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2017.01.22

レビュー

悔いのない人生とは何か。会社で得た能力を社会で活かすには?

優しい言葉がふと聞きたくなる時があったら、そっとこの本をめくってどの個所でもいいので読んでください。自分の心が落ち着いて少しずつ元気が出てくると思います。

著者の佐々木さんは『働く君に贈る25の言葉』『そうか君は課長になったのか』などのビジネスマンへ向けた著書だけでなく、『ビッグツリー』の著書でも知られるワークライフバランスのパイオニアです。佐々木さんは、波瀾万丈の会社人生を送り、また家庭でもさまざまなことに遭遇し、それらを正面から受け止めて生きてきた人です。この本の随所で佐々木さんがぶつかってきた事柄が語られています。この本は彼の半生(生活史・個人史)に基づいたアドバイスをまとめたエッセイです。

50歳目前の後輩へ向けられた25通の手紙の形を借りて綴られたこの本、ここには仕事を越えて向き合わなければならない“ライフ”への思いが溢れています。

──人生の迷いの多くは、己を知らないことに起因しています。自分の性格や、資質、価値観を正確に把握していれば、それほど物事に迷うようなことはなくなります。──

『論語』にこうあります。
──「子曰く、吾れ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。(先生は言われた。「私は十五歳になったとき、学問をしようと決心し、三十歳になったとき、学問的に自立した。四十歳になると、自信ができて迷わなくなり、五十歳になると、天が自分の与えた使命をさとった。六十歳になると、自分と異なる意見を聞いても反発しなくなり、七十歳になると、欲望のまにまに行動しても、人としての規範をはずれることはなくなった)──井波律子訳『完訳 論語』

佐々木さんも記しているように孔子の時代の寿命は「当時は半数が35歳までに亡くなり、半数が50歳まで生きた」そうです。ですからその時代の50歳と現在の50歳には大きなへだたりがあることはいうまでもありません。
──50歳で天命がわかっている人なんて、今の世の中にはほとんどいません。(略)ただもし50歳の時点で、「天命を知る」ところまでいかなくても、少なくとも「惑わず」という境地に至ることができたなら、その後の人生は間違いなく行動や判断に無駄やブレがなくなります。──

では、「惑わず」を心がけなければならない50歳とはどんな時期なのでしょう。
──自分の実力がどれくらいで、何が得意で何が苦手か、これから社内でどれくらいのポストまでいけそうかは、おおよそ目星がついています。また「定年」というビジネスマン人生のゴールに向けたカウントダウンが、そろそろ始まる時期です。──

「惑わず」にあることができれば「天命を知る」ことができます。自己を知ることも含まれると思いますが、50歳は次の「知る」へいたるためにも「惑わず」という境地が重要なのです。この時期の「迷い」は自他への誤解を生むことにもなります。

ではそのためになにをすれがよいのでしょうか。心しておかなければならないのはワークライフバランスを考えることです。ワークライフバランスとは仕事と生活の調和のことです。このことを考える時が50歳です。

仕事は生活の糧です。さらにいえば、生活だけでなく充実した人生をおくる糧でもあります。そのために佐々木さんが提唱しているひとつが社会的な活動、地域での活動です。
──普段自分とはまったく違う世界で生活している人の生き方や考え方に触れるのは刺激になります。社会的な活動に参加することのもう一つのメリットは、人的ネットワークが広がっていくということです。──

ここには「会社で得た能力を社会に活かす」という佐々木さんの哲学があります。
──せっかく会社での仕事を通じて、私たちはさまざまな知識や技能、幅広いモノの見方や考え方を身につけたわけですから、その能力を会社以外の場所でも社会貢献に役立てるべきというのが私の考えです。──

その考えを基本にした上での、「50歳からの読書は最高の友人」という読書のすすめであり「中くらいの野心のすすめ」です。それは、自分がぶつかっている“今”に対して悲観的な思いに取り憑かれ、そこに止まることなく前へ進むためのものです。
──私たちは解決困難な問題に直面したときに、そのときの気分に任せていると悲観的な気持ちになります。(略)しかし悲観しているだけで行動を起こさなければ、なにも状況は変わりません。だからアラン(フランスの哲学者)が言うように、「この問題はきっと解決できる。何か解決の糸口があるはずだ」という意志を持って楽観的に物事を考える必要があるわけです。──

さらにマザー・テレサの言葉が引用されています。
「昨日は過ぎ去った。明日はまだ来ていない。私たちにあるのは今日だけ。では始めましょう」
今をどう生きるか、そこにすべてがあります。それだけにかつての仕事中毒(ワーカホリック)のような状態になってはなりません。佐々木さんがいうように50歳が折り返し地点であるならそこからの人生はより自分にふさわしく、充実したものを目指すべきなのです。

生涯画家として現役でありつづけた葛飾北斎の“生”、そして良寛和尚の“死”にふれてこういう一文が記されています。
──北斎のように身体が動く限りは自分がやるべき仕事に取り組み、死を迎えるときには、良寛和尚のように「死ぬる時節には死ぬがよく候」というすっきりした気持ちでこの世を去ることです。──

それがすなわち「一日一日を精いっぱい生きる。いくつになったとしても、今を生きることが、悔いのない人生を全うすること」につながっていきます。

佐々木さんの“ライフ”に裏打ちされたこの言葉はズッシリと響いてきます。

そしてその一方、私たちが置かれている労働・仕事環境が「悔いのない人生を全うすること」につながっているのかを考えるときにきているのでしょう。そのようなことも考えさせる1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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