ここ数年、城が来ていると異口同音に耳にするようになりました。大河ドラマ「真田丸」や「おんな城主直虎」の聖地巡礼や、城を擬人化したソーシャルゲームなど興味を持つきっかけは様々考えられますが、きっかけはどうあれ老若男女問わず様々な層に“日本のお城”の魅力が気付かれ始めたのでしょう。
現にお城の訪問者数は右肩上がりで増加しているといいます。少し前のデータになりますが、「全国城郭管理者協議会」によると、平成27年度の全国各地の訪城者は2200万人にのぼり、それまでの5年間で600万人も訪城者が増加しているとのこと。
太陽の光を受けて輝く天守の姫路城 撮影/萩原さちこ
確かに城は堂々たる姿に美しい意匠、天守に上れば心地よい見晴らしといったように、事前知識を持たずに訪れてもわかりやすく魅力的な存在です。そう言われてみればこんなに魅力的な城にブームが来るのは必然といえるのではないでしょうか。
松本城 撮影/萩原さちこ
では、そんな城の魅力に気付いた方が、お城に訪れた際により楽しむには、どこに着目すれば良いのか。そんな城の見方や楽しみ方の基礎知識を授けてくれるのが萩原さちこ氏による『城の科学 個性豊かな天守の「超」技術』です。
城についてもっと詳しく知りたくなった時に、はじめの一歩としてうってつけの1冊です。
城を辞書で紐解いてみると、「外敵の侵入を防ぐために設けられた建築物」とあります。時代劇での城の描かれ方や、西洋のおとぎ話などで描かれるお城は、どちらかというと「宮殿」といった扱われ方をしているのでうっかり忘れてしまいがちですが、城は軍事施設なのです。
したがって、織田信長の頃の軍事的な要所であった城と、秀吉が天下統一した後の城と、徳川幕府による太平の世の城とでは、求められる仕様や設計などが変わってくるのは当然のことと言えます。
そういった史実に基づいて城の成り立ちを紐解いていくことによって、かつて学生の頃、日本史で学んだおぼろげな記憶と結びつき、あたかも知っていたかのような感覚を得ることができるでしょう。本書の解説はそれくらい要点を絞り、やさしい語り口で綴られています。
また、城は日本の伝統的な木造建築であるという見方で見るとこれもまた楽しむポイントが増えます。天守の大きさは様々あれど、あそこまで大規模な建築物を築くにはさまざまな技術やノウハウを駆使して成り立っているわけです。
たとえば、多層階の建築物を作るために上下のフロアを貫く「通し柱」の仕組みに、そういった柱を梁などをつなぐための継ぎ手の手法などという建築技術。
さらに城という「建築までにスピード感が求められる軍事施設」を迅速に建てるためにあえて新しい生木を避け、古材を再利用するといったノウハウと、領域は多岐にわたります。
本書では城の歴史と同じように、その技術の説明からその技術や考え方が必要とされた背景にいたるまで、豊富なカラーの図と実際に使用されている城の写真を交えて手厚く解説されています。城を見に行く道すがらページを手繰りながら向かえば、実際にその地に立った際にその城がなぜすごいと感じるのか、どうして美しく感じるのかと色々と気付くところが増えるのではないでしょうか。
こういった、古くからの物を愛でる趣味はとかく先鋭化しがちで、「○○は××だからダメだ」というように、その対象物を愛するあまり、初心者に呪いをかけてしまうような物言いのアドバイスや論を見かけがちです。しかし萩原さちこ氏は本書において、徹底的に初学者に向けて先入観を持たないよう、極めてフラットなスタンスの解説に腐心されているように読み取れました。
『城の科学』で取り扱っている対象は、わかりやすくキャッチーな『天守』をフィーチャーして間口を広げておりますが、まんまと『天守』だけでない城の魅力の世界に引き込まれてしまいます。
2015年に姫路城が平成の大修理を終え、築城当初の白い威容を現代によみがえらせたのをはじめ、2016年には小田原城の修復が完了し、本年2018年には名古屋城の本丸御殿の復元が公開されるといいます。
さらに本年の大河ドラマがらみで言えば戊辰戦争に関連した城が注目されるでしょうし、きっとこれからも毎年旬な城が登場してきます。
戊辰戦争の激戦地、白河小峰城 撮影/萩原さちこ
そんな様々な城たちに共通する城の神髄の一端に触れられる本書、連休の行き先を決める前などにオススメです。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。