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若手芸人の恋と葛藤に共感MAX! 感動の傑作『南部芸能事務所』シリーズ
食わず嫌いしていた、とまでは言いませんが、一読してもっと早くに読みはじめるべきだったと後悔させられたのが、本書『南部芸能事務所』です。
著者は2010年に『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞を受賞してデビューした畑野智美さん。『南部芸能事務所』は、畑野さんが作家になって1年が経った頃に連載が決まり、2013年に単行本が出版された連作短編の小説です。以後、2作目の『メリーランド』、3作目『春の嵐』、4作目『オーディション』、そして完結編の5作目『コンビ』とシリーズ化されています。
僕が『南部芸能事務所』シリーズの存在を知ったのは、第1作目が文庫化された昨年3月でした。ちょうどそのとき発売されたばかりの文庫を買って、そのまま積読本のなかへ。すぐに読みはじめなかった理由は、この小説が若い漫才師を主人公にした「お笑い小説」だと勝手に勘違いしていたからです。
文庫本のカバーには、スーツを着た若い男性ふたりの絵。ふたりは若手の漫才師の風貌です。作中の描写から、このふたりは、南部芸能事務所でのちのちコンビを組むことになる新城と溝口のようですが、文庫を買った当時はそんなことは知るよしもなく、カバー裏のあらすじから「お笑いライブ」「芸人」「漫才」の単語を見つけて、ギャグ満載のコメディ小説なのかと勝手に決めつけていました。ところが最近になって、とんでもない勘違いをしていたことに気づかされます。
7編の短編からなる本書は、弱小芸能プロである南部芸能事務所に所属する芸人たちの、夢や目標、理想とはほど遠い現実、恋、葛藤を描いた人間ドラマの秀作です。各短編で視点人物が異なり、主に芸人たちが主人公の小説ですが、ギャグで物語を牽引していく内容かというと、まったくそうではなかったのです。
大学生の新城が芸人を目指すことを決意する第1話。美人のものまね芸人、津田ちゃんの複雑な恋を主軸にすえた第2話。先輩芸人トリオ、ナカノシマに視点が移る第3話。人気芸人に熱を上げる女子高生が主人公の第4話と、彼女が追っかけをしている芸人の苦悩が綴られる第5話。第6話では大正生まれの大御所芸人が主に過去を回想し、新城の相方の溝口が第7話で本書のトリをつとめます。
各短編の主人公たちは、みな理由は違えどそれぞれに悩みを抱えている。現状を打破したいともがき苦しんでいる人物は、ひとりやふたりではありません。彼らが懸命に努力する姿であったり、遠い夢と突きつけられる現実との間で苦悩する姿に、僕は大いに共感させられました。とくに新城が芸人になりたいと決意した瞬間の気持ちは、僕には痛いほどよくわかります。と同時に、新城たち南部芸能事務所の芸人たちが今後どうなっていくのか、彼らの人生の機微がどのように描かれてゆくのか、楽しみで仕方がありません。
シリーズはすでに完結していますが、僕はいまシリーズ2作目の『メリーランド』を読みはじめたばかりです。いろんな人が楽しめる内容の『南部芸能事務所』ですが、夢や目標に向かって頑張っている人には、とくにおすすめです。シリーズの特設サイトに掲載されている著者・畑野さんのメッセージにもこう書かれています。
「夢を追うことは、素晴らしいことです。苦しいことです。そして、夢を諦めることは惨めなことではありません。『南部芸能事務所』が誰かの背中を押す1冊になることを願っています」と。
僕の場合はたしかに背中を押してもらえました。新城たちとは目指している場所が異なるものの、僕も彼らと一緒に成長できたらなと思っています。僕だけでなくそんな気持ちにさせられた本書既読の読者はたくさんいることでしょう。『南部芸能事務所』、出会えてよかったと思える1冊です。
『南部芸能事務所』特設サイトはこちら⇒http://kodanshabunko.com/namb/
大学2年生の新城は、親友に誘われて見た「南部芸能事務所」のお笑いライブに魅了され、その日のうちに芸人を志す。漫才の相方探しをするうちに、女芸人の津田ちゃんから、同じ大学に通う溝口を推薦されるが……。弱小お笑いプロダクションを巡る愛すべき人々を、誰にも書けない筆致で紡ぐシリーズ第1弾!
レビュアー
![赤星秀一 イメージ](content/images/writer profile/akahoshi.png)
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。
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