面でとらえれば「折れにくい心を作る」因子にもなります。この「折れにくい心=レジリエンスの高い心」を作ることは実は幸せになる基礎体力を作ることになります。
折れにくい心を作り「幸せ」というものに近づくにはまず今の自分の性格(心)の特徴を知ることが大事です。この本に性格や強みを知るのに役立つ「ビッグファイブ」という質問が紹介されています。
1.活発な性格である:外向的・内向的をつかむ。
2.誰にでも親切にするよう心がけている:協調的・非協調的をつかむ。
3.何かを行うとき最後までやり抜く:統御的(勤勉性)・非統御的をつかむ。
4.あまり悩んだり考え込んだりしない:情緒安定・神経質をつかむ。
5.本質をつかむことや分析が得意:開放性(知性)・保守性をつかむ。
5つの質問にそれぞれ1から7までの得点をつけて調べます。具体的な使い方、その結果の判断の仕方などは本書をごらんください。テストをすると今の自分の(心の)位置が腑(ふ)に落ちるようにわかります。
この本にはさまざまなテスト・診断が掲載されています。ひとつひとつ自己診断しながら読み進めてください。どのようにすれば「折れにくい心=レジリエンスの高い心」を作ることができるか、さらに自分のポテンシャルを知ることができると思います。「どうせ〇〇だから」という気持ちをすてて自分の可能性を探る旅に出てみましょう。楽しく読み、自己診断するにつれて幸せな自分とはどのようなものなのかを実感できると思います。それを通して誰もが幸せへと歩んでいってほしいのがこの本に込められた著者の願いです。この本は古今東西のさまざまな知恵・知見を取り込んだ類のない幸福実践書です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。