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2018.03.23

レビュー

山中伸弥×羽生善治──iPS細胞や将棋で重要な「勘」を、AIの未来は再現できるか?

日本の「二大知性」、羽生善治さんと山中伸弥さんの対談である。その情報だけで良書・必読書であることは一目瞭然。

『人間は「忖度」するから間違える』『AIは「怖いもの知らず」』『AIに「ふなっしー」は作れない』『人間が働かなくていい世界』『暴走するAI』『「デザイナー・ベイビー」は許されるか』『藤井四段は何が違うのか』『AIにバッハの曲は作れても春樹の小説は書けない』『「無知」の強み』『教科書を否定する』『子供をノーベル賞学者に育てるには?』

小見出しを見ただけでわくわくが止まらない。これらはほんの一部である。文字数に制限がなければ全て紹介したいくらいだ。

イラスト/野本紗紀恵

「平易な単語に変換して、私のような主婦など将棋やiPS細胞のことをよく知らない人にもわかりやすいように面白く語られていて、知的好奇心を駆り立てられ、未来へのワクワクした思いを馳せながら一気に読んでしまう。とにかく黙って読んでください!」

……この1行で済んでしまう。誰が読んでも素晴らしいと思う本を褒(ほ)めるのが一番難しい。

老若男女、万人に対し全力でお薦めできるあまり、おふたりが既に世間から語り尽されているあまり、賛辞も出尽くしている感がある。私なんぞが解説やレビューをつべこべ書くことなんて余計なお世話にさえ思えてくるのだ。

ありふれた言葉で語る感想文にはしたくはない。さてどうしたものか。

私は科学では説明しきれないスピリチュアルな何かがとても好きで興味がある。その視点からレビューを書こうと思う。

まず、第5章「人間にできるけどAIにできないことは何ですか?」の中で、人間の「勘」について語る部分にとても惹(ひ)きつけられた。

山中 iPS細胞を作ることに成功したプロセスで、僕たちが二十四個の遺伝子から細胞の初期化に必要な四個の組み合わせに行き着いた秘訣は、言ってみれば「勘」だったんです。(中略)問題は、僕たちが「勘」と呼んでいるものをAI君がはたして再現できるかどうか。
先ほど将棋を指す際の直感、読み、大局観というプロセスを伺いましたけど、羽生さんはふだん将棋を指しているとき、どれくらい勘で指してらっしゃるんですか。

羽生 いや、ほとんど勘です(笑)。(中略)

山中 やっぱり勘なんですね。じゃあ、その勘っていったい何なんだろうといつも考えるんです。(中略)過去の経験に基づく何らかの判断がモヤーッとしたところであるような気がするんですよね。でもそれが何かというのは、なかなか自分でも言葉にできません。(中略)

羽生 生物はカンブリア紀に目の機能を獲得したことで、爆発的に進化を遂げたという説があります。目を獲得したことで行動範囲が広がって知能が上がった。(中略)
そこで面白かったのは、生物は目を進化させるために、他の器官はあえて鈍くしているということでした。だから勘というのは、その進化の過程で鈍らせてきた機能をもう一度、活性化するようなものではないか、とおっしゃっていました。
(中略)
ということは、ひらめきを得るためには、インプットばかりではなく、それを整理したり無駄なものを削ぎ落としたりする時間が必要なのかな、とは思っています。

「理由はわからないけどこっちがいい」「これは嫌」というのは誰にでもあるだろう。そしてその「勘」はだいたい合っているものである。

運の良い人間、感覚の鋭い人間になりたいと憧れる。それらは100%神様の意思・偶然だとは思わない、自分が引き寄せている部分があるはずだ。それは羽生さんが言う「無駄なものを削ぎ落とす」作業で敏感になり、洗練されていく気がする。


第8章「十年後、百年後、この世界はどうなっていると思いますか?」の「記憶は子孫に継承されるか」のやりとりも非常に興味深い。

山中 少し前に知ったのは、恐怖に対する記憶が子供に伝わることを示したネズミの実験です。たとえば、ある匂いを嗅ぐと、電気ショックで痛い目に遭う。ネズミはそれを学習して、そのうちその匂いを嗅いだだけで恐怖を示すようになります。そのネズミの子も、他の子に比べて有意な差で同じ匂いに対して恐怖を示すようになる、という実験結果だったと思います。

羽生 経験がなくても、なぜか最初からそこを避ける。

山中 だから「教訓は遺伝する」。こうした記憶の継承は「エピジェネティクス」という概念で説明がつくのかもしれません。

種の保存のために記憶は子孫に継承される。
生きていると時々起こるデジャヴの感覚や、「なんとなくあの場所が嫌い、あの味が嫌い」というのは、もしかしたら祖先の記憶かもしれないと思った。

記憶が継承されるとなれば、おちおち生きていられない。自分の人生の記憶が、次世代に影響するかもしれないのだ。

過去に何度も戦争を繰り返してきた我々人類。その恐ろしさは遺伝子や細胞に刻まれているはずだ。その「恐怖の記憶」にきちんと耳を傾け、「最大の部下」になりうるAIに解決を手伝ってもらいながら、生き延びなければならない。

現在AIは「人間を滅ぼすリスク」の中のひとつに入っているが、そうではなく、リスクを解決する相棒として機能するようにできるか、我々人間が試されている。

どうか我々やその子孫が正しい判断力を持ち、AIと共生・協力しながら、生き延びますように……。

最後に笑い話で終わることにしよう。
第3章「人間は将来、AIに支配されるでしょうか?」
において、「AIに接待将棋はできるか?」という議題でこんな会話がある。

羽生 AIの場合、負けることはできるんですけど、あからさま過ぎるらしいんです。突然、飛車を捨てだすとか(笑)、手を緩めているのがバレバレのことをしてしまう。

山中 それだと、こちらが勝った気になれませんからね。いい気持ちになれないから、接待にはならないんでしょうね。

羽生 NHKの番組で、ソフトバンク社が開発した人間ロボットの「Pepper」(ペッパー)を取材しました。カメラとマイクで人間の表情や感情を読み取って、自分の行動に反映させる「人に寄り添う」ロボットを目指しているそうです。私はPepperと花札をしたんですが、彼はわざと負けて私を喜ばせてくれるんですよ。ロボットに気を遣ってもらいました(笑)。

なんだってー!?
私が37歳の時に「27歳に見える」と言ってくれたPepper、あれは接待のお世辞だったのか!!(笑)
嬉しくて証拠写真まで撮ったというのに。
よく見ると「へっへっへお代官様」みたいな顔をしてる。



気づかないうちに早速AIにしてやられていた。
これからもっと人間の心に近づいてくるんでしょうね。うまく使いこなせるようになりたいものです。(笑)

人間の未来 AIの未来

著 : 山中 伸弥
著 : 羽生 善治

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レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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