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【泣ける怪談】怖すぎる実話!──木原浩勝蒐集の最新シリーズ
(著:木原浩勝)
夏。夏といえば怪談である。
このたび講談社文庫から発売となる『文庫版 現世怪談(一)主人の帰り』(ぶんこばん うつしよかいだん(一)しゅじんのかえり)の著者は「新耳袋」「九十九怪談」(つくもかいだん)でブームを巻き起こした木原浩勝。著者は執筆活動の他、現在、怪談トークライブや怪談ラジオ番組で活躍中だ(ラジオ番組ではその放送局のポッドキャストダウンロード数記録を更新中なのだとか)。その語り、ライブ感そのままに収めたのが、今回の新シリーズである。
さて本書に収録されている18話は、全て著者が日本各地で収集した体験談だ。話の年代は戦後間もないころから東日本大震災のころまでと幅広く、語り手の年齢性別もまちまち。一見すると何のつながりもないように思えるが、実はそのラインナップには2つの傾向がある。
1つ目。「恨み呪い祟る」といったホラー系恐怖は描かれていない。
巻頭に収録されている「午前一時の女」を見てみよう。会社の同僚が執拗に飲み会を断るのはなぜだろう、と疑問に思って追求していたら、なんとその同僚が幽霊と会うのを楽しみにしていて……という話である。語り手には恐怖の感情もあるが、むしろ幽霊とのご対面という物珍しい体験に興味津々であることがうかがえる。
他にも、上京してきた母に留守番を頼んだら、誰もいないはずの玄関からノックの音が聞こえてきたという「母の留守番」。幼いころに一度として抱っこしてくれなかったおばがちょっと不思議なジンクスを抱えていたことを語る「両の手」など、怖いには怖いのだが、どちらかといえば少し不思議な印象を残す話が多い。
怪異は日常の延長線上にふわりと忍び込む。だが、それは必ずしも聴者・読者を震えあがらせる結末に至るわけではない。後書きにて「怖くなければ怪談ではないが、怖いことが怪談の全てではない」と筆者は語る。その意図に沿ったラインナップと言えるだろう。
2つ目。家族を扱った話が多い。
これまた後書きにて述懐されているように、本書は表題作「主人の帰り」を筆頭に、「全十八話中、およそ半分の十話が親子などの身内がなんらかの形で怪異と拘わる話で占められて」いる。単行本が刊行されたのは東日本大震災のころ。家族の絆や親しい人間関係が一瞬で崩れる恐怖を前に、多くの人がその細いつながりを再確認しようとした時期でもある。
表題作「主人の帰り」も家族の繋がりを実感する話だ。現世では離れ離れになっても、今は亡き主人の方から会いに来てくれる。遠い国から、まず予想もできない形で。語り手の「私」は驚きこそするものの、嬉しそうに主人を迎え入れる。そこにあるのは恐怖ではなく、仲の良い夫婦の持つ温かみだ。
どれも読めば様々な恐怖に囚われていくことは間違いない。しかし読み終えると何だか胸が熱くなるのだ。『現世怪談』は、愛情、絆、人の営みなど日々の生活で忘れつつある大切なものに気づかせてくれる実話怪談集である。
レビュアー
ミステリーとライトノベルを嗜むフリーライター。かつては「このライトノベルがすごい!」や「ミステリマガジン」にてライトノベル評を書いていたが、不幸にも腱鞘炎にかかってしまい、治療のため何年も断筆する羽目に。今年からはまた面白い作品を発掘・紹介していこうと思い執筆を開始した。
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