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iPS細胞の山中教授、自分を成功に導いた「プレゼンスキル」を全公開
(著:山中伸弥/伊藤穰一)
山中伸弥教授のiPS細胞研究が日の目を見ることができた背景には教授がプレゼンテーションでチャンスをつかんだことがあったそうです。プレゼンテーションの重要性を知った山中教授が自身の経験を振り返りながら伊藤穰一MIT教授とプレゼンテーションの方法、心得を語り合ったのがこの本です。プレゼンテーションが自分の夢を実現するための重要なものであるということがよくわかります。
山中さんが研究を続けることができたのは、幾度かのプレゼンテーションのチャンスに成功したからでした。どのようなものがあったかというと、
1.助教授のポストを得る:研究に適した環境を目指すため。
2.新入生獲得:研究所の魅力を伝え、すぐれたスタッフを獲得するため。
3.研究費・研究時間の獲得:CREST(科学技術振興機構)から予算を獲得するため。
4.海外でのシンポジウム:海外人脈作りのため。
5.CiRA(京大iPS細胞研究所)の設立:医療の実現化を目指すオールジャパン体制の確立のため。
大きく5つのプレゼンテーションの機会があったそうです。どれも研究を進める上で重要な、いずれもその成功によって研究がステップアップできた出来事です。
なかでも最初の研究環境の獲得は、これがなければiPS研究が難しくなるか、そうではなくても大幅に遅れてしまうことになっていたかもしれません。
アメリカでの研究生活を終えて帰国した山中さんは、彼我の研究環境の差に愕然とします。アメリカでは専門スタッフに任せることのできたマウスの世話も自分で行わなければならなかった日本の研究所事情。研究に無理解だった人が多かった中で「研究者をやめよう」という「うつ状態」にまでなりました。
その山中さんに希望の火を再び点したのがアメリカからのヒトES細胞作成成功のニュースでした。この知らせに奮い立たされて山中さんは新たな研究環境を求めます。それが奈良先端大助教授のポストでした。最初のプレゼンのチャンスです。それに見事合格した山中さんは後にこう事情を明かされたそうです。
──私が採用された理由は「この人は、しっかりした教育を受けている」と選考委員が評価してくれたからだということでした。それは、面接で私がプレゼンした内容そのものではなく、プレゼンしたときの、私の「プレゼンスタイル」が評価されたのです。──
確かに研究途上にあるものの内容を判断するのは難しいでしょう。そこで着目されたのは“いかに自分の研究内容をプレゼンしているか”ということだったのです。
──まさに、アメリカの授業で教えてもらったプレゼン術が、私を「うつ」状態から救い出さしてくれたのです。──
この成功がなければ山中さんのノーベル賞受賞は遠回りしたことでしょう。ちなみに山中さんのアメリカで学んだプレゼン術の核心は「ポインターをピタッと止める」ということだそうです。
──説明している箇所を指し示すため、よくポインターを使っていました。その際、内容を強調したいあまり、無意識についくるくると振り回してしまっていたのです。それをほかの受講者から「強調したいのはわかるけれど、目が回る」とか、「やめるべきだ。ポインターはピタッと止めて、使うのは必要最小限にするべきだ」と指摘を受けました。それは、とても印象に残っています。──
どうしてもプレゼンターは自分の思い・ビジョンに熱中するあまり、周りに目がむかず、とうとうと自分の考えだけをぶつけがちになってしまいがちです。けれどそれではかえって自分の思いを伝えられないことにもなったりします。どのような内容であれ、それを受け止めてくれる人がいなければなりません。まして未知の研究内容であったならばなおさらです。自信だけでは通じませんし、また逆に理解してもらおうという気持ちが弱いと思われては元も子もありません。肝要なのはプレゼンターへの信頼です。
ポインターの使い方以外でも山中さんの実践的プレゼン術がコンパクトにまとめられています。そのなかでも興味深いものを紹介します。
・聞き手に合わせてプレゼンの仕方を変えよ。
・スライドにあることをしゃべる、しゃべらないことは描かない。
・ポインターはくるくる回すな。
・聴衆が理解できないのは説明の仕方が悪いから。
・難しいことを理解できるように工夫せよ。
これらが示していることはプレゼンテーションの意義が「ビジョンの“共有”」にあるということだと思います。プレゼンテーションは実は一方向のものではありません。一方向からでは“共有”は生まれることは決してありません。
この本で山中さんは科学者の仕事として「研究内容が50パーセント、それをどう伝えるのかが50パーセント」と共著者の伊藤さんに話していますが、それに倣っていえば、この本の50パーセントは山中さんのプレゼンの(歴史)研究で、あとの50パーセントは超実践プレゼン法だと言えるでしょう。
超実践として取り上げられているのは“Ideas worth spreading”を掲げているTED(Technology Entertainment Design)のプレゼンテーションです。(動画はhttps://www.ted.com/talks?language=ja)
これらを参照しながら伊藤さんはプレゼンテーションのスキルを上げる21の項目をあげています。「プレゼン内容の構成」から「聴衆の参加意識の高めかた」まで、丁寧に紹介されています。先の山中さんのプレゼン術と合わせ身につけたい技術です。
21のスキルの最初にこんな1節があります。
──プレゼンテーションでは、必ずまず「自分」について、なぜ「自分」の話をみんなが聞かなくてはいけないのかを話します。次に、その話されている内容が、なぜ「みんな=われわれ」と関係があるのかというところに持っていきます。そして最終的には、なぜ「今」行動に移さなくてはいけないのかという3つの要素で構成されています。──
プレゼンのアルファにしてオメガだといえる箇所です。当たり前といえば当たり前ですがプレゼンの中心にあるのは「自分の言葉で他人にアイデアを語りかける」ということです。そのためにはまず「権威を疑って自分の頭で考える」ことが求められているのです。
なによりプレゼンテーションは自分の夢・未来を切り開くツールなのです。TEDを見ながらこの本を開いてください。
ところで「普通の会話でのコミュニケーションもプレゼンテーションの一種」なのですから、自分を客観的に見る上でもプレゼン術は重要です。自己検証にも役立つ1冊です。
「研究は半分、残りはどう伝えるか」山中伸弥。
「プレゼンで日常が変わる、面白くなる」伊藤穰一。
ノーベル賞のかげに「プレゼン」力あり!
面接、商談、企画の提案……。たとえ、あなたにどんな名案があろうとも伝わらなければ意味がない。
必要なのは「伝える」技術、「伝える」力。それが「プレゼン」力。
ふたりの「知の巨人」が贈るあなたの未来を変える1冊!
NHK「スーパープレゼンテーション」初の書籍化! TEDに学ぶプレゼン術。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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