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天寿をまっとうするか、不本意に死ぬか。「命を落とすリスクを減らす」暮らしの処方箋

2024.05.21
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厚生労働省が行った2020年の「令和2年患者調査(確定数)」によると、日本ではおよそ174万2000人が脳血管疾患にかかっています。年齢的には、男性の70代(約36.5万人)、女性の80代以上(36.1万人)がピークの年齢です。脳血管疾患のうち、脳梗塞の割合は7割強を占めていますから、およそ122万人が脳梗塞を発症していることになります。脳梗塞にはいくつか原因がありますが、全体の30%くらいは心臓が原因となる心原性脳梗塞(しんげんせいのうこくそく)です。しかも、心原性脳梗塞は片麻痺(へんまひ)や言語障害などの後遺症が残りやすく、介護や介助といった生活支援が必要になり、生活の質が著しく落ちてしまいます。

まもなく50歳。両親ともに健在ながら、毎年、実家に帰るたびに、年老いた両親の姿に得も言われぬ寂しさを覚える年齢になった。さらには日々の不摂生がたたり、軽く30を超えるBMI数値を叩きだす自分自身にとっても「血管や心臓の健康」に対する不安は切実なものだ。

「血管の健康」というテーマは健康系の書籍やムックの定番であり、コンビニなどにも常にこの手のタイトルのムックが並んでいる。もちろんそれらのムック本、書籍にも専門家の監修は付いているものだが、この本の著者・天野篤氏は少し格が違う。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀した、まさに「日本屈指の心臓外科医」なのだ。

本書は全5章の構成になっており、第1章「60代、70代の日常生活」では、健康寿命をまっとうするための、睡眠・食事・排泄を中心とした生活習慣の改善について取り上げている。
特筆すべきはこの手の本の定番である「血糖値コントロール」や「脂質のコントロール」に留まらず、「噛む=咬合力が弱い人は心臓疾患になりやすい」という研究報告も取り上げ、食べ物を経口摂取する大切さにも触れていること。さらにはこの手の本の多くが「薬に頼らない」ことを是としている中で、サプリメントや降圧剤などの効果的な利用も推奨していることだ。

高血圧の人が増えている状況でも、寿命が延びているのは、血圧を下げる降圧薬が年々進化しているからです。現在の日本では大きく分けて6種類の降圧薬が処方されていて、それぞれ新しいタイプもどんどん開発されています。いずれもよく効くので、高血圧の人が血圧をきちんと管理するためには欠かせません。

第2章は「60代、70代と『暑さ』『寒さ』のこと」。高齢者にとっては季節の変わり目などの気温の変化のみならず、風呂はもちろんトイレでの排便のためにいきむだけでも血圧は乱高下しやすく、倒れてしまう危険がある。「正しいエアコンの使い方」や「脳の温度の冷やし方」など、日常的にすぐに実践できるリスク管理の方法にも触れている。

第3章「60代、70代は病気があって当たり前」では、日常的に病気や服薬と付き合っていくための注意事項、血管の不摂生から心筋梗塞、脳梗塞、心不全などへと繋がっていくメカニズムについて語っている。

第4章「60代、70代と新型コロナ」では、特に高齢者にとっては大きなリスクである新型コロナの予防法と、万が一、感染した時のための備えについて。

最後の第5章「60代、70代と心臓病。その予兆と対策」では、頻脈や心房細動などの心臓周辺のリスク要因に加え、心臓病のリスクを大きく増大させるストレスなどの要因についても触れている。私自身は両親のためにこの本を読んでいたつもりが、50歳手前の単身者として社会問題となっている「孤独死」予備軍である自分にとっては以下の記述で、

「孤独は心臓病の発症リスクを大きく上昇させる」――。
以前から複数の研究で明らかになっている結果が、2023年6月、米国であらためて報告されました。米国の保健福祉省が公表した報告書「私たちの流行病:孤独の蔓延(まんえん)と孤立」によると、孤独=社会のとのつながりの欠如は、心臓病のリスクを29%高めるといいます。ほかにも脳卒中のリスクが32%、高齢者の認知症のリスクは50%高まり、「早死にする可能性」も60%高くなると記されています。

まさかの「自分へのクリティカルヒット」を食らうことになった。

血管や心臓の健康を保つこと=動脈硬化を防ぐこと、という前提のうえで、食生活や運動などの生活習慣に加えて口腔の健康、気温の変化ほか日常に潜むリスク、服薬、精神的な安定感など、あらゆる切り口で「命を落とすリスクを減らす」暮らしの処方箋。巷に類似本は数あれど、必要な情報は過不足なくこの一冊に詰まっているように感じた。

  • 電子あり
『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』書影
著:天野 篤

60代、70代は、病気とともに生きている。
だから、通院、投薬があって当たり前。
問題はそんな日々のなかで、不本意に死ぬのか、天寿をまっとうするのか──。
上皇陛下の執刀医にして、世界屈指の心臓血管外科医が超わかりやすく記した、「命を落とすリスクを減らす」暮らしの処方箋。

●第1章=60代、70代の日常生活
健康長寿をまっとうするための、食事からの生活習慣

●第2章=60代、70代と「暑さ」「寒さ」のこと
風呂、トイレ、睡眠……。気温の変化に備えることが長寿へと導く

●第3章=60代、70代は病気があって当たり前
病気と薬。トラブルを招かない付き合い方

●第4章=60代、70代と新型コロナ
感染しないための予防法と、万一感染したときへ備えておくこと

●第5章=60代、70代と心臓病。その予兆と対策
超高齢化でますます増える心臓病。いかにわが身を守るか――

レビュアー

奥津圭介 イメージ
奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』、『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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