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「政界最強最高のリベラル」が激白! 日本を壊す真のテロリスト
(著:加藤紘一)
今の日本政治(家)の劣化を予見しているかのような加藤氏の言葉が目に入ってきます。
──自由な意見を発信することができなくなった社会のなかで、過去の日本は大きな間違いを犯していったのである。──
さらにこう続きます。
「政治家とは、言葉の生き物である」
「言葉には、おそろしいほどその政治家の地金がでる」
今の日本の政治家は政敵と見なした相手・党派への節度を欠いた攻撃にあけくれ、自分を棚に上げた他者への批難ばかり。それに加えて安倍首相をはじめとして自覚・見識の無い自己正当化するための言葉があふれかえる国会、解釈という名の法の実質的な変更、あってはならない議事録の改変……。
これだけ「言葉」を踏みにじるような国になったのはいつからでしょうか……。
2006年の小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝を批判していた加藤氏の言動に対して実家が放火される事件(テロ行為)が起きました。その事件後、加藤氏はこう発言していました。
──時代の空気が、靖国参拝を是とする首相を選んだ。時代の空気が、テロで言論を封殺しようという卑劣な犯行を招いた。──
この「時代の空気」はどこから生まれたのでしょうか……。あるシンポジウムで佐高信氏の「この時代の空気を作ったのは小泉首相ではないかという発言」を受けて加藤氏はこんな感想を記しています。
──小泉前首相ひとりの言動で、そこまで大きく世の中が動いた、ということはないように思う。なにか、もっと大きなうねりが、いま起きていると感じるのだ。そのうねりが、小泉氏のような政治家を、首相に押し上げた。──
その正体を突き止めようと自身の来歴を紐解きながら考察したのがこの本です。この小泉政権を作ったうねりの遠因に自身の「加藤の乱」があったと記しています。「加藤の乱」とは2000年に起きた森内閣退陣騒動です。
森政権は小渕首相の急逝後に「政治的空白を作るべきではない」という政権党内部の理由によって密室で成立したものでした。つまりこの政権は国民に向けた言葉を発することがないままに成立したといっていいように思います。さらにまた森首相は「日本は神の国」発言に象徴されるように、極めて閉じた空間に向けて言葉を発することが多い政治家でした。これは“既成体制・権力”に安住していたことのあらわれだと考えられます。森首相は内向きの言葉しか持たない政治家だったのです。
政権運営の混迷から支持率を下げた森政権に対する国民の不満は募っていきました。そして加藤氏は「森内閣退陣を求めて行動」をすると表明します。森政権への不信とそこから生まれる閉塞感が「加藤の乱」の底流にあったのです。閉塞感とは、すなわち国民が納得できる言葉を持たなかった、さらに国民の言葉が届かなかった森政権が産んだ空気だったのです。加藤氏がいうように「政治家が言葉の生き物」なら、実は森政権の時代から政治(家)の劣化は始まっていたのかもしれません。
この「加藤の乱」は自民党執行部の切り崩しにあい、不発に終わってしまいます。この「不発」でなにが起こったのでしょうか。加藤氏はこう回顧しています。
──国民の溜まりに溜まったマグマは、出口を求めて蠢動(しゅんどう)していたのだ。(略)マグマの行きついた先は──小泉首相の登場であった。前年末の「加藤の乱」によって行き場を失っていたエネルギーが、小泉氏のもとに集結した。──
不透明な森氏の言葉に比べ小泉氏の言葉は確かに分かりやすいものでした……。
──自分が「こうだ」といい切れば「こうだ」で済んでしまう。小泉氏の政治は「ワンフレーズ・ポリティクス」だと批判されたが、それは昔からなのだ。発言の細部や整合性には、あまりとらわれない。「人生いろいろ」発言が象徴的だ。靖国の問題では、自らA級戦犯を戦争犯罪人と規定しておきながら、彼らが合祀されている靖国神社に総理大臣の地位にある人が参拝に行く。そこに矛盾がある。──
小泉氏は「ワンフレーズ・ポリティクス」で政治を簡略化したのです。不透明な森氏に比べて小泉氏は圧倒的に分かりやすかったのです。けれど、小泉氏の言葉は“意味”という枠を飛び越えて(無視?)“パフォーマンス”となっていました。政治の言葉が意味から、感情・感覚表現の道具へと変貌したのです。
──二〇〇一年からの五年間、国民は小泉氏の吐く勇ましい「ワンフレーズ」の数々に熱狂することになる。一部のメディアがそれ「衆愚政治だ」と評した。しかし、もうこの流れは、後戻りがきかない。国民的な人気のない人は、いくら手堅い実務派で党内の評価が高くても、総理総裁にはなれない時代になってしまった。──
小泉氏は俗耳に入りやすい“友・敵論”を振りかざし、“構造改革(=新自由主義)”を旗印に「自民党をぶっ壊す」と宣言していました。かつては反対していた小選挙区制を最大限に利用し小泉氏は勝利します。けれど、言葉をパフォーマンス(「ワンフレーズ・ポリティクス」化)にした小泉氏は本当は“政治家をぶっ壊した”のかもしれません。
この彼の手法は安倍首相に引き継がれていきました。安倍首相を産んだのは小泉氏だといっていいように思います。「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」が古代ローマを衰退させたといわれていますが、“選挙”そのものが「サーカス」になっているのが現在です。耳障りのいい言葉や呪文のようにいわれ続ける言葉(たとえば構造改革やグローバリズム)で飾られ賑わっているだけのように見えます。この本の「言葉に生き、言葉に死んだ政治家たちの語録」の章に取り上げられた、見識のある政治家は少なくなってしまったようです。
見識といえば、加藤氏はこの本で日本会議の存在とその危険性をいち早く明らかにしていました。またナショナリズムについての加藤氏の考え方にも多く学ぶところがあります。けれど、それと同等に政治の世界において言葉がいかに重要なものであるのかを示してくれているところにこの本の核があると思います。
「言葉には、おそろしいほどその政治家の地金がでる」
この言葉を思いながら今の日本を見渡すと荒涼とした風景が見えます。以前の発言と矛盾したことを発言して意に介さない政治家、成立していない対話(質疑応答)、これらの蔓延は間違いなく危機です。
そして荒れた言論・言葉が飛び交う中で危なくなっているのは実は「言論の自由」です。この本の重要性はなによりもそのことを私たちに考えさせるところにあります。私たちの今を浮かび上がらせてくれる1冊です。
加藤氏の自宅への放火に繋がった靖国問題ですが、A級戦犯合祀に関連してこんな記述がありました。
──靖国神社でA級戦犯合祀に踏み切った松平永芳宮司は、(略)戦時中は海軍大佐、戦後は自衛隊に入り昭和四三年に一等陸佐で定年退官した人であり、その経歴でもわかるように根っからの軍人である。いわゆる神学・国学を学んで正式の神官の道を歩んだ人ではなかった。──
これをどう受け止めるか……これもまた加藤氏の問いかけです。
- 電子あり
加藤紘一はすでに10年前、日本のいまの危うさを見通していた。新しいナショナリズムを提唱する渾身の書。
2006年、衆議院議員・加藤紘一は鶴岡の自宅を焼き討ちされる。実行犯は65歳の右翼団体幹部。なぜ自宅が燃やされなくてはいけなかったのか? その疑問から加藤の探究は始まる。老テロリストを実行に駆り立てた時代の空気とは? そしてその背景にある危ういナショナリズムとは?
今日の安倍政権を支える日本会議に着目し、その危険性にも言及。いまこそ必読の「日本政界最強最高のリベラル」(山崎拓氏)警世の書。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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