「米粉パン」はよく目にするし、食べたこともある。でも「生米パン」は初めて聞いた。粉じゃなく米そのものを使うというのは、いったいどういうことなんだろう?
タイトルの通り本書は、生のお米を使ってパンを焼くレシピブックである。米粉のように加工された商品を買う必要はない。家にあるいつものお米、それも古米や割れ米でも問題なく作れるというのだからびっくりだ。また、いわゆる「小麦のパン」と違うのは、小麦はもちろん卵、乳製品、白砂糖を使わないという点にある。それらを原因とするアレルギー疾患を持つ方にとっては、大きな利点だろう。
そんな生米パンの生みの親は、ヴィーガン料理家の著者である。大学を卒業後、現エコール辻東京 辻日本料理マスターカレッジで学んだのち、飲食店や洋菓子店などで勤務した。その後、出産を機に夫からヴィーガンの生活を提案されたことで、ヴィーガン料理を学ぶように。そうして生のお米からパンを作る「生米パン」を開発した。現在は自身の料理教室である「Shiori's Vegan Pantry」を主宰しながら、生米パン専門店の監修や数々の書籍を刊行している。
では実際に作ってみよう。過去の経験を活かし、「レシピブックはまず隅から隅まで読むことが肝心」と考え、ページをめくる。すると折り返しに書かれた言葉が目に飛び込んできた。
ミキサーでぜんぶ混ぜて、
発酵も1回だけ!
……これは困った。というのも、我が家にはミキサーがない。手元にあるブレンダーで代用できないものかと続きを読むも、道具の説明欄には「なお、ハンドブレンダーはおすすめできません。」としっかり書かれていた。
ここは助言に沿って、実家からミキサーを借りることにした。まさか作る前に関門があるとは思わなかったが、考えてみるとミキサーを使うのは久しぶりで、それはそれで楽しみになってくる。ほかに常備していなかったドライイーストとメイプルシロップも買い出し、ミキサーの到着を待っていざ調理! もっともシンプルな「基本の平焼きパン」をフライパンで焼いてみた。
材料はたった6つ。まずは1合よりやや少なめのお米を、軽く洗って2時間以上浸水させる。調理過程としてはこの浸水時間が一番長く、次は発酵にかかる時間で、ミキサーにかけたり焼いたりする時間はそれ以下と短く済んだ。また小麦のパンと違い、発酵が1度だけというのも時間の短縮に一役買っていた。なお道具の一覧にあった「オーブンシート」は両面にシリコン加工がされていればよいようで、常備していた「クッキングシート」で代用した。
浸水後、水を切った米と残りの材料をミキサーに入れ、攪拌する。途中、何度かその様子を確認する時には、巻末に収録された「生米パンに関するQ&A」が助けとなった。このコーナーでは、攪拌のポイントが写真付きで解説されているだけでなく、フライパンに敷く紙の切り方や火を入れた後のパンの切り方までもがレクチャーされている。「やっぱり事前に全体を読み通すのが大事」と頷きながら、作業を続けた。
ちなみに私は2回焼いてみたのだが、1回目は発酵があまり進まなかったようで、ふくらみがイマイチだった。それがわかったのは、2回目のふくらみがよかったから。2回目はドライいちじくを入れたこともあり、発酵具合が見た目でよりわかりやすく、ふたを開けた時には思わず声をあげて喜んでしまった。著者いわく、どんな発酵具合でも「『失敗』ではありません」とのことだったが、ふくらんでいる方がパンに見えて楽しかった。
焼き上がりはこんな感じ。
「きれいに切りたいのなら必ずしっかり冷ましてから」という著者のアドバイスを目にしていたものの、焼き上がりの見た目に食欲がわき、手でちぎって食べてみた。もちもちとした食感は米粉と同じかそれ以上で、ピザやナンをもちっとさせた感じに似ている。一方、パリッとした表面は焼き立てのおせんべいのようで、ほのかにお米の香りが漂った。
そして何より小麦のパンと違いを感じたのは、食後の腹持ちのよさだった。1回目はあまりの美味しさに、一度に全部食べきったところ、数時間経ってもお腹が空かない。見た目はパンでも、原材料はお米なのだと実感した。
さまざまなアレンジレシピも載っている本書。焼き慣れてきたら、他の形や味にも幅広く挑戦できる。この本をきっかけに、あなたもぜひ生米パンの世界へ!
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。