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真偽を科学で問い直す──有機、サプリ、添加物、コレステロール
(著:阿部尚樹/上原万里子/中沢彰吾)
食と健康をめぐる話題では、警鐘をならすもの(〇〇は危ない)や健康を増進するおすすめもの(さまざまな栄養素など)まで、どこまで信じていいものやら玉石混交(!?)の見解が飛び交っています。なぜそうなっているのか……、まさしくこの本がいうとおり「最大の問題点は、情報の送り手が一般消費者に押しつける諸々の知見が、本当に正しい根拠に基づいているのかどうか確証は得られない」からです。
──日本では、1980年代後半からいわゆる健康食品ブームや自然食品ブームといった、いささか非科学的な“機能性食品ブーム”が起こり、ある特定の成分を濃縮して錠剤にしたサプリメントのような“いわゆる健康食品”がたくさん登場しました。紅茶キノコ、アガリクス、赤ワイン、アロエ、マカ、青汁、オルニチン、肝油エキス、キトサン、クロレラ、サメ軟膏、白インゲン、ターメリック、冬虫夏草、フコイダン、マイタケ、メシマコブ、ヤーコン、霊芝、ローヤルゼリー等々。──
食と健康に関心を持った人なら一度は耳にしたものが並んでいます。一時は全国を制覇(?)したかのような隆盛を見せたものの、いまではよほどの好事家でないと覚えていないものもあります。
この本では「食品添加物」から始まって、「三大栄養素とビタミン」「サプリメント」「農薬」「遺伝子組み換え」「放射線」等々と広範囲にわたる食にまつわる情報を整理し、その真偽をできうる限り科学的に分析・紹介しています。
なによりも著者の方々が心がけているのが“科学的”であろうとした姿勢です。諸悪の根源視しているかのような「食品添加物」についても、それが食中毒等との闘いのなかで発展、改良されてきていることを歴史を追って詳説されています。また三大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)に抱いている私たちの先入観(?)が正しいものであるか、丁寧に指摘しています。とりわけコレステロールについては必読です。「正しい情報」を伝えるための冷静な筆致はとても信頼できるものです。
話題のサプリメントでは「ポリフェノール」「リコペン」「セサミン」「イソフラボン」「アントシアニン」「カプサイシン」等、多くの栄養素を取り上げ、それらの機能を図解、化学構造を明らかにしながら、それらがどのような機能を持っているのかを明らかにしています。
著者の方々が「本書の目玉」といっているだけに、これらの健康食品、サプリメントを扱った第3章はじっくりと読んでいただきたいと思います。全貌が解明されていないポリフェノール、有効な人と無効な人がいるイソフラボン、リコペン(リコピン)の効能、アントシアニンの効果等、目から鱗が落ちるような話があふれています。確かに、この章の充実ぶりはどのような類書にもまさるものがあります。
詳説されたサプリメントの章に続いてもう一つの本書の特長である「漠とした不安」の正体についての章が始まります。
この「漠とした不安」とは「農薬」「遺伝子組み換え」「放射線」にまつわるものです。「ヒトの健康に問題が生じたという事実報告がない現状」とはいえ、これらが私たちに「漠とした不安」をもたらしているということは疑いがありません。「現時点までの経緯と関係諸機関の対応」は貴重な記録となっています。
ところで、化学農薬の発生にふれてこのような一節が記されています。
──農業の原点から考え直してみましょう。農薬や化学肥料を使わない農業に「自然農法」という言葉を使うことがあります。ですが、この言葉の使い方がそもそもおかしいのです。人間がある土地を「畑」にする、つまりもともと自然に生えていた草木をすべて撤去し、単一の作物だけを植えたら、それはもはや自然の状態ではありません。1種類の植物しかない畑には、その植物を好んで食べる動物が殺到して大繁殖します。自然のままの雑木林なら多様な植物と動物が競合していますから、1種類の害虫が大繁殖できる条件はありません。──
著者が考えている科学的であるとはどのようなことなのかが象徴されている一節です。いわれてみれば当たり前ですが「きれいに整地された畑には、何種類もの雑草が短期間にどんどん伸びます。人間の目には畑が雑草に侵略されたように見えますが、事実はその逆で、人間に土地を侵略された自然が、ありのままの状態に戻ろうとしているのです」。
雑草や害虫の脅威(自然の驚異)から農業を守るために作り出され、活用されたのが農薬でした。といっても農薬のすべてを肯定しているわけではありません。強い農薬による「健康被害は深刻」でした。もちろん農薬への規制(毒性試験)は厳しくなり「最近の第三世代では、天敵や微生物を使った、毒性のない生物農薬」の開発が進められています。ハチなどの昆虫やダニ類が農薬(!)として登録されているのを始めとして、納豆菌など菌類の研究も進んでいるそうです。
「農薬(残留農薬を含めて)」への対処、「遺伝子組み換え」の現状、殺菌作用としての放射線処理だけでなく食品に含まれた「放射線」の問題への国の取り組み方も簡潔にまとめられています。科学的な知見を踏まえたこの部分、解明されていないことを含めて正直に記したこの部分を読まれてどう判断するか、それは個々人の判断の問題になると思います。
でもこれだけは忘れてはならないと思います。
──いま私たちに必要なのは、新鮮かつ正確な食の情報なのです。──
高齢化、“健康寿命”への関心からこれからも、虚実ないまぜて食と健康にまつわるさまざまな情報が発信されていくと思います。いったい有効なものはどれなのでしょうか。有効性はどのようにはかることができるのでしょうか。そのような疑問を持った時、この本の著者たちの姿勢を思い浮かべるべきだと思います。偏見をできうる限りしりぞけたこの姿勢を。「本当に食の安全を脅かすものは何か、本当に効能がある食品は何か、本当に食べてはいけないものは何かという疑問に真摯」に答えようとした著者たちの願いが十分に伝わってくる良書です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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