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綾辻行人「一人ボケツッコミミステリ」の完成度が凄いことに
(著:綾辻行人)
ツッコミを入れながら、こんなに笑って読んだミステリは初めてでした。
収録されている短編は、全部で5つ。主人公は、「すでに綾辻行人の名で作家になった僕」つまり綾辻氏本人。その綾辻氏が持ち込まれたミステリの「犯人当て」をするという趣向になっています。
つまり作中作、お芝居でいうところの劇中劇を見る感じです。実際、5編目は綾辻氏原案のドラマを綾辻氏が見て、犯人を当てるという設定になっています。
第1話の「どんどん橋、落ちた」は、大晦日の夜、U君なる「見憶えがあるけれども思い出せない大学時代の後輩らしき」人物が、突然、綾辻氏の家にやって来るところから始まります。そして、綾辻氏に「短編なので読んで下さい」と言って出題するのです。
当然、読者である私も一緒に犯人当てをするのですが、U君の回答編を見て、「そんなのインチキだ。ずるい!」と思わずツッコミを入れました。
すると、本文中の綾辻氏もU君に「インチキだ。アンフェアだ」と言い、「汚い。卑怯だ」「そこまでして人を引っかけたいか?」と怒っているではありませんか。
これってつまり、綾辻氏が書いたものを綾辻氏自身が難癖をつけているわけで、綾辻氏の1人ボケツッコミなわけですよ。もう、これは笑わずにはいられませんでした。
それから2年後の元旦、再び現れたU君は、今度は「ぼうぼう森、燃えた」というふざけたタイトルの短編集を持ってきます。
私も、今度こそ、騙されないぞ! と意気込んで2回も読み直したのですが、またしてもU君の策にハマってしまいました。姑息な奴め!
そんなU君に対し、登場人物の綾辻氏は、すっかり不機嫌になってしまいます。そして、「……消えろ」と呟くのでした。
しかし、5年後の綾辻氏の誕生日に、またしてもU君がやって来ます。
今度は、綾辻氏が原案を考えたテレビドラマ「意外な犯人」というVHSのビデオテープを持って。ところが、綾辻氏は、自分で考えたはずのドラマなのに犯人が思い出せないのです。
さすがにここまでくると、私も仕掛けを見破ることはできました。が、犯人の名前までは、当てることができませんでした。
本文でも綾辻氏は、仕掛けは見破ったけれど犯人は当てられませんでした。つまり、著者である綾辻氏は、この程度なら読者も仕掛けを見破るだろうと思ったから、そういう設定になっているわけで、もうさすが過ぎて唸るしかありません。
このほかにも、日本一有名な「明るく平和な家族」(日曜日の夕方に放送されるアレです)を彷彿とさせる一家に起こった事件が、お隣に住む小説家先生から綾辻氏に届けられます。
「伊園家の崩壊」の登場人物の名前や設定だけでもクスッとなるのですが、全員があまりにも悲惨な末路をたどることとなり、これまた笑えます。特にタマが老衰で死に、その後釜になった猫の名前とエピソードも洒落てます。一人暮らしをこじらせ、「明るく平和な家族」の温々(ぬくぬく)とした話について行けなくなってしまった私としては、この手のブラックな話にスカっとする思いでした。
それにしても、自分がいかに「固定観念」に囚われていたのかが、この本を読んで、よくわかりました。
「君、やっと、そこに気付いたか」。本文中の綾辻氏だったら、きっと、こう言うんだろうなぁ。
巻末の自作ガイドで綾辻氏自身が、「綾辻行人の作家歴において唯一『本格ミステリ集』と呼びうる本である」というだけのことはある、決して裏切らない1冊です。
- 電子あり
ミステリ作家・綾辻行人に持ち込まれる“問題”はひと筋縄ではいかないものばかり。崩落して誰も渡れなくなった〈どんどん橋〉の向こう側で、燃える〈ぼうぼう森〉の中で、明るく平和だったはずのあの一家で……勃発する難事件の”犯人”は誰か? 超絶技巧がちりばめられた5つの超難問に挑め! ミステリシーンを騒然とさせた好評の作品集が読みやすい改訂新装版に!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に構成作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp
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