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【悲報】中国人のマナーや爆買いは、千年不変の国民性だった……

2016.06.12
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──外国人旅行者が昨年日本で使ったお金は約3兆4771億円と、半導体など電子部品(約3兆6000億円)、自動車部品(約3兆4000億円)の日本の輸出額に匹敵し、まさに日本経済を支えているといっても過言ではない。そして、その4割超を占めるのが中国人だ。──(毎日新聞 2016年2月4日 【爆買い 中国人はなぜ? 理由は「命」と「カネ」】より)

流行語大賞にもなった「爆買い」が、「日本経済を支えている」というのはこの数字を見ても明らかです。もはや無視できない経済効果になっていますが、なんとなくこの“爆”は大量に買うということだけでなく、中国人の行動(マナー)もあらわしているように思います。この本で解明しようとしている「大声で話す」「無責任」「謝らない」に象徴される中国人の行動がそれにあたります。

まず気になったのは陽さんが取り上げた「阿Q精神」というものです。阿Qは魯迅の小説『阿Q正伝』の主人公で、その特徴として「現実生活において、阿Qは失敗者の地位にいますが、それを正視せず、みだりに尊大ぶって、自分をごまかしてばかり」いるという心のありようだそうです。つまり「阿Q精神」とは、

──主にはやはり「自慰(自分で自分を慰める)」、「自酔(自己満足)」、「自欺(自分で自分をごまかす)」というものです。ここでさらに注目したいのは、「阿Q精神」における「自酔」は、自己満足の中に妄想、現実では実現できないような夢も含まれていることです。──
この「阿Q精神」は「精神勝利法」としても発揮されています。「精神勝利法」とは、自分にとって不本意な現実を心の中で自分にとって都合よく取り替えて自分を守るということです。陽さんによると、これは中国人の「劣根性(悪い根性)」と呼ばれるものですが、最近では「精神安定剤として一役を果たし、庶民の生きる支えにもなっている」そうです。なぜそのようになっているのかというと、

──現代の貧富の差が激しく、平等でない社会は、ある程度の「阿Q精神」がなければ生きられないと、中国人は悟っているようです。──

長所では、“足りるを知る”“他を羨望しない”という自己規範になります。でも一方では“現状を追認する諦念”、さらには“事大主義”にもなりかねません。また、苦痛、矛盾の根本は解決されていないのですから、不満は内向し、なにかの理由づけがあれば噴出することもあるのではないでしょうか。時には向かうべき対象を違えた“八つ当たり”としても起こりえるのです。

中国人の精神にはもうひとつ、ある共通の“志向”がうかがえます。それが「大」を素晴らしいものとする文化です。楊さんのいう「大」の文化とは思わぬところにもでています。それが「美」という文字です。この文字は「羊」と「大」という文字で作られています。つまり……、
──羊の肉がおいしいから美しいというのではなく、大きな羊こそおいしいのです。この「大」が美しいという美意識は、中国文化、中国人の生活のさまざまな面に現れます。──

中国人は「羊が大きければ美しい」という発想を持っているのです。これは「太る」を素晴らしいと思うことにもつながります。「大柄な女性を美女」と感じているのです。詩でも「胖(はん)を以て美と為(な)す」と歌われました。胖とは豊かなこと、太っていることを意味しています。ようするに“大きいことはいいことだ”(昭和42年に森永チョコレートが流行させたCMのキャッチフレーズです)なのです。

陽さんはこの精神が中国人の声の大きさにもつながっていると考えています。この本の中で柏楊(台湾の作家)さんの「醜陋的中国人(醜い中国人)」と題された講演が紹介されています。中国人の内緒話を喧嘩と勘違いしたアメリカ人の話に触れて、
──なぜ、中国人の声はこんなに大きいのでしょうか。声の大きい方が筋が通っていると思われるからではないかと、柏楊さんは解釈します。また、中国人は礼儀作法が悪く、荒っぽい性格だから、大声を出したりするんだという人もいます。しかし、私は、これもやはり「大」の中国文化からきちんと考える必要があると思います。──

中国人にとって“大”の意識はきわめて重視されています。そのことを陽さんは『詩経』をはじめとする古典文学や史書から導き出し、今にも通じていることに着目してほしいと記しています。“大”がそのまま“大声”になるのかどうかはわかりませんが、“大”は“正統性”“正統性”を保証するものだと考えているのです。

この“大”は政治利用(!)されました。政治利用というと疑問に思うかもしれませんが、陽さんはその例として「国威発揚に直結された」ものとして次の例をあげています。「大鳴大放(だいみんだいほう)」「大躍進」「文化大革命」「大批判」「大字報」「大弁論」「大串聯(だいかんれん)」。これらすべてが権力維持・権力闘争の中で使われました。「大」という文字を冠することで、“素晴らしいもの”“優れたもの”として喧伝されたのです。

──中国人の精神に根付いた「大」の美意識が、こうしてそのまま政治運動の推進に利用されました。文化大革命育ちの私にとっては、複雑な思いとともに忘れられないものです。──

陽さんのいう「面子」や「謝らない」などの中国人の特徴は「大」と「阿Q精神」との関連で解き明かせることができそうです。

この本では中国人の性格を形作っているものを歴史をさかのぼって解き明かしています。王朝交替や戦乱を経てきた中国人の知恵ともいうべきもの、歴史的文化ともいうべきものが蓄積されて作り上げられたものが中国人の性格なのでしょう。中国人が中国の歴史的文化を血肉化しているならば、私たちは私たちの歴史、文化的に蓄積されていたものを持って中国人に向き合う必要があるのではないでしょうか。とはいってもナショナリズムのぶつかり合いではなんの解決にもなりませんが……。そのようなことを考えさせてくれた1冊でした。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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