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自分の「死に時」を考える本──病院死8割、「幸せにポックリ」の確率は?
(著:たくき よしみつ)
超高齢化社会日本で誰もが直面するテーマである終末期医療や終活について多くの本が出版されています。闘病、病気への対処法、名医や病院、さらに介護施設の選び方などだけではなく、QOL(生活の質)の重要性について語られ、最期まで人間らしい生活、自分らしい生活をどのようにおくればいいかと、自分の最期を見つめさせるものも多く出版されています。
この本はそれらのものと少しく異なるところに特長があります。それは、たくきさんの実体験にもとづいて徹底的に「幸せな死に方とはどういうものか?」を追究したところにあります。
日本が世界でも稀に見る超長寿・超高齢国家になった今、「死に方」「死に場所」「死に時」を間違えることほど恐ろしいことはありません。
どのような「死に方」を望んでいる人が多いのでしょうか。
ほとんどの人は「苦しまず」「穏やかに」「ポックリと」という希望を持っていると思います。しかし、運任せにしてうまく死ねる人はほとんどいないのです。日本人のおよそ8割は病院で死にますが、病院ではまず「安らかに」死ねません。なまじ延命治療技術が発達してしまったため、病院のベッドに何ヵ月も縛り付けられたまま拷問のような状態で死を迎える人がたくさんいます。実際、私の母はそういう死に方でした。
著者の体験は母親の死だけではありません。認知症となった父親の介護の体験をも踏まえて著者がこの本で追究したのは「うまく死ぬための技術」「幸せに死ぬ技術」というものです。
では著者が体験し実感した、この“病院での死”の実態はどのようなものでしょう。ここには著者の実体験が色濃く反映されています。
病院で死ぬというのは、他人に囲まれ、自由のきかない環境で死ぬということです。(略)そこであなたは、鼻からチューブを突っ込まれ、それを取り除こうともがくとベッドに拘束ベルトで固定され、指を使えないように手にはミトンをつけられているかもしれません。最後の時を病院で迎えることの怖さは、本来「老衰」で自然死できたはずの人が、楽に死なせてもらえず「拷問」を受ける怖さだといえます。
病院では延命措置として患者にチューブをつなぎ「無理矢理水分や栄養分を補給」してしまうので患者は「なかなか死ねません」。延命措置には家族等の意思が含まれています。倒れた患者の姿を見て、家族は「できる限りのことをしてください」といってしまうことも多いでしょう。これは著者によれば、「病院での『できる限りのこと』とは、ありとあらゆる延命治療を意味」していることなります。著者はこう注意を促しています、「『できる限りのこと』というのは、絶対に口にしてはいけない言葉なのです」と。
このような入院状態になったとき、患者が感じていること、思っていることは周囲にはわかりません。意思表示ができなくなっていることは意思がないということではありません。
「家族が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話しあい、患者人とっての最善の治療方針をとることを基本とする」(厚労省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」)
つまり判断は家族等の周辺の人と担当医師に委ねられることになります。ですから元気な時に自分のQOLをどう考えていたのかが大事になります。その自分が思っていたQOLを家族等にきちんと伝えて了承しておくことが肝要になります。
それが自分の「死に方」「死に場所」「死に時」に大きく関わってくることはいうまでもありません。
「死に場所」でいえばこの本で「『家で死にたい』親と『家で死なせたくない』家族」との対比のもとで介護施設の選び方に触れています。これは「どこで看取るか」という問題に関わってきます。さまざまな施設や「地域包括ケアシステム」を検証した著者はこう結論づけざるを得ませんでした、「結局のところ、『看取り』はどこも引き受けたくない」のだと。
入所可能な施設が見つかったら、契約前にこう訊いてみましょう。
「ここで死んでもいいですか?」「ここで死なせてくれますか?」と。
その問いにどれだけしっかりした答え方をしてくれるかで、その施設のポリシーや姿勢がみえてくるはずです。
もちろんすべての介護施設が受け入れをためらうわけではありません。たくきさんが見つけた「日本一小さなホーム」の話を読むとホッとする人も多いのではないでしょうか。「普通の家」というコンセプトで営まれているこのホーム、辛いレポートが多いこの本の中で入居者も送り出す家族にとっても希望の光がともっているように思えます。(詳細は読んでください)
では「死に時」はどうでしょう。これを考えた章ではこんな衝撃的な1文が記されています。
今の日本では、終末期に一旦病院に運び込まれたら最後、幸せな死に方はまずできないということはよくわかりました。
取り上げたものは「安楽死」です。「積極的安楽死」「消極的安楽死」としてその内実をおっています。(もちろん「尊厳死」の意味をも含めて)
積極的安楽死というのは、安楽死を望む人に薬物を投与して確実に楽に死なせる行為──言い換えれば医師による自殺幇助です。(略)日本で安楽死、尊厳死と呼ばれるのは、人工呼吸器をつけたり栄養輸液をしないで自然死を促すというレベルの「消極的安楽死」です。
こうして、たくきさんはタブー視される領域・自死についても冷静な筆を進めていきます、「死に時はその人の価値観で変わる」という思いを持って。
QOLが人によって違う以上、「死に時」もまた違ってくるのは当然です。
ここから先は“読む人自身の価値観”の問題です。
大切なことは、死んでいく自分のことだけでなく、自分の死後もこの世界に残る人たちのことを思いやることです。そのために、最後まで細心の注意を払いたいものです。
自分は最期に向かってどのように生きたいのか、終活、終末期医療など、超高齢化社会日本で生きる人すべてにじっくり読んでほしい1冊です。著者の誠実な声が心に響いてくると思います。
- 電子あり
「できればポックリと死にたい」「穏やかに死にたい」。でも、そのためには準備が必要。このままでは、死ぬに死ねない!
病院死が8割を超える現代日本。そのほとんどの人が終末医療を経て亡くなる。
じつはこの終末医療、死にゆく人にとっては、「拷問」に等しい苦しみということはご存じだろうか。
人は死ぬ間際になると、栄養をほとんど必要としなくなり、枯れるように亡くなる。
いわゆる餓死のような状態が自然で楽な死に方。
しかし終末医療では、そうした状態の人に延命と称して、チューブで無理矢理栄養や水分を送り込む「処置」が行われる。そうやって死ぬに死ねない状態で、苦しみながらベッドの上で数ヵ月生き続けることになる。
それが本人にとって、家族にとって幸せな死に方なのだろうか?
いまでは「ムダな延命措置を拒否する」ことを希望する人も増えてきたが、それでも一度、状態が悪化してチューブを取り付けられたら最後、それを途中から外すことは、いまの日本ではきわめて難しい。
そのような状態にならないためにはどうすればいいのか。
本書では家族を相次いで介護することになった著者が、自らの体験をベースに、本人にとって、家族にとってベストの選択とはなにか、どうすればそのベストの選択ができるのかを明らかにしていく。
医者との付き合い方、介護施設の見つけ方、どのくらいカネがかかるのかなどなど。
人生でもっとも大切な最期の時間をみんなハッピーに過ごすためのガイドブック。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。
note⇒https://note.mu/nonakayukihiro
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