吾輩は飯を炊くことにした
自炊派の人からも「人の作ったご飯が食べたい」という声を聞くことがあります。ごく普通の定番料理でも、誰かが自分のために作ってくれた料理はとてもおいしく感じると。そしてもしもそれが、家事のできない飼い主のために、飼い猫が作ってくれたものだったら……?
『デキる猫は今日も憂鬱』は、家事ができないズボラなOL・幸来(サク)と、彼女のために料理・掃除・洗濯など家事全般なんでもこなす大きめの黒猫・諭吉(ゆきち)との日常を描いた物語。
ある雪の日、凍えて動けなくなっていた野良猫の諭吉は、会社帰りの幸来に拾われます。しかし、連れていかれた先は散らかり放題のゴミ屋敷。家事ができない幸来は、それでも部屋の中に「諭吉の家」を作り、自分はゴミの中で寝てしまいます。
自分の身の回りのことは一切できない幸来だけど、疲れていても、具合が悪くても、諭吉の世話だけは欠かしません。そんな優しい幸来のいるこの家こそが自分の居場所だと気づいた諭吉は、幸来との共倒れを防ぐべく、家事に目覚めます。幸来に笑顔になってほしい一心で、諭吉はおにぎりを作るためのご飯を炊くのでした。
空前絶後のデキる猫が誕生した瞬間です。
それ以来、諭吉が作り上げてきたご飯・おかずの数々のレシピがこの1冊に。『デキる猫は今日も憂鬱 公式レシピBOOK 諭吉ごはん』は、「幸来と同じものが食べたい!!」「諭吉と同じものを作りたい!!」そんな願いをかなえる「デキ猫」初のオフィシャルブックです。
「あのシーンのアレ」がそのまま作れます
見てください、このかわいくて彩りの良いお弁当を! 諭吉が作るごはんは、和食や、ベーシックな家庭料理が中心の定番メニューで構成されています。これはハムカツ、ニンジンのきんぴらに卵焼きなどがぎっしり詰まった「ハムカツ弁当」! 中でも、幸来の同僚が絶賛する「諭吉定番の卵焼き」のレシピはずっと気になっていたもの。卵焼きの味付けって、甘い派・しょっぱい派と好みが分かれるし、冷めると、できたてのふわふわ・じゅわじゅわ感はなくなるし……。おいしく作るのは結構難しい。諭吉のテクニックが知りたいと思っていました。
マンガでも諭吉が作り方を教えてくれていましたが、諭吉は「目分量&お弁当にピッタリの量」でサクサク作ってしまうけど、本書では、「作りやすい量&キッチリ計量」で作れるレシピなので安心です。作ってみると、冷めてもふわふわで食感もなめらか、しかも心なしか卵の色も鮮やか。これはぜひお弁当に入れたい!
定番メニューだけでなく、「絶対おいしいだろうなあ」と思っていたメニューも収録されているのがうれしい。
たとえばこの「牛こま肉と夏野菜のスタミナカレー炒(いた)め」!
ご飯もビールも進みそうじゃないですか。
調味料の合わせ方や野菜を入れる順番など、マンガだけではわからなかったところも説明されているので安心して作れます。
食べたさのあまり、雑な盛り付けになりましたが、おいしかった!
カレーに合わせるにはちょっと意外に感じる調味料が使われているのですが、作ってみるとピリ辛&さっぱりで意外なおいしさ! その調味料のおかげか、オシャレな味でもありました。ご飯だけでなく、パンにも合いそうです。疲れて帰ってきて、これが出てきたらうれしいだろうなあ……。
「デキ猫」の読者としては、このように「あのシーンのあのご飯」を、実際に食べられるのはうれしい限り。諭吉のレシピはお母さんっぽいベーシックさに、意外な調味料やひと工夫が加わって、おいしさだけじゃなく、見た目も美しく仕上がるのが特徴。
そして、曲げわっぱのお弁当箱や猫の箸(はし)置きなど、「デキ猫」ファンならどこのシーンか一発でわかる、漫画そのままの料理のスタイリングも見どころです。
漫画でもこのお弁当の豪華さ、おいしさは伝わってきましたが、レシピを見るとブロッコリーにも諭吉のひと手間が加えられていて、絶対おいしいやつ! とワクワクします。
定番メニューを華やかに見せる、野菜や果物、ウインナーなどへのひと工夫も、実に諭吉っぽい。たとえば、これは幸来のお気に入りの箸休め「リンゴの花」。お昼にデザートを食べる余裕はなくても、こんなほんのり甘酸っぱい一品がお弁当にあると癒されますね。
このメニューには、「諭吉は○○していますが、はじめての人はまずこのレシピからはじめてみてください」と注意書きがあるのもニヤッとしてしまいます。デキる猫は初心者にもやさしいのです。
デキる猫の工夫が満載! 「ホッとする味」の作り方
『デキる猫は今日も憂鬱』のオフィシャルブックである本書ですが、普通のレシピ本として考えても優秀! ひとつひとつはシンプルな定番メニューなので、「もう作れる」という人もいると思います。しかし、お弁当や定食といった「1食分のメニュー」として考えると、組み合わせ、彩りや味のバランスが絶妙で、おいしいだけじゃない「ホッとする味」になるんです。
さらに、同じ料理でも、メニューによってレシピが微妙に変わるのも、「デキる猫」である諭吉らしい。
たとえば卵焼きのレシピは3種類もあるし、豚汁も、お弁当と夜ごはんでは具材も仕上げ方も違います。でも、確かにメニュー全体でみると、そのほうがバランスいいんですよね……! 定番メニューを「1食の食事」として、おいしくまとめ上げる諭吉のアレンジ力に脱帽です。
この細やかな工夫や調理テクニックを、諭吉が子猫時代から頑張って身につけ、今では淡々とこなしてしまうのかと思うと、デキる猫は本当に有能だと、感慨深くなります。「デキ猫」ファンにも、「食べるだけでほっとするおいしいごはんを作りたい」という人にも、おすすめの1冊です。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019