あせらないで。治したい気持ちがあれば大丈夫!
始まりは拒食か過食か、経過や治り方はさまざま。
まず5分間、吐くのを我慢して! 悪循環は断ち切れます。
摂食障害とは
拒食症と過食症を合わせて「摂食障害」といいます。
《拒食症》
食べることを拒否し、極端にやせます。しかし自分ではやせていると思わず、体重が増えることや食事量を増やすことに強い不安や恐怖を感じます。病気であることを認めたがらず、治療には無関心か抵抗感を示します。
《過食症》
食欲を抑えきれず、短時間に大量に食べたり、一日中だらだらと食べ続けたりします。その後、吐くか、下剤を使って、体重が増えるのを防ぎます。そんな自分に嫌悪感や罪悪感をもち、抑うつ気分になります。
摂食障害は、診断がつきやすいのに治療が難しい病気です。この病気は、体の症状にだけ注目していては治りません。薬物療法だけでは治らないのです。摂食障害の発症には心の問題があるからです。本人が自ら問題を解決しようという姿勢が必要です。生き方の問題とも関係しています。
体の症状:病的にやせて、低栄養・無月経になる
摂食障害で必ずといっていいほど現れるのが月経異常です。極端にやせると、月経が来なくなりますし、過食で体重はそれほど低下していなくても、月経のサイクルが乱れます。
病気が長引くと体の働きを支える栄養バランスやホルモンバランスが乱れ、全身に不調が現れます。動悸や不整脈などの危険な症状が現れたり、腎臓や肝臓などの臓器にも影響が及びます。皮膚や髪のトラブルなど、女性にとってつらい症状も見逃せません。過食に嘔吐を伴っていると虫歯ができたり、下剤の乱用があると電解質異常が起こったりします。
心の症状:体重が100グラム増えただけで絶望する
心の症状で、最も大きいものは「太ることへの恐怖心」です。特に拒食症ではやせ願望と相まって太ることを極端に恐れ、体重が少し増えただけで「自分はダメだ」と絶望します。体重や体形を客観的にみることができません。体重が増えることへの恐怖を心の底に抱えているため、いつも頭の中は食物のカロリーと体重のことでいっぱいです。そして体重の増減に一喜一憂するという不安定な状態になります。
一方で、やせによる低栄養が心のダメージを悪化させます。考える力がなくなって、集中力が低下し、いろいろな考え方ができなくなります。
回復につながる8つの扉
【1】目標をもつ
治そうと決心したときから回復が始まります。決心がにぶらないうちに、目標を定めましょう。
【2】考え方を変える
摂食障害では、実際の体形とは関係なく、ボディ・イメージが偏っています。体重と体形のとらえ方を修正しましょう。
【3】食事をとる
拒食症の人も過食症の人も、食事の習慣や内容が乱れていて、栄養バランスがくずれています。ご飯は病気を治す「薬」だと考えましょう。
【4】記録をつける
記録することで、食習慣を含め、自分の状態を客観的にみられるというメリットがあります。食事日誌をつけて改善点をみつけましょう。
【5】過食をやめる
過食は、リバウンドを招かないようにゆっくりやめていきます。毎日100円ずつ「過食節約貯金」にまわすのも手です。
【6】嘔吐をやめる
摂食障害では、嘔吐が習慣化している人や、下剤を常用している人が少なくありません。嘔吐や下剤の使用を少し我慢しましょう。
【7】自己主張訓練
摂食障害のある人は、自分の意見を言うのが苦手で、気づかないうちにストレスをためてしまいます。自分の感情をとらえて口に出してみましょう。
【8】悩みを話す
悩みやつらさを抱えこんでいると、気持ちに逃げ場がなくなってしまいます。食べることではなく、誰かに話すことで和らげることを考えましょう。
生命にかかわる病気、でも自分しだいで治る病気
拒食症や過食症は「食べれば治る」または「食べなければ治る」という病気ではありません。それができないから病気なのです。その背景には心の問題があります。生命にかかわることもあるので、軽くみるのは厳禁です。
こうした誤解をもたないよう、病気について正しく知りましょう。そのうえで、自分の考え方や行動を変えて悩みを解決していけば回復します。「自分を変える」「治そう」という決心が大切です。
監修者プロフィール
切池信夫(きりいけ・のぶお)
大阪市立大学名誉教授。1971年、大阪市立大学医学部卒業。同大学附属病院臨床研究医、北野病院精神科、ネブラスカ州立大学医学部薬理学教室、大阪市立大学教授をへて2012年より名誉教授。専門は摂食障害の基礎と臨床。日本摂食障害学会前理事長。