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監視社会に共謀罪。政府が「国民をバカにしている事実」をまとめてみた
(著:森巣博)
誰もが気づいていながら言葉に出来なかったこと、あるいは権威や“空気(=雰囲気)”に押されていわれるがままに、なんとなく従ってしまうこと、さらに作られた印象に惑わされている目を開かせてくれる人たちがいます。かつての坂口安吾(『日本文化私観』『教祖の文学・不良少年とキリスト』『オモチャ箱・狂人遺書』等の著者)のように反骨に満ちた“無頼派”という人たちです
この本の著者、森巣さんもその系譜に連なる人ではないかと思います。その森巣さんが日本(人)のありようをえぐりだしたのがこの本です。
──利潤の私益化・費用の社会化。これこそ新自由主義のキモだ、とわたしは考えた。それまで「社会資本」として国民の共有財産だったものが、「民営化」の掛け声で一部の人たちのみの私有とされる。──
民営化とはいわゆる岩盤規制に対する規制緩和のことです。この規制緩和の欺瞞性の先例は古く国鉄の民営化に見ることができます。
──旧国鉄の例を取り上げれば、その構図がよく見えた。国鉄が持っていた資産というのは、税金で作られたものだった。つまり国民1人ひとりの財源である。国民が既に持っているものの赤字部分だけは国民に押し付けたまま、利益が見込める上澄みを切り離し、一部の裕福な者たちに売り払った。──
つまり「コストの部分は国民に引き受けさせ(費用の社会化)、それによって実る果実を、一部の人たちのみがむさぼる(利益の私益化)」のが民営化の真の姿でした。今の規制改革を声高に主張する政治にも繋がっています。この「一部のもののみがむさぼる」ことを正当化していたのが“トリクルダウン”という大ウソでした。(なにしろ主唱者の竹中平蔵氏も否定するようになったのですから)。
森巣さんがこう記したのは6年前のことですが事態は少しも改善されていません。それどころか公共の名の下に権力者とその周辺が利権をむさぼる姿はさらにひどくなっています。もはや“公”は社会性を失い、特権階級(権力者や富裕層)の道具と化しているというべきでしょう。
このような歪みを是正するのにはメディアの役割が重要です。とはいうものの昨今では政権の御用メディアのようになっているものも見うけられます。
成立を強行したいわゆる共謀罪法への批判、懸念が国連人権理事会のケナタッチ国連特別報告者などをはじめとして、海外から寄せられました。「自国メディアの不甲斐なさを、他国メディアによって知る」という、この本での森巣さんの指摘どおりのことがこの共謀罪成立後に起きました。メディアの権力監視が不十分である証のひとつではないでしょうか。
──知らなければ、個人にとってその事実は存在しないのと同じである。こういったメディアが「教えない」方式を、「無知の技術」と呼ぶそうだ。メディアがなにをどう報道したかはもちろん重要だが、なにを報道しなかったかも、やはり同程度に重要なのである。──
大手メディアが報道しなかったのはなにか。この共謀罪だけでなく森友、加計問題を曖昧にした恣意的で乱暴な議会運営をした政権与党(とその随伴者)。ごまかしの答弁をし続けている安倍首相、さらには虚偽とも思えるような答弁をし続けた諸閣僚、彼らの言動を表面的にしか報じなかったのが今の日本の大手メディアでした。
──WHOEVER YOU VOTE FOR,THE GOVERNMENT ALWAYS WIN.(誰に投票しようとも、政府が必ず勝つ)という英語の冗句がある。選挙に勝った政党が組閣し政府を作り上げるのだから、この冗句は視点をすこし変えただけながら、当たり前のことを言っている。し、し、しかし問題は、この「政府」という厄介なものなんだよなああ。日本政府は、ちょっと国民を舐(な)めすぎているのではなかろうか。──
メディアがあてにできない以上、このような横紙破りな政権に騙(だま)されないために私たちが心がけなければならないことはただ1つ、自分で考える力を身につけることです。自力で考えることをすれば、政権にすり寄るメディアの「作為的な偏向報道に煽られ、無自覚のまま大手メディアに都合のいい結論に誘導」されることはありません。
監視社会が強まる一方の中で「この自力で考える」ことほど重要なことはありません。というか森巣さんが6年前に指摘したことがいまだにできていなことを反省して、原因をさぐるべきなのでしょう。ここには強まる同調圧力があり、また、広がる格差、差別の中で分断されている自分たちがいるように思えます。
巻末にこのような引用があります。
・いつも元気に朗らかに
・互いに仲よく協力し
・指示や注意をよく守り
・身支度きちんと整えよ(中略)
・作業は正しく順序よく
・脇見と雑談怪我のもと
・わからぬことは指示を待て
これらは長野刑務所「作業安全十訓」だそうです。
──なぜか現在の娑婆に住む日本国民が、意識的・無意識的を問わずに従わされている〈世間の良識〉に酷似する、とわたしなど考え込んでしまったのだが、いかが?──
これをもっともらしい(道徳的)規範と見るのは早計です。「指示や注意をよく守り、作業は正しく順序よく、脇見と雑談怪我のもと、わからぬことは指示を待て」と続けると何が浮かび上がってくるでしょうか。従順に(お上が決めた)ことに従えといっているのと同義です。〈良識〉のいかがわしさ、ここに極まれりです。
ところで、監視社会・共謀罪の施行によって今まで以上に起こりうることが書かれています。警察の取り調べの「任意」(自白)に触れた箇所です。
──憲法上でも、その言葉の本来の意味でも、「自白」とは、「任意」によるもののはずだ。ところが多くの場合、容疑者は「自白」するまで、留置場や拘置所の檻の中で強制的にしゃがまされる。いわゆる「人質司法」である。「自白」しないと、「娑婆(しゃば)」に出してくれない。有罪確定した人間じゃないのにもかかわらず。日本の警察が使う「任意」という言葉は、じつは被疑者のそれではなくて、お上のそれじゃなかろうか、とわたしは疑う。──
共謀罪の容疑をかけるのが警察ということを考えるとこの「任意」の恐ろしさは他人事ではありません。
嘘つきメディア、舐(な)めた政府、踊る国民……。そろそろ現実を見ませんか?
原発事故からのりピー騒動まで、海外から見える日本の不可解さを徹底的にえぐった痛快コラム
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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