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外向型人間が軽視され、内向型が世界を変える【理由とテスト】

内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える
(著:スーザン・ケイン 訳:古草 秀子)
2016.05.24
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──今日、社会が求める性格タイプはごく狭い範囲に設定されている。成功するには大胆でなければならない。幸福になるためには社交的でならないと、私たちは教えられる。──

理想とされる人物像を思い浮かべると、積極的、陽気さ、活動的などの性格が求められているようです。これにカリスマ性や自己主張を加えてもいいかもしれません。これらの特徴を持っている外向的な性格の外向型人間がもてはやされ、ビジネスの世界でも成功を収めていると思いがちです。一方、対する内向型人間は内気、リスク回避的、神経過敏などと考えられてあまり肯定的にはとらえられていません。

この考えに疑問を呈し、内向型人間の力をみなおそうとしたのがこの本の主張です。もちろん人間の性格を単純に二分しているわけではありません。一見、外向型に見える人でも実は内向型だったりということがあります。外向型人間が多そうに思えるアメリカでも、ケインさんによれば、実際は「三分の一から二分の一は内向型」で、「たくさんの人が外向型のふりをしている」のが実態だそうです。

とはいっても、「ふり」をするということは、やはり内向型が不利だと思われているからなのでしょう。ケインさんはなぜそう思われているのか、その実態を求めてハーバード・ビジネススクール(HBS)の生徒に取材を試みます。そこで出会ったのは「成績も社会的ステータスも外向性次第です」と信じて疑わない生徒たちでした。ケインさんが見た「HBSの教育の本質は、リーダーは自信を持って行動し、不十分な情報しかなくても決断しなければならない」という信念に支えられたものでした。これがHBSの考えるリーダーシップ像なのです。そこにはさらに、カリスマ性が必要とされてもいました。なぜなら、不十分な情報であろうとも周囲を納得させるにはカリスマ性が求められるからです。

このHBSの取材を中心とした外向型人間の神話を追うくだりは、アメリカ社会論とも読めるもので内向・外向の性格分析とならんで、この本を特異なものにしています。「外向型は成功を、内向型は悲惨な結末になる」という観念はどこから生まれ、定着したのか、なぜアメリカでは雄弁が好まれたのか、ケインさんはさまざまな視点から考察していきます。それは自己啓発が盛んな日本でも参考になることが多いのではないでしょうか。

では、本当に外向型人間はビジネスで成功することが多いのでしょうか。どうやらそうではないようです。とても興味深い分析が記されています。

外向型人間は自己肯定感を求めて行動しています。さらにその根底には「報酬に対する敏感さ」(報酬指向)が見てとれます。ところがこの自己肯定感、報酬指向がマイナスにあらわれることがあるのです。それは外向型人間が失敗に直面したときです。

──外向型の不可思議な行動がさらに興味深いのは、間違った行動をしたあとにある。(略)内向型は次に移る前に時間をかけて、なにが悪かったのかを考える。だが、外向型はそこで速度を落とさないどころか、かえってペースを速める。──

「報酬に敏感な外向型は、目的を達することに集中してしまうと、なんだろうと邪魔はされたくない」と感じることが多いのです。“失敗した自分”ということにとらわれすぎて、それをとりかえそうとするあまりでしょうか、正確な判断や他者の意見を聞くことができなくなっているのです。金融危機をもたらした一因に「押しの強い外向型人間」の存在があったのではないかとも指摘しています。けっして外向型がビジネスで優位というわけではないのです。それかあらぬか、近年ではHBSでも「すばやく決断する独断的なタイプを重要視するリーダーシップは間違っているかもしれないと考える兆し」が出てきました。

この本では外向型の落とし穴が数多く紹介されていますが、それは不当に(!)内向型がおとしめられているからです。外向型人間を理想の性格として、極端にいえばそう仕向け、教育してきた歴史があったからです。ちなみにアメリカでこの外向型を理想としたのはここ100年のことだそうです。

誤解してはいけないのは内向型か外向型かの二者択一ではないということです。内向型の特徴である“熟考”と外向型の特徴である“行動”とのバランスをとることが肝心なのです。なにしろ「内向型と外向型とでは、うまく機能するために必要な外部からの刺激のレベルが異なるのですから」。この特性を踏まえて、自分自身の性格の特徴を知り、内向型の人が無闇に外向型人間になろうとすることもなく、また、外向型の人も内向型人間を疎んじることがないようにしなければなりません。

ところで、報酬指向(外向型の特性)、脅威指向(内向型の特性)のチェックがこの本にのっています。
1.欲しいものを手に入れると、興奮してエネルギーが湧いてくる。
2.欲しいものがあると、いつも全力で手に入れようとする。
3.絶好の機会に恵まれたと感じると、たちまち興奮する。
4.いいことがあると、ものすごくうれしくなる。
5.友人たちと比較して、恐れることが非常に少ない。
6.批判されたり怒られたりすると、非常に傷つく。
7.誰かが自分のことを怒っていると知ったり考えたりすると、ひどく心配して狼狽する。
8.なにか不愉快なことが起こりそうだと感じると、とても気持ちが高ぶる。
9.重要なことなのにうまくできないと不安になる。
10.失敗するのではないかと不安だ。

1から5までが報酬指向を、6から10までが脅威指向を示しているそうです。さて、自分に近いのはどちらでしょうか。

ケインさんがいう外向型(行動人)、内向型(熟考人)の特徴をあげておきます。自分がどちらに近いか、同僚、友人がどちらに近いかを知って、人間関係を円滑にすることを考えてみてはどうでしょうか。

行動の人:意気軒昂、明るい、愛想がいい、社交的、興奮しやすい、支配的、積極的、活動的、リスクをとる、鈍感、外部指向、陽気、大胆、スポットライトを浴びるのが好き。

熟考の人:思慮深い、理性的、学問好き、控えめ、繊細、思いやりがある、まじめ、瞑想的、神秘的、内省的、内部指向、丁寧な、穏やか、謙虚、孤独を求める、内気、リスク回避的、神経過敏。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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