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【どんな女性?】紛争現場と家庭を両立「国連日本人ナンバー1」中満泉の魅力
「クローズアップ現代+」武田真一キャスター現地取材でも話題。「国連」日本人ナンバー1・中満泉。世界の「平和をつくって」きたのは、この女性だった!
1990年代前半、湾岸戦争やカンボジアの国連平和維持活動(PKO)のニュースで、緒方貞子国連難民高等弁務官、明石康国連事務総長特別代表の名前を耳にするたびに、日本人としてとても誇らしい気持ちになったことをよく覚えています。
そして今年の5月、国連本部の事務総長、副事務総長に次ぐ事務次長ポスト で、軍縮部門のトップに日本人として初めて就任したのが、この本の著者、中満泉(なかみつ・いずみ)さんです。中満さんは、スウェーデンの外交官であるご主人 と中学・高校生の2人の娘さんを家族に持ち、出勤時に車を運転しながら娘さんたちと話すときが幸せな時間だと言います。仕事も子育ても両立している 中満さんですが、そこには常に命を懸けた覚悟がありました。
「クローズアップ現代+」(NHK 7月12日放送)では、武田真一キャスター自らがニューヨークで実施したロングインタビューが反響を呼び、翌7月13日には中満さん自ら執筆した『危機の現場に立つ』が刊行。今、世界で、日本で、一層の注目を集めている女性なのです。
29歳でサラエボへ。15キロの防弾チョッキに身を包み激戦地を駆ける
中満さんの30年近いキャリアは、そのままニュースで見聞きした世界の紛争地域と重なっています。
1990年、イラクのフセイン大統領が、一方的にクウェートを占領したことから始まった第1次湾岸戦争。アメリカを主体とする多国籍軍の投入で、落ち着きを見せたかに見えたイラクでは、政府軍と警察の無差別攻撃で数多のクルド人が犠牲となりました。
そして、雪が舞うトルコやイラン国境の山岳地帯には、175万人以上の難民が溢れ返ったのです。その難民の人道支援を行っていたのが中満さんで、このとき初めて人が亡くなる瞬間を見た衝撃が、その後の活動にも繋がっていきます。
中満さんが、国連難民弁務官事務所(UNHCR)所長代行としてサラエボへ赴任したのは、29歳のとき。
サラエボは、旧ユーゴスラビアを構成していた6つの共和国(スロベニア、クロアチア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)のボスニア・ヘルツェゴビナの首都で、1984年には冬期オリンピックも開催されました。その国が、わずか8年後に戦場となってしまったことに、当時、ニュースを見ていた私も驚きました。
その激戦地サラエボの空港へ、カナダの軍用機で降り立った中満さんは、15キロの防弾チョッキと4キロのヘルメットを着け、兵士の護衛のもと空港ターミナルまで走り続けたそうです。しかもそのとき、わずか150メートル先に迫撃砲が撃ち込まれたとか。
2ヵ月半勤務したサラエボでは、「水もなくシャワーも浴びられず、夜中過ぎまで仕事をし、オフィスで毎晩、砲撃の音を聞きながら雑魚寝をしたり、防空壕の中で数時間を過ごしたりという最悪の環境」だったにもかかわらず、再び旧ユーゴスラビアに戻り、2年以上活動。あくまでも「現場主義」を貫き通す中満さんは、強靭な精神力も併せ持つ人でもあります。
2人の娘を育てつつ、JICAアドバイザー、一橋大学教授、そして国連復帰
と、ここまで読み進めると完璧な仕事人間かと思ってしまうのですが、中満さんはNYで夫となるスウェーデン政府の外交官にあい、37歳で長女を、その5年後に次女を出産。国連を離れてスウェーデン のIDEA(イデア:民主主義・選挙支援国際研究所)に就職しますが、ご主人の東京転勤話が出ると何のためらいもなく、そこを辞職しています。 すでに日本を離れて18年。日本には仕事のツテもなく、当時は次女を妊娠中でした。世界の中でも日本は、女性が出産後も働き続けるのが難しい国。しかし中満さんは、「女性が仕事をすることも家庭を持つことも当たり前」というポリシーを貫き、次の仕事を探します。
そして子育てをしながら、緒方貞子さんが理事長を努めていたJICA(独立行政法人国際協力機構)のアドバイザーとして、さらに一橋大学大学院の教授として働き続けます。
この本を読んでいると、要所要所で人との出会いが中満さんを導いてくれたことに気付きます。過去に仕事をした上司の引き抜きや助けであったり、噂を聞きつけた人からのオファーであったり。でもそれは、中満さんの仕事に対する評価だけでなく、ブレない誠実な人柄や、自ら掴み取りに行く行動力が手繰り寄せたのだろうと思いました。
この5年間に子供のお受験やママ友とのお付き合いも経験した中満さんは、ご主人の転勤を機に、再び国連復帰を目指します。そして偶然、国連のホームページでディレクターレベルのポストの公募 を見つけ、様々な審査を経て、見事、採用を勝ち取ります。それが、今日に繋がるPKO局の政策部長のポスト でした。
女性が「危機の現場に立つ」ことのリアルとメッセージが凝縮
いつ死ぬかわからない。上の指示を待っていては間に合わない。そんな現場では、とっさの対応に迫られることばかり。
国連難民高等弁務官事務所所長代行としてセルビアに赴任したときの出来事です。 セルビア軍によって約8,000人のボスニア人が虐殺(民族浄化)された後、セルビア軍と国連保護軍が交わした停戦合意を覆そうと、中満さんは秘密裏に動きます。国連が民族浄化に加担することになると思ったからです。
敵対する2国間だけでなく、同じ国連から派遣されている国連保護軍(しかも各国から集められた大佐や将軍) 相手に一歩も譲らず、1人で交渉を続けた中満さん。
掟破りの方法で、へたをしたら大問題になりかねないことも、揺るぎなき信念で解決してしまったわけですから、凄い! と言う言葉以外、見つかりません。
こうした現場に立ち会った人でしか知り得ない真実や、各国の思惑が入り乱れ、「人間の最も恐ろしく汚い罪深いところ」を見てきた中満さんだからこそ書けるリアルな現状が、この本には溢れています。
その後、PKO政策部長のあと、アジア・中東部長になり、アフガニスタン、シリア、レバノン、イスラエルといった、これまた非常に難しい8つの地域のPKO活動なども取りまとめ、今年、国連軍縮担当事務次長となった中満さん。
「平和は苦労してつくり出し、大切に守らなくてはならないもの。自然と存在しない」という言葉に、ずっと平和な日本で暮らしている私は、ハッとさせられました。
私事ではありますが、小学6年生のとき、「将来、何になりたい?」と聞かれ、「困っている人を助ける仕事」と答えた私。何の因果かまったく違う仕事に就いてしまったわけですが、もし、当時の私がこの本を読んでいたら、必死に勉強をしてこうした仕事を目指していたかもしれません。
この本を読めば、国連がどんな活動をしているのかが、よくわかります。また、風化しつつある記憶を呼び起こし、国際協力やPKOや人道支援、そして女性がこういった所で働くということを考えるきっかけにもなる本だと思います。
- 電子あり
死と隣り合わせの現場で不条理な現実と、どう闘ってきたのか。国連軍縮担当事務次長であり、2人の女の子の母親である中満泉さんの初の著書。その生々しい交渉現場から、不正義への憤りと国連で働く意義、子育てとの両立まで、国際協力の現場を目指す人に有意義なメッセ―ジが詰まった一冊!
著者プロフィール(なかみつ・いずみ)
国連軍縮担当事務次長・上級代表。早稲田大学法学部卒業。アメリカジョージタウン大学大学院修士課程 (国際関係論)修了。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)旧ユーゴスラビア・サラエボ、モスタル事務所長、旧ユーゴスラビア国連事務総長特別代表上級補佐官、UNHCR副高等弁務官特別補佐官、国連本部事務総長室国連改革チーム・ファースト・オフィサー、International IDEA(民主主義・選挙支援国際研究所)官房長、企画調整局長、国連PKO局政策・評価・訓練部長、国連PKO局アジア・中東部長、国連開発計画(UNDP)危機対応局長など歴任。2女の母。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp
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