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2023.10.06

レビュー

「弱すぎる重力」はなぜ宇宙を支配する力になりえたのか? 重力のからくりを解き明かす!

山田克哉先生によるからくりシリーズの第6弾となる本書『重力のからくり 相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか』。『E=mc2のからくり』から5年、待望の新作です。
本書は、重力って何?質量とはどう違うの?というような基礎的な疑問から、相対性理論とはどういうことなのか?といった人類の叡智に「触れる」ことができる名著でした。科学の枠組みと哲学の深淵、両者の間で繊細にバランスをとりつつも、読み終わった後の風景が小さくも確実に変わる、そんな印象を受けました。
本レビューを書いておりますわたくしは、ゴリゴリの文系でございまして、このような物理?の数式などは厄年越えるまで一度も触れ合ったことのない人生を送っております。そんな人間でも本書の解説は食べ慣れた食堂のお気に入りのメニューのごとく、スルッと飲み込むことができました。なぜなら、「数式の部分を読み飛ばしても大体のことが理解できるから」です。

各章はざっくり“問い”、“比喩的な解説”、“具体的な解説”、“数式を使った解説”、“補足”というような構成になっており、好奇心をうまく引き付けたのちにしっかりとした解説に流れていきます。その際に数式に恐れをなして読み飛ばしても「そういうことなのね」というような形でざっくりと理解できています。なので、これから本書を読もうとする方には、数式に怯(おび)えて本書を読まないのは勿体無い、ということです。

例えば質量は不変だが、重力は引っ張る相手によって変化する、という話。ニュートンの発見で常識である万有引力についての話。今までに伝記や教科書などでさらっと触れているだけのこれらの常識は、一般の生活者にとって「そういうものなのだ」という解像度ではないでしょうか。特に文系の人たちにとっては。そんなわれわれを「重さ」と「質量」の違い、そして「力」の本質とは何か?という深みへと導いてゆきます。そして一般的な読者にとっては新たな概念となる、「慣性質量」と「重力質量」の概念が、明快かつ洗練された言葉で解説され、私たちの理解を一歩先へと導いてくれるはずです。

そして段階的に知識の足場を作っていったのち、アインシュタインの一般相対性理論にも触れ、計量テンソルやアインシュタイン方程式といった、時空の曲がりと重力場を表す複雑な概念を、わかりやすく脳内で概念として受け止められるくらいに噛み砕いて解説がなされるため、相対性理論に関する概念が、この宇宙を形作っている基本原理を表しているものなのだと、理解というにはおこがましくもより強いロマンを感じ神秘に思いを馳せる瞬間が訪れるでしょう。
例えば、本書では三次元(縦、横、奥行き)に時間を加えた四次元時空がしばしば登場します。SF小説などではよく目にするものですが、そこに重力という力を考慮すると、空間は歪む(曲がる)。しかしながら四次元時空では空間と時間が分離できないから、空間が歪んだら時間も歪む。この説明は、今までで一番納得がいくものでありました。

本書はダークマターやダークエネルギーにも触れながら、これらの未解明の要素が宇宙に与える影響を深掘りしていっています。そして物理学の世界は、量子重力理論の完成と原始重力波の観測という、強いキーワードで彩られています。これらは、次の世代の科学や、宇宙について探索していくための大切な足掛かりであって、こういった最新の情報を易しい言葉で解説してくれる本書は貴重だと感じました。大人になってからこれらの知識を更新する機会なんてほとんどありませんからね。

願わくば、中学生、そして高校生に本書を手に取ってもらい、理系の学問は(=数式は)怖くないんだ!というように受け取って欲しい、そう強く思います。そしてン十年前の自分も本シリーズがあったら、もしかしたら理系ルートもあり得たのかな、なんてことも思いました。好奇心が揺さぶられる1冊です。

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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