作家のわたし、離婚と手術を経たアン、そして作詞家のカズ。カリフォルニアのアパートメンツで子ども時代を過ごした友人たちが、半世紀ほど後の東京で再会し、旧交を温める。
「おじいさんになったね」「六十近くなると、夢見がちになるのよ」。そんな軽口が飛び交う、大人の男女の心地よい距離感を、コロナ禍の社会状況に寄り添いつつ、たゆたうような表現で描き出す川上さんの文章に、いつまでも浸っていたくなります。
どこかご自身の人生とも重ねながら、3年にわたって丁寧に紡いできた本作に横溢しているのが、年を重ねていくことの豊かさってこういうことなのかもしれない、という温かさです。
「あ、また時間に捕まえられる、と思った。捕まえられるままに、しておいた」。幼い頃の懐かしい記憶に思いをはせるひと時を表現したこの一文の美しさ! 川上さんの新たな代表作になることは間違いありません。
──文芸第一単行本編集チーム 斎藤梓
レビュアー
文芸第一単行本編集チーム