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日本人に愛された血沸き肉躍る、波乱万丈の物語
吉川英治、柴田錬三郎、横山光輝、宮城谷昌光、北方謙三等々の作家に共通している作品が『三国志』です。ゲームを加えたらあるいは本場中国より日本の方が『三国志』という名を冠した作品・コンテンツは多いかもしれません。
羅漢中という人が原作者と言われていますが井波さんによると
「羅漢中(生没年不詳)の役割は、大量の先行する三国志物語を整理・編纂し、首尾一貫した長編小説に仕立て上げるところにあったといえよう」
ということらしい。
原作者論議はともあれ、さまざまな形で作品化されている『三国志』物語ですが、まずはこの本が元になっているのだと思います。もちろん『三国志』自体は正史の一つで紀伝体で書かれています。陳寿の手になるこの正史はあまりに簡潔なため後世の裴松之が詳細な註をつけています。(著名な『魏志倭人伝』はこの正史の「魏書」第30巻烏丸鮮卑東夷伝倭人条のことです)
そしてこの正史を元に人物を描き込み、時の民衆の欲求、期待に添う形で大きくなったのが『三国志演義』です。そこには勧善懲悪や判官贔屓のようなもの、あるいはあやかし(幻術)や未来兵器(!)のようなものも登場します。
けれどやはり醍醐味は豪傑たちの友情であり、英雄話、あるいは忠孝をめぐるものではないでしょうか。袁紹、呂布、曹操、劉備、孫策、諸葛亮、司馬懿と続々登場する豪傑たち。
どの豪傑が好きかでその人の嗜好がなにか分かるかのように力強く描かれた登場人物たち。もちろん美女とのロマンスもあり、第1回の桃園の誓いから始まる全120話、読み出したら止まらない物語が持つ語りの魅力が溢れています。美酒の酔いのように一気に読み進めるに違いありません。
『水滸伝』、『西遊記』、『金瓶梅』と並んだ4大奇書(「奇書」とは「世に稀なほど卓越した書物」という意味だそうです)の名作を井波さんの名訳で楽しんで欲しいと思います。
井波さんの註は正史(『三国志』だけでなく『史記』等も含まれます)との相違や出典にまで目配りをきかせた素晴らしいものです。物語の奥行きに歴史をも感じさせるものになっています。
けれどこの物語を読み終えて感じるのはある切なさとでもいったものです。この魏・呉・蜀の三国はともに滅び、司馬炎(司馬懿の孫)の晋が覇者として統一したのです。物語に登場した英雄たちも誰もが最後は非命に斃れたともいえるかも知れません。
三国志に登場した英雄の死がそのままで国土の統一をもたらすことはなかったのです。
けれどその英雄たちは過酷な歴史を超えて多くの人びとに愛され語り継がれてきました。ひとたびは中国を統一した晋も短命で終わり、東晋として中国南部に追われ、北部は五胡十六国時代、継いで南北朝時代という混乱の時代が始まります。
思い返せば漢(後漢)の滅亡によって三国鼎立とはいえ戦乱はやむことはなく、晋の天下も続かず隋も短命に終わり、唐までの長い混乱はこの三国志の時代から始まったのかもしれません。この『三国志演義』の英雄たちに思いをはせながらも、そんなことを感じてしまいました。
西暦220年、後漢王朝の崩壊後、群雄割拠の時代の中から魏、蜀、呉の三つ巴の戦いへと発展した。その約1000年後。複数の「三国志」の物語や資料を整理・編纂し、フィクショナルな物語世界を構築してたのが、本書『三国志演義』です。中国文学に精通した訳者が、血沸き肉躍る、波乱万丈の物語を、背景となっている時代や思想にも目配りしたうえで、生き生きとした文体で翻訳した決定版です。
西暦220年、後漢王朝の崩壊により乱世が到来。やがて、その中から魏、蜀、呉の三国が生まれ、三つ巴の戦いへと発展していった「三国時代」は、陳寿による『三国志』(3世紀末)や『新全相三国志平話』(元の至治年間に刊行とされる)、芝居などの民間芸能の世界で、連綿と語られ続けてきました。そして、「三国時代」から約1000年後。いくつもの「三国志」の物語や資料を整理・編纂し、フィクショナルな物語世界を構築して、現在知られる「三国志」物語のイメージを確立したとされるのが、羅貫中の白話(口語)長篇小説『三国志演義』です。
本書は、中国文学に精通した訳者が、その血沸き肉躍る、波乱万丈の物語を、背景となっている時代や思想にも目配りしたうえで、生き生きとした文体で翻訳しました。
全120話中、第1巻は、「黄巾の乱」の勃発による後漢王朝の危機到来から官渡の戦いまでの第30回分を収録。桃園で義兄弟の誓いを結ぶ劉備、関羽、張飛をはじめ、曹操や呂布、孫堅・孫策・孫権ら主要メンバーが登場し、群雄割拠の乱世の様相が描かれます。
既刊・関連作品
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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