体の養生 心の養生
イラストのレシピ本って、ありそうでなかった。この本にはたくさんのレシピが掲載されているが、料理の写真や正確な分量、焼き時間といった指定はない。しかし、そのざっくりしたレシピに従うと、短時間で不思議とおいしいおかずが出来上がる。
読むレシピだけでなく、レシピソングがギターのコード付きで掲載されていたり、人間の歯の形から「何をどれくらい食べるのがバランスの良い食事なのか」を知ることができたりと、日々の暮らしを楽に、そして少し楽しくしてくれる「心のうるおい」「知恵」があちこちにちりばめられている。
『毎日簡単! イラストおかず グラタン皿一枚でできる手間いらずレシピ』は、STVラジオ「河村通夫の桃栗サンデー」で大人気の「グラタン皿で楽々料理」のレシピをはじめ、季節ごとの旬のおかずや作り置き、漬物、調理といった食に関する「至福の知恵」を、いつでも手元で見返すことができる本としてまとめたものだ。
手をかけずに旬の素材を生かして四季を楽しむ110レシピが収録されている。
「食」による河村さん的な健康法や、未来の人達に伝えておきたい「本々の事」など、体はもちろん、心の養生にもなることを伝えたいという気持ちからこの本は生まれた。河村さんが50年のラジオ放送の中で伝えてきた先人から学ぶ「楽々人生虎の巻」が、若杉佳子さんのイラストとともに世の、また私たちの心の一隅を照らしてくれる。
グラタン皿ってすごい
この本のレシピには、特別な調理器具や細かな計量は必要ない。そのかわりに大活躍するのが、こんな感じの「グラタン皿」だ。
この本のレシピの大半は、グラタン皿に切った材料と調味料を入れ、オーブントースターなどで加熱するだけだ。調味料を計るときも計量カップやスプーンは登場せず、カレースプーンやお玉で行うというシンプルさだ。
我が家では食器棚の奥にしまい込まれていたグラタン皿だが、いざ使ってみるとこれがすごい。焼き魚や煮魚、野菜などのグリルはもちろんのこと、豚の角煮だってできてしまう。しかも、皿の中で調理が完結し、そのまま食卓に出すこともできるので洗い物も少ない。今までは何だったのか?という活躍ぶりだ。
河村さんのラジオのリスナーからは、こんな声が寄せられる。
我が家では、オーブントースターにちょうど入る、大きめの楕円形のグラタン皿を2枚購入しました。出かけて帰宅が遅くなる日も、一皿には野菜を並べ、もう一皿には魚を並べて冷蔵庫に入れておき、帰宅後は、それをオーブントースターで焼いて、グラタン皿ごと食卓へ。もう、憂いなしです!
この本のレシピの多くは、魚介を使ったものだ。それもそのはず、「グラタン皿で焼き魚」は
とてつもなく美味。
そして楽。
だからだ。
焼き魚に限らず、グラタン皿料理が特別においしくなるのには理由がある。陶器やガラスでできたグラタン皿は、熱せられると石焼きと同じように遠赤外線を出す。皿の中の魚や肉、野菜が芯までふっくらおいしく仕上がるのだ。
面倒くさそうな煮魚も、オーブントースターに任せきりにできるのも嬉しい。食材と調味料をセットすれば、出来上がりまでの時間を自由に使えることで、忙しい日々の自炊のレパートリーが結果的に増えるという人も多いだろう。
この本のレシピには、調味料の分量指定はない。「割合」は決まっていることもあるが、同じスプーン(やお玉)を使いまわして量るからそれを守るのも簡単だ。
楽なのはもちろん、ムダもない。「自炊は手間がかかるから」「作りやすい分量があるから」といった理由で、鍋やフライパンを使った自炊はつい作りすぎてしまうという人にも「グラタン皿レシピでその日食べたいものを一人分だけ」というスタイルを試してみてほしい。
河村通夫流「やってみなはれ」
驚くのはグラタン皿のポテンシャルの高さだけではない。この本には「これをグラタン皿で焼いたら、こんな風になるんだ」「こんな食べ方、あるんだ」そんなアイデアが満載だ。半熟目玉焼きだってグラタン皿でできるし、
「絹ごしが、ゆば豆腐に変化」というフレーズに惹かれたこのメニューは、いつもの豆腐がグラタン皿調理で新鮮な食感に変わるのが楽しい。
「やってみなはれ」と通夫さんがおっしゃるように、試してみればわかるのですね。
豆腐を焼いてみても、目玉焼きに海苔を添えてみても、リスナーから寄せられた言葉の通りの小さな感動を味わえる。
暗記するまでもない簡単さ、しかしシンプルな中に少しの驚きがあり「食べてみたい」「そんな方法もあるのか」と感じるレシピたちは、あれこれ作ってみたくなる。
この本に収録された暮らしの本々(もともと)と呼ばれるちょっとした暮らしのヒントについて、河村さんの語る言葉がある。
これらの頁(ページ)は、覚えるというよりは時々目を通したり、また気になったことを確かめるために、時折、用いてくださればと思います。先人の言葉の「座右の書」の意(こころ)はこのような意味合いだと思っております。
これは、この本のレシピについても言えることではないだろうか。旬の食材を、手間なく、無駄なく、おいしく楽しむために、いつも手元に置いて見返したい。この本は多くの人にとって、そんな1冊になるだろう。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019